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「1分間・速音読」で楽しく集中力・記憶力アップ!

 明治大学の齋藤孝教授は、「1分間・速音読」を提唱している。今日は、ことばの仕事をしている人にこの実践をつよくお勧めしたい。

1分間・速音読の効果

(1分間・)速音読では、次のような効果が期待できます。「集中力アップ」「注意力アップ」「頭の回転が速くなる」「記憶力が高まる」「語彙力が高まる」「テキパキと話せるようになる」「文学の教養が高まる」「文豪の語彙力が身につく」。

「プレジデント 2022.4.15号」より

 昨年、プレジデントを読んでぜひやってみたいと思った。方法については「プレジデント」や、教授の著書『楽しみながら 1分で脳を鍛える 速音読』に載っているが、下にまとめてみた。

1分間・速音読の方法

  1. 名作を選ぶ(太宰治「走れメロス」や芥川龍之介「蜘蛛の糸」など好きな作品でよい)。冒頭かクライマックス、印象に残るシーンを370-400文字くらい、段落単位で決める。

  2. タイマーを準備する。キッチンタイマーでもスマホの時計ツールでもよい

  3. タイマーをスタートさせて、作品を読む。

  4. ふつうの声ですらすら読む。イントネーションはつける。間違えても読み直さない。

  5. かかった秒数を記録する。

  6. 二回か三回繰り返す。

 これだけである。わたしは『1分で脳を鍛える 速音読』を使って、好きな作品から読んでいる。https://www.amazon.co.jp/dp/4800911346

 この本では、見開きぺージごとに「1分間で読めるくらいの文章」が載っているので、自分で選ぶという手間もなく簡単だ。頭からやっても、好きな作品からやっても、その日開いたページをやっても、どれでもいい。
 わたしは好きな作品から読んでいるが、1日3回繰り返し、同じ文章を3日間使う。つまり計9回読んで次の日は別の文章を選ぶといった具合だ。

1分間で予想外の楽しさ

 まず、梶井基次郎「檸檬」から始めた。まずは「一体私はあの檸檬が好きだ」から始まるくだりを3日間読み、有名なクライマックス「私が最後に立ったのは丸善の前だった」を含むシーンを次の3日間で読んだ。レモンの色がどんどん鮮やかに際立っていく様子が、まざまざと描かれている。
 描写にすぐれた文豪の作品と、自分は今一体になっているのだという高揚感が、わずか1分間✕3で得られる。黙読しているときにはこの昂奮はなかった。速音読するとこの気持ちも味わえるのである。
 次は幸田露伴「五重塔」を選んだ。言文一致体の先駆け、二葉亭四迷「浮雲」から5年後に発表され、言文一致体を推し進めた作品だ。
 「材(き)を釿(はつ)斧(よき)の音、板削る鉋(かんな)の音、孔を鑿(ほ)るやら釘撃つやら丁々かち〱(かち)響き忙(せわ)しく」と、建設現場の活気ある様子が、音読すると二重に味わえる。
 音読しているだけで、文豪のリズム感が染み込んでくるような感覚がある。繰り返すが、わずか1分間✕3回でこの感覚にたどり着ける。

「青空文庫」で全文読むのも楽しい

 いまは太宰の「駆込み訴え」の冒頭を読んでいる。作品名すら聞いたことがなかったので、青空文庫で全文を読んでみた。
 青空文庫というのは、著作権フリーの作品を電子化し、誰にでもアクセスできる自由な電子本として「図書館」のようにインターネット上で公開されているものだ。「駆込み訴え」「青空文庫」と検索すると検索トップに出てくるので、誰でも瞬時に名作が読める。
 というわけで、全文を読んでから、また本書に戻って掲載箇所を音読するとまた楽しい。始まりはこうだが、こんな風に進んでいって、ラストは……とわかる。さらに、本作の解説を読んでみると、冒頭から想像していたストーリーとはまったく違って、ちょっと驚いた。
 知らない作品を読むと、こんな楽しさも味わえる。毎日このルーティーンが待ち遠しい。楽しみながら集中力や記憶力、語彙力を伸ばせるなんて夢の方法である。
 前述したとおり、ことばの仕事をしている人にはぜひ勧めたい。『1分で~』には、「80代 90代も 夢中になる」とのコピーが付いており、つまり高齢者向けでもあるため、本書の文字は26級(6.5mm角)とかなり大きい。シニアグラスをかけて仕事をしていたり、文庫本の文字を読むのがつらくなってきている年齢の人(わたしだ!)でも安心の作りになっている。

口が回るようになってくる

 冒頭に著者が挙げた効果を述べたが、そのほかに自分が実感しているのがこれ。早口言葉と同じで、「早口でもきちんと発音できるように」なってくるのだ。講師もしているわたしにとって必須のスキル。というわけで、講師業の方も、ぜひお勧めしたい。
 繰り返すが、本を買う必要もない。青空文庫で好きな作品の好きな箇所を選び、時間を測って1分間速音読するだけ。さすがは齋藤孝教授のメソッドである。


今日の久松 梶井基次郎の『檸檬』といえば、この作品にインスピレーションを得てつくられたさだまさしの「檸檬」を思い出す。舞台を京都から御茶ノ水に移し、檸檬を聖橋から投げる。中央線快速電車の赤を背景に檸檬が落ちていくくだりは、車体すべてが赤かった昔の中央線で想像するとこのうえなく美しい。

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