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便利な訳語。なるべく使わないで! #2

 今日は「便利だけどなるべく使わないで!」の2つ目、「より」を解説してみる。

~することにより、より~に:〈助詞+副詞〉

 以下の英文と訳文がある。

Analyzing these fact bases and options in light of your corporate objectives, investment and risk profiles, and other factors will bring more clarity to a set of strategic choices and reveal the priorities, investments and organizational evolution it will take to succeed.
こうしたファクトベースやオピニオンを、企業目的、投資・リスクプロフィール、その他の要因に照らして分析することによりより明確に戦略選択が可能となり、成功を導くプライオリティ、投資、組織改革が明確になります。

 「~することにより、」「より~に」と「より」が連続している。実に読みづらいが、多く見られる訳文だ。

 では、具体的にどう変えたらよいか。まず、辞書を見て2つの「より」を文法的に分析してみよう。

分析することにより
    ●「により」:助詞「に」+助詞「より」の複合助辞。原因や結
     果を表す。            (基礎日本語事典)
より明確に
    ●「より」:副詞。          (基礎日本語事典)
     状態を表す語を修飾して、その程度がいっそう加わるさまを
     表す。もっと。いっそう。    (小学館日本語新辞典)

 最初の「より」は助詞、次は副詞。品詞も働きも異なる2つの「より」がつながっているのだ。これでは読みづらいのも当然である。

1つめ、前置詞の「より」を「と」にしてみる

 そこで、最初の「分析することにより」をどのように変えたらよいか。
 一案として、同じ意味となる「分析することで」または「分析すると」としてみよう。並べてみると次のようになる。

こうしたファクトベースやオピニオンを、企業目的、投資・リスクプロフィール、その他の要因に照らして分析することにより
⇒こうしたファクトやオピニオンを、企業目的、投資およびリスクのプロフィール、その他の要因に照らして分析すると

 少しすっきりした。
 助詞の「より」は多義語である。『すぐに使える実践日本語シリーズ ことばをつなぐ助詞』では、「より」には次のような働きがあるとしている。例文とともに転記する。

比較の基準:彼はわたしより足が長いです
場所の起点:わたしは京都支社よりまいりました
時間の起点:本日よりクリスマスセールを行います
境界:この川よりむこうは川崎市です
限定:生まれた国よりいいところは他にない
強調:どこよりも家が一番いいです

 助詞の「より」にはこれだけの意味があるのだ。多用すれば意味がわかりづらくなるのは当然である。

2つめ、副詞の「より」を「いっそう」にしてみる

 次の「より明確に」は「いっそう明確に」でどうだろう。before→afterで並べるとこうなる。

より明確に戦略選択が可能となり、成功を導くプライオリティ、投資、組織改革が明確になります。           
いっそう明確に戦略を選べるようになり、成功につながるプライオリティ、投資、組織改革が明らかになります。

 そう、「より」には前置詞だけでなく副詞もある。
 けれども、副詞の「より」を削るのは簡単である。「いっそう」に置き換えればよいのだ。これだけでも「より」の連続を防ぐことができる。
 さて今回の文では、結果として「より」を両方削った。ずっと読みやすくなったと思う。前置詞の「より」だけで多くの働きがあるのに、副詞の「より」が連続して来たら、わたしならこの先をもう読みたくなくなる。
 前後半、どちらも「より」を削ったbefore→afterを並べると、「より」を削った効果がよくわかると思う。

こうしたファクトベースやオピニオンを、企業目的、投資・リスクプロフィール、その他の要因に照らして分析することによりより明確に戦略選択が可能となり、成功を導くプライオリティ、投資、組織改革が明確になります。           
⇒こうしたファクトやオピニオンを、企業目的、投資およびリスクのプロフィール、その他の要因に照らして分析するといっそう明確に戦略を選べるようになり、成功につながるプライオリティ、投資、組織改革が明らかになります。


 こうして比べると、ずっとすっきりしたことがわかると思う。
 では最後に、「~より」を減らすための今日のポイントを再掲しておく。

  • 「~することにより」→「~すると」にする(助詞の「より」を消す)

  • 「より~に」→「いっそう~に」とする(「副詞の「より」を消す)

 繰り返すが「より」は多義語である。「より」しか使えないところだけに限定して「より」と書き、その他の「より」は減らすことが、わかりやすさにつながる。
 まずは、副詞の「より」を「いっそう」にするだけでも違ってくるはずだ。こちらは単なる置き換えなので難しくない。ぜひ、これだけでも今日からやってほしい。

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