彼女〜大人しい瞬きのこと〜

夕刻。彼女に宛てたLINEの下書きだけ書いた。まるで異国の地に不時着するチャレンジャーの気持ちだ。それは、途方も無いものに石を当てるような、無為な気持ちだ。

テキストを打つ。文字を入力する。予めて考えた言葉が溢れる。焙れる。炙れる。そして漏れ出す。

連続しない気持ちは再起動を繰り返す。再起動を繰り返した後、きっとフリーズするだろう。一瞬で微動だにしなくなる。ピタッと止まる。完全に止まる。泊まる。そして其の後で、大人しい瞬きを繰り返す僕を彼女は笑うだろう。多分きっと。

そんな大人しい瞬きは、いつか不毛なにらめっこをする僕たちを少しだけ和ます。潮騒の中に引きこもっていた温和な感触を思い起こさせる。

隣町の終末論を吹聴する彼女。珊瑚礁の生命線をなぞる彼女。淡水魚の解体ショーに見入る彼女。色んな彼女がいる。色んな彼女がいた。そこにいた。

そんな彼女の名前を僕はまだ知らない。

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