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【書評】発達障害 生きづらさを抱える少数派の「種族」たち 本田秀夫

NHKプロフェッショナル仕事の流儀で、発達障害の専門医として取り上げられているのを見てから、一度読んでみたいと思った本を昨日読了した。発達障害が「ブーム」になったのは、ごく近年のことだから、発達障害を30年診続けている精神科医の言葉に興味があった。

発達障害本は、とにかく「発達障害は障害、病気!治さなきゃダメ」と個性にラベルをつけるような本になるか「発達障害なんて存在しない!甘えだよ、甘え」みたいな極論に走る本のどちらかという感じがしていた。しかし、本田氏の本は見事なバランスの上に書かれている。

さすが30年の臨床は伊達ではない!と納得。そして、自らも発達障害の傾向を帯びる著者は、とにかく発達障害に対する目線が優しいのだ。読んでいて、途中でちょっと泣きそうになった。

ASD・ADHDの重複

これまで考えたことがなかったのだが(もっとも発達障害専門医でも、あまり注目していることらしい)発達障害にはASD(自閉症スペクトラム)とADHD(注意欠如・多動)の重複例が多いのだという。臨床では、どちらかの専門家が多く、相談にいった病院や専門家次第で、どちらかに診断されてしまうことが多いのだが、実際にはどっちの傾向もある人がいる。

著者は、このような人たちを「ちょっとAS(自閉スペクトラム)」で「ちょっとADH(注意欠如・多動」と呼んでいるそうだ。ちなみにD(障害)なので、障害とまでは言えず、診断も下されにくい発達障害(傾向)だ。本田氏は、障害という言葉を極力使わない。この本の中では「発達の特性がある人」という表現で統一されている。

私は、今まで、自分のことをTHE・ADHDだと考えてきた。

上記のあるあるは、すべてADHD傾向だと思い込んでいたが、私の特徴のある部分は、ASであるようだった。

例えば、ADHDは、無計画な傾向があるけれど、私は中学生くらいから、夏休みの宿題の予定表など、何時間もかけて一日に進むペースをページ数で割って計画するのが常だった。あまりにも非現実的過ぎて果たせたことがないのだが。一週間に数日は、計画を立てて過ごしている。妻の目から見ると、かなり奇異に映るようだ。このような特徴はADHDというよりASDの特徴だ。

また、ADHDの特徴として「過集中」があると思い込んでいたが(専門家でも、この点色々意見があるようだ)、本物のADHDは大好きなことだとしても気が散ってしまうのだという。私の場合は、一度、スイッチが入ってkindle本(コンテンツ)を作り始めたりすると、朝でも深夜でも終わるまで、まったく作業から離れることができないほど集中してしまう。これは、ADHDというよりASDの傾向だ。

もちろん、人は大なり小なりこのような傾向を帯びている。日常生活に大きな支障を感じ始めるかどうかが、診断や治療が必要かどうかの見分け方だ。著者自身もASD・ADHタイプだという。このような分類にすれば、誰もが発達障害になり得るではないかという批判もあるかもしれないが、今まで見過ごされていたり、一面しか診断されていなかった人たちに光をあてたのは慧眼だ。今まで考えてもいなかった面に気づかされた。

大事なのは、ADHDの対処法と、ASDの対処法が異なることなのだ。一口にADHDといっても、その人が抱えている問題は、他の人とは比較にならないものなのだろう。少しだが、ADHDについて発言する場がある私にとって、この本は絶対読んでいなければならない本だった。

「やりたいこと」を生活の中心に

発達障害の傾向がない人には、決してわからないことだと思うが、ADHD・ASDがこの世界で「普通」に生きていこうとするのは、相当のエネルギーを要することだ。実は大人になるまで、みんな同じだと思い込んでいたのだが、結婚してから妻との差を実感した。「普通」の人って、こんな楽々と日常をこなしているのかと衝撃を受けた(時間通りに家を出るとか、書類を失くさないとか、も~ほんとびっくりなんだけど)。

私も「ADHDの集中力アナドレン」「ADHDの仕事術」などで、繰り返し書いているように、普通の人の社会でやっていくためには、信じられないほどの工夫が必要だ。ツールを使ったり、仕組みを活用したりしながら、常人にとっては想像もできないようなエネルギーを費やしていることが多い。

だからこそ発達障害の人の生活の中では「やるべきこと」が多くなりすぎて「やりたいこと」をする時間や自由が減る傾向があるのだという。著者は診察の時に「やりたいことはなんですか?」「やりたいことはできていますか?」と尋ねるようだ。

発達障害の人はやりたいことを行うだけの心の余裕が少なく、メンタルヘルスの危機に陥っている場合が多いという。

『「休みの日にやりたいことがとくにない」と言う人や、「自分のやりたいことがわからない」と言う人もいます。そういう人は心配です。また、発達の特性がある人のなかには、休日に自己啓発本を読んで、自分の欠点を直そうとしている人もいます。この場合、休みの日に「やりたいこと」よりも「やるべきこと」を優先してしまっているわけで、より心配です。』

まるで、自分で号泣。

家族旅行の時も、仕事術の本を何冊ももって旅館に行くので、家族から「こういう時くらい、ゆっくりしたら」と言われることが多かった。でも、私にとっては日常は、もう追いまくられる日々なのだけれど、腰を据えてじっくり勉強できるのは休みの日しかないのだという気持ちだったのだ。

「泳ぐのをやめると死ぬマグロだね」と言われることもあるけど、仕事が好きでしょうがないわけではないのだ。何とか「普通」になろうと必死だったのだ。

く~~泣ける(涙)

本田氏によると、発達の特性がある人は、職場環境を変えることも含め、何とかして「やりたいことを生活の中心に」すえるようにとのこと。これが、この本の最後のアドバイスなのだ。単なる心をなだめる自己啓発本のような軽い言葉ではなく、本田氏は本気で、発達の特性がある人が、自分を追い詰めないように願っている。

そのことが、行間から伝わってきて、胸を打った。やっぱ、何十年も専門に携わってきている人の言葉には重みがある。素人ながら、私も当事者として、引き続き発達の特性がある人(発達障害)の研究にいそしんでいこうと固く決意できた。

理解してもらえたという気持ちで胸がいっぱいだ。

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大人のADHDグレーゾーンの片隅でひっそりと生活しています。メンタルを強くするために、睡眠至上主義・糖質制限プロテイン生活で生きています。プチkindle作家です(出品一覧:https://amzn.to/3oOl8tq