マインドフルネスを促す音声により、チョコレートの摂取量が減少する
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マインドフルネスを促す音声により、チョコレートの摂取量が減少する

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 健康や美容を維持するためにバランスの良い食事が重要だという事実は、現代ではもはや常識と言ってよいでしょう。しかし、食事のコントロールは思った以上に難しいものです。コンビニで余分な一品を買ってしまった、少しだけ食べるつもりのお菓子を気づいたら袋ごと食べていた、という経験は誰しもあるのではないでしょうか。

 このような状況の中、マインドフルネスが食行動のコントロールに有効であることを示す論文「マインドフルネス食観トレーニング:Mindfulness Based Eating Awareness Training (MB-EAT)に関する基礎研究」が小山らによって発表されました。本稿ではその内容を紹介します。

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1. はじめに

 我々は普段、「おなかが空いたから食べよう」「満腹だから止めよう」「昨日は食べすぎたから今日は少なめにしよう」などと考え、食行動をコントロールしています。しかし食欲を制御する能力には個人差があり、特に肥満者と標準体重の人には明確な違いがあることが知られています。

例えば、

肥満者は満腹のときでも食事量が減らず、むしろわずかに増加することが実験で明らかになりました。これは、肥満者では、満腹感や味・匂いに満足して食事を止める機能が低下していることが一因と言われています。
 肥満でない人でも状況によっては同じことが起こります。多くの人は、テレビ等を見ながらお菓子を食べていて、普段なら食べないような量を食べきってしまったことがあるのではないでしょうか。これは、テレビを見ることで満腹感や味・匂いに注意が向かなくなり、食事を止める機能のスイッチが入らないためだと考えられています。

 このような食行動の問題に対処するため、マインドフルネスが注目されています。マインドフルネスは「今この瞬間に意図的に、価値判断をすることなく、注意を向けることによって得られる気づき」と定義され、体や周囲の感覚全てをありのまま知覚し、そのまま受け止めることを目的とした行為です。いわゆる「禅」や「瞑想」に近いものと言えるでしょう。
 先ほどのテレビの例とは逆に、

五感をフル活用して口の中やおなかの感覚・味・匂い・見た目などを徹底的に意識することで、満腹感や満足感に早く気付くことができ、自然と摂食量を減らすことができると考えられています。
 このアイデアを元に開発されたのがマインドフルネス食観トレーニング(MB-EAT)です。海外ではすでに臨床の現場で用いられており、一定の成果を挙げています。しかし日本ではほとんど使われておらず、日本人に対する効果も不明でした。そのため、MB-EATの日本人に対する有効性を確認する目的で以下の研究が行われました。

2. 対象と方法

 公募によって女性20名(平均年齢39.4±12.2歳)が集められ、10名がME群、10名がコントロール群に振り分けられました。彼女らは空腹の状態で集合し、軽食としてサンドイッチを摂取した後に実験を行います。
 実験では、机の上に1個4.5gのチョコレート(一般的なブロックチョコと同程度)が4個置かれており、このうち3個は実食し、4個目は食べても食べなくてもよいことが説明されます。その後チョコレートの実食を行いますが、このときME群はME教示音声を聞きながら食べ、コントロール群は自分のペースで食べるよう指示されました。また、1個食べるごとにそのチョコレートの満足度を調査票に記入しました。
 そして、各群の満足度や、食べた個数、食べる時間、1人1人のマインドフルネス特性(簡単に言えばマインドフルネスの才能)を比較しました。

3. 結果

◆マインドフルネス特性
 マインドフルネス特性はMAASという質問票によって測定されました。参加者のマインドフルネス特性は一般的な数値で、ME群(58.8±10.0)とコントロール群(58.2±12.2)に明らかな差はありませんでした。
◆チョコレートを食べた数
 4個目のチョコレートを食べた人は、ME群では10人中1人であったのに対し、コントロール群では10人中7人でした。これは、統計学的にも明らかな差であると示されました(図1)。

株式会社SEN_20211108_図1

図1:参考文献より筆者作成

◆チョコレートを食べ終えるまでの時間
 ME群は音声指示に従ったため一律10分でした。コントロール群は平均4分17秒でチョコレートを食べ終えました。
◆チョコレートの満足度
 ME群ではチョコレートの満足度が最初は高く、その後に大きく下がりました一方、コントロール群は満足度が持続する傾向にありました(図2)。ただし、この変化は統計学的に有意ではありませんでした。
 チョコレートを食べた個数や、音声指示の有無はチョコレートの満足度に影響しませんでした。

株式会社SEN_20211108_図2

図2:参考文献より筆者作成

4. 考察

 この研究では、特にマインドフルネスの経験がない一般的な人でも、短時間のマインドフルネス音声でチョコレートの摂取量を減らせることが明らかになりました。ME群ではチョコレートの個数が増えるにつれて食べた時の満足度が大きく下がる傾向がみられたことから、ME教示音声によって味や香りに対する満足感をより少ない個数で感じられるようになり、それが摂取量の減少につながった可能性があります。
 ただし、今回の研究ではME群のほうがチョコレートを食べるペースが遅いため、コントロール群より血糖値が上がったことによって満腹感が得られてしまい、摂取量を減少させた可能性も否定できません。そのためME教示音声と食べるペースのどちらが重要か(あるいは両方とも重要か)がはっきりせず、今後の研究課題であると言えます。例えば食べるペースをME群とコントロール群で統一するなどして追試を行う必要があるでしょう。
 また、チョコレートを食べたときの満足度の差が本当にME音声教示の効果なのかは統計学的に実証されていません。今後はより大規模な調査を行い、統計学的に意味のある結果を得ることが期待されます。

5. まとめ

 今回は、マインドフルネスが食行動やその満足感に与える影響について調査した研究を紹介しました。
 マインドフルネスによる食行動のコントロールは、日本でもレッスンや講習会が行われるようになるなど、少しずつ広がりを見せています。
 今回の研究が、そういった試みを科学的に支持するための礎となることを期待します。

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参考文献:小山ら、マインドフルネス食観トレーニング:Mindfulness Based Eating Awareness Training (MB-EAT)に関する基礎研究、福岡県知る大学人間社会学部紀要2020, Vol. 28, No.2, 41-53
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