足と向き合う(別視点から見るパンプス強制問題)

「女性にハイヒールを強制するな」という運動が目立っているけれど、これをフェミニズムとは別の視点で見ることはできないだろうか。この運動を分解すると「足に合った靴を履いていない、あるいは調達できない」人々の姿が浮かび上がってくるのだ。

日本の靴文化がいつから始まったか、はっきりとは知らない。少なくとも明治維新以降だろう。着物がメインだった頃には多くの人が下駄や草履を履いていたのだから、どう見積もっても、日本人がいまのような「靴」と付き合うようになってから、200年も経っていない。ひょっとしたら、私たちは、そろそろ足元の問題について真剣に考えるべきなのではないか。

というのも、私も靴に悩まされてきたので……。何せ既製品ではフィットするサイズがない。それは、足が大き過ぎるのでも小さすぎるのでもなく「薄い」から。私の足は薄い。足の甲がとても低くて、日本人の平均に届いていないのだ。そのせいで、普通の靴を履くと甲が靴に当たらず、そのまま足が前に滑り、爪先を圧迫する。足が痛いあまりに、やむをえず路上で靴を脱いだこともあった。ハイヒールでなくても、「足にフィットしていない靴」は痛い(当然だ)。

少し説明すると、靴には長さ(22.5cmとか、25cmとか表記されているあれ)と、厚み(EE、2Eなどと書かれる)の表記がある。厚みのほうは、Eの数が多いほど厚く(足の甲の部分が高く)なる。靴売り場にある大抵の靴は2~3Eなのだそうだ。

自分の場合、もう少し薄くて1Eだった。そうするとどうなるか。婦人靴売り場の店員に
「この売り場に1Eの物は2点しかございません、これとこれです。デザインは出ている物だけ、お色も一色です」
と言われる。

さらに、1Eよりも薄いD、C、B、Aというサイズもあり、書いた順に高さが低くなっていく。実は足の厚みは体の変化によって変わるので、紐靴を履いて足を絞るようになった結果、自分の足の高さは、1E→Dになった。こうなると普通の婦人靴売り場では合う靴が調達できない。それで専門の靴屋さんにお世話になっている。

ハイヒールでなくても、男性で革靴を履いていても、案外「足に悩みのない」人なんていないんじゃないだろうか?靴売り場には、大抵「痛いウオの目に」「足にできたタコに」と、足の悩みを解消するグッズが売られているけれど、それ、靴をちゃんと選べば、解決できたりしませんか?と思う。

だから「女性にハイヒールを強制するな」だけじゃなく「みんな足に合った靴を履こう」と言えたらいい。具体的には、足のサイズを測る専門家(シューフィッター、という)のいるお店で採寸してもらうとか、詳しい店員のいるところで買うようにするとか、お金に余裕のある人はオーダーメイドで作ってもらうとか。

そしてもし、企業が従業員にハイヒールを履いてほしいなら、全員の足を採寸し、それに合った靴を作らせて支給するくらいでもいいだろう(問題は他にもあるけれど、あくまで「足に合わない靴を強制させる」というところに注目するなら、の話)。

本を買ったり、勉強したりするのに使っています。最近、買ったのはフーコー『言葉と物』(仏語版)。