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 校正者の友人、音引屋さんの作品展示即売会へ行ってきた。

 音引屋さんとは6年前、ある校閲講座の受講生同士として知り合った。フリーランスの校正者として働くかたわら、クリエイターとしての顔も持っている彼女は「自分ブランド」を展開している。その作品が一度に見られる機会が、不定期に開催される「サロン・ド・オンビキヤ」である。
 コミケやおもしろ同人誌バザールにもよく出店しており、そちらは何度か見にいった。アイテム(手帳など)を何度か買ったこともあるが、「サロン」に来るのは初めてだ。
 会場の雰囲気は写真を見ていただくとして、作品紹介をしていこう。
 彼女が作るものは、まずは同人誌。『文章校正のしをり』という校正マニュアルが代表作だ。校正者が作る校正マニュアルは、文字表記を統一する方法や、ストーリー・登場人物の不整合をチェックする方法なども具体的に書かれている。同じ校正者として「ああ、この人はこうやっているんだ」とわかって興味深い。
 驚くのは、鉛筆出し(コメント)の書き方についてのくだりだ。「この語は本来◯◯◯という意味がありますが、近年△△△という意味でも使われているので、ママでよいでしょうか?」と書くという。ああ、これがほんとうに著者に敬意を込めた書き方だ。わたしはここまで丁寧に書いていただろうか。「~でよいでしょうか?」としか書いていない気がする。今後、真似して取り入れることにしよう。
 この本は校正マニュアルとして優れた内容だが、それだけではない。表紙や文字のフォント、レイアウトもよみやすく書かれていて、書店に置かれていても遜色ない。つまり「同人誌」のレベルではない。そう、店主である音引屋氏は、校正者として優れているだけでなく、編集者、デザイナーのセンスも備えている。まさに校正者兼クリエイターなのである。
 そんな彼女が作るアイテムは校正マニュアルを始めとする同人誌だけではない。さまざまな用途の手帳がずらっと並んださまは壮観である。
 わたしはこの手帳を買いに鎌倉まで来たのだ。
 まずはお薬手帳として使っている「トラベラーズノート」である。背の高い縦長の手帳だ。表紙が何十色もあり、「襲の色目(平安貴族の装束の配色)」を使って上下にグラデーションをかけてある。見ているだけでもため息の出る美しさで、どれにしようか散々迷ったあげく、秋の「朽葉(くちば:濃紅と濃黃のグラデ)」と、四季通用の「秘色(ひそく:瑠璃色と薄色のグラで)」にすることにした。
 いま使っているノートは、前回コミケで求めた「椿(つばき:素襖と赤のグラデ)」だが、もうすぐページが終わってしまう。ここで2冊補充しておけば当面は安心だ。
 それから、このノートにつけるカバー。表紙の色がわかるように透明な地に、ワンポイントでネコの絵がついている。ワンポイントの色は、白・青・赤とあったが、「可愛い!」と目に飛び込んできた赤を選んだ。まねき猫のクリーニングクロスも、良い眼鏡拭きを探していたところだったので渡りに船と追加。
 イスを出していただいたので、座ってほかの同人誌(イラストも玄人はだし!)を読んだりしていたらどんどんお客さんが入ってきた。さすがは同人誌バザール常連。こんなにファンがついているのだ。
 邪魔になってはいけないと、会計を済ませて出てきたが、買ったものは手作りのネコ付きバッグに入れてくれる。細部まで、最後まで手を抜かない。こういうところも校正者の仕事なのだ。
 来年はサロン(展示即売会)は開かずに同人誌バザール出店だけにするそうだ。けれども再来年、音引屋10周年を記念してばーんと大掛かりに開催するというので、それを楽しみにギャラリーを後にした。

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