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靴屋さんの話

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#日記

物付き合い

物付き合い

「履き潰してください」
修理に持ってきたはずのブーツを、そう言って返された。足の内側の部分に大きな穴が空いていて、もう直せるような状態じゃない、だから持って帰って壊れるまで履いてあげてください。靴屋さんはそう言った。

なんでも直せるはずの人だった。同じブーツの留め金が壊れて、ボロボロになったときも修理してくれた靴屋だ。今回もきっと──と思ったのは間違いだったらしい。彼の能力の問題ではなく、物には

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「お客様」になって考えること

お世話になっている靴屋の主人は、年の頃は四十代、接客業を続けている人らしく、片時も崩れない笑顔を誇る男性である。この人が面白い。

例えば、初めて紐靴を履くと決めたとき。彼は
「本当にいいですか~?紐靴、メンドくさいですよ?」
と、こちらの決心が揺るぎそうな質問をしてくる。ここで「メンドくさいから止めます」と答えるか否かで、意志を試されるのを感じた。そこには「どうせ靴を履くなら納得して履いてほしい

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