見出し画像

奥さんの元へ帰る合図

彼は仕事が終わったら毎日必ず電話をくれる。会社から家に着くまで、私たちはいろんな話をする。
お互いのその日あった出来事や仕事のこと、ご飯のこと、子供達のこと、趣味のこと、
しょうもない冗談で大笑いしたり、
真面目な話を語り合ったり、
好き好き言い合ったり。
会えない日は、彼との電話だけが、
唯一、彼と触れ合える時間。
私にとって、とてもとても大切な時間。
どんなに疲れていても、
彼の声を聞くだけで、元気になる。
そんなとても幸せな時間。

だけど、とても寂しく切ない時間でもある。
家に着く手前、
彼がカバンの中から鍵を出す音が聞こえる。
チャリンチャリン…
その瞬間、私はいつも泣きそうになる。
胸がギュッと締め付けられて苦しくなる。
何度聞いても慣れない。
その音が聞こえたら、
私と彼の時間は終わり。
奥さんの元へ帰る合図。
「また自室に入ったらメールするね」
彼のお決まりの最後の言葉。

この言葉を聞いてから、
おやすみのメールがくるその時まで、
私にとっては、とても苦しい時間。

「彼は今、奥さんと一緒にいる」
それに耐えなければいけない時間。
彼と奥さんが2人でいるところを想像し、何度泣いたことか。

「ただいま」って言ってる姿、
「おかえり」って言われている姿…
想像するだけで、気が狂いそうになる日もある。

いつからか、
私は電話を切ってから次にメールが来るまでの時間を気にするようになっていた。
今日は1時間、今日は2時間、
あれ、今日は3時間半も、
うわ、今日は4時間も…
その時間が長ければ長いほど、
2人で何をしているんだろうかと、
私の妄想は膨らむ。

奥さんと話をしないで欲しい、
奥さんの顔見ないで欲しい、
奥さんと一緒にいないで欲しい、
奥さんとの時間が長すぎる、
1秒でも早く、自室に入って私にメールして欲しい、

そんなことは言えるはずもなく、
ただ耐えるしかない。










この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?