【近未来】誤審を防ぐサッカーの最新技術
こんにちは。突然ですが、みなさんは「VAR」についてどう思いますか?
VARが導入されているリーグのチームを応援している人、そうでない人、色々な人がいると思いますが、あの判定を待つ時間ってとてもドキドキしますよね。
ところで、2014年のブラジルW杯ではゴールラインテクノロジーが、2018年のロシアW杯はVARが導入された最初のワールドカップでした(VARの運用自体は2012年から)。そして今年行われるカタール大会では、半自動オフサイドテクノロジーが導入される予定になっています。
サッカーを取り巻く技術は日々進歩しています。ということで、今回はそんな最新テクノロジーについて調べてみました。
四肢追跡技術(Limb-tracking technology)
この後お伝えする半自動オフサイドテクノロジーの要となるのがこの技術です。
なんとなく難しそうな名前ですが、ざっくりいうと選手の動きをカメラで認識&記録(=トラッキング)し、アニメーション映像で再現する技術です。
ポイントはこんな感じ。
・モーションキャプチャシステム「Vicon」の技術が使用されている。
・スタジアムの屋根の下に設置した専用カメラがトラッキングを行う。
・選手の動きを体の最大29ヶ所(肩や腰の位置など)で認識し、映像で再現する。
・数秒の遅延で試合全体がすばやく映像化できる。
・同様の手法で、ボールの追跡も可能。
この技術はVARだけでなく、コーチやメディカルスタッフの試合・選手分析にも役立つと言われています。
半自動オフサイドテクノロジー(Semi-automated offside technology)
11月〜12月にかけて行われるカタールワールドカップで採用予定の新技術がこの半自動オフサイドテクノロジーです。
昨年開催されたFIFAアラブカップ(カタール)やクラブワールドカップ(UAE)で試験導入されました。クラブワールドカップは日本の地上波でも放送されていたので、記憶にある方もいるかもしれません。
前述の四肢追跡技術&ボール追跡技術に加えAIを使用し、選手がオフサイドポジションになるたびにビデオルーム内にオフサイドアラートが表示される技術です。
ビデオルーム内のレフェリーがキック位置や選手の手足の位置に基づいて作成されたオフサイドラインを手動でチェックし、その後ピッチ内のレフェリーにオフサイドである旨が知らされます。
従来のVARが複数のカメラで何度も確認をするのに比べて(あの時間、やきもきしますよね)、半自動オフサイドテクノロジーではオフサイドラインなどが明確に映像化されるため、この判断は数秒以内で行われます。
ビデオルーム内及びピッチ上の審判によりプレーがオフサイドであると判断されると、一連のプレーを完全再現した3Dアニメーションが生成され、その映像はスタジアムのスクリーンや放送で観る事ができます。ぐうの音も出ないオフサイドというわけですね。
低コストVAR(VAR Light)
新技術の導入はひたすらお金がかかります。JリーグのVARの導入費用は一説によると1億円とも言われていますが、ここで紹介するのは節約志向の技術です。
日本では昨シーズンに引き続き、J1リーグ及びルヴァンカップ(プライムステージ)などがVARの適用試合になっています。
J2やJ3にもVAR導入を求める声はもちろんあるのですが、Jリーグの野々村チェアマンは出演した動画内で「(導入に)結構な費用がかかる・審判・VARの取り扱いができる技術者の数が足りていない」ことを理由に難しい旨の発言をしています。
このような問題に対し、FIFAが「VARの民主化」を目指して試験導入を進めているのがこのVAR Light(低コストのビデオ アシスタントレフェリー/lower-cost video assistant referee)です。
現在、Jリーグでは12台のVAR用カメラが設置されています。ロシアW杯では32台ものカメラが使われたというので驚きですが、"より限られた予算で、より手頃な価格にした VAR システム"であるVAR Lightは、最低1台〜最大8台のカメラを使用します。現在は試験運用期間として、昨年ヨルダンで行われたAFC 女子クラブ選手権のトーナメントで導入されました。
ダイブ or ガチのファールかをAI判定
ここからは非公式の取り組みの紹介です。
Xtract AI社のデーサイエンティストであるサッカー好きのキーガンさんは、ダイブ(英語圏ではFlopとも)またはファールと判断された2400あまりの映像をAI(人工知能)に学習させ、選手のプレーがファールか、はたまた故意にもらいにいったものなのかを判定させる試みを行いました。
結果、人工知能は選手のプレーを高精度で見分けることができるようになっただけでなく、本当に負傷していた場合は痛みで地面から起きられないことや、レッドカードの意味まで学習できるようになったというので驚きです。
これはあくまで個人的な取り組みのため、実用には至っていませんが、やろうと思えばこんな事もできてしまうのがテクノロジーの面白さですよね。
DOGSOかどうかをAI判定
こちらはドイツの大学とサッカー協会による研究です。JリーグジャッジリプレイでもすっかりおなじみのDOGSO(決定的な得点機会の阻止)ですが、その判断基準は現在下記の4つです。
①反則とゴールとの距離
②全体的なプレーの方向
③ボールをキープできる、またはコントロールできる可能性
④守備側競技者の位置と数
このレポートでは、プレーシーンの分析や審判へのインタビューを通して、DOGSOかどうかをAI判定する上で必要となる要素は何かを検証しています。プレーヤーやボールの速度、ボールの位置など実に40以上です。
誤審には競技的、経済的、心理的な影響があることを示しつつ、これを審判が瞬時に判断するのは難しい→テクノロジーの力があればとても便利になるよね!という話が書かれています。ダイブ判定と同様、実用には至っていません。
まとめ
本日は、既に実用化されている技術から提案段階のものまで"レフェリング"に関する技術を紹介しました。
SNSや「Jリーグジャッジリプレイ」などの影響で多くの人がレフェリングについて良くも悪くも意見を発信しやすくなった昨今、こうした技術は、試合を円滑に進めるだけでなく、審判への精神的負担を無くすことにも繋がるのではないかと思います。
ところで、半自動オフサイドテクノロジーについて調べていた時に考えさせられるコメントがありました。ざっくり訳すとこんな感じです。
皆様はどう思いますか?
「馬鹿げてる…。CL決勝で、肩がディフェンダーより1インチ前にあったという理由でゴールが取り消されることを想像してみるといい...絶対におかしい」
参考サイト
Semi-automated offside technology to be used at FIFA World Cup 2022™
FIFA to trial VAR ‘limb tracker’ technology at Club World Cup
Limb-tracking technology offers new array of possibilities
AFC tests VAR Light concept at AFC Women’s Club Championship 2021 Pilot Tournament (West)
いまさら聞けないVARのすべて。知っておきたいルールと基礎知識
【ゲスト】チェアマンオファー受諾の裏側。J2でのVAR導入や地方クラブが強くなるためには?!【#ZWEIGENNOW 2022.4.15 vol.74】
Flop or Foul: Using AI to Detect Dives in Football
Innovation in Elite Refereeing Through AI Technological Support for DOGSO Decisions
(いずれも2022年9月1日閲覧時の内容です)
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