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「経験を捨てずに生かす」元理系研究者が見つけたインタビューライターの道

異業種への転身は、これまでのキャリアを捨てるということなのか。今に大きな不満があるわけではないけれど、まったく別の道に、なりたい別の姿が見えている。現在進行形でそんな悩みや考えごとを抱えているひとも多いのではないでしょうか。

今回は、製薬会社の研究職からインタビューライターへと転身した「みのり」さんに、現在にいたるまでの経歴と思考の変化についてお伺いしました。また、普段あまり聞く機会のない「研究者」のお仕事内容もたっぷりと教えていただきました!

■久保みのりさん
人をミクロで観察する理系研究職から、人をマクロで感じ伝える文筆家へ転身。副業で、クリエイター向けコミュニティの運営もしています。夫・1歳娘と関西郊外暮らし。
Twitternoteココナラ



毎朝5時半に活動開始

——1歳のお子さんを育てながら、さまざまな肩書で活躍されているみのりさんの1日のスケジュールを教えてください

みのりさんのTwitterより

娘の朝寝・昼寝・本寝の3回が、私にとってのゴールデンタイムで、その時間にSHElikesでライターの勉強やインタビューの自主企画を進めています。時間が細切れになってしまいますが、1日だいたい5〜6時間は自分のための時間がありますね。

夫が朝6時半に家を出ていくので、朝は5時半から活動開始です。私たちが起きていると娘も起きてくるので、娘も朝活をしています!(笑)

——5時半!!伺っていると「自分のための時間」はほぼ文字を書いている時間ですね
本当ですね!たしかに振り返るとずっと文字を書いていますね!(笑)前から「対話ができる仕事がしたい」と思っていたので、今はインタビューライターの仕事を中心に活動しています。

——SHElikes受講生の方とタッグを組んで自主企画にもトライしていますよね
動画編集のスキルを高めたい仲間と一緒に進めています。私はインタビューのスキルを高めたくて、その方も動画編集スキルを高めるためには編集素材が必要で。

2人のやりたいことが重なっているだけじゃなく、インタビュー動画があったほうが見やすいという人も多いので、読者さんにとってもメリットのある取り組みになっています。


"方法"をつくる研究職時代

——現在はライターとして活動するみのりさんですが、薬学部出身なんですね!
そうなんです。学生時代に出会った東洋医学クリニックの影響で、薬学部に進学しました。

——ぜひ 目指すきっかけについて詳しく教えてください
高校生のときに、ひどいアトピーに悩まされていたんです。当時16歳の女の子が、半袖なんかとても着れないような状態だったうえにステロイドも効かず……。

そんなときに知り合いから、東洋医学クリニックを紹介してもらいました。そこで、ものすごく臭い漢方薬を処方してもらったんですけど、それがめちゃめちゃ効いて。

「あれだけ治らなかったのに、どうして効いたんだろう?」「薬を学んで、人の役に立ちたい」と思うようになって、薬学部に進みました。

機材だらけの研究室

——ご自身の経験から目指された道だったんですね。就活でも薬学関係のお仕事を選ばれたのでしょうか
大学では希望していた漢方薬の研究ができましたが、新卒入社したのは漢方とは関係のない製薬メーカーでした。就活時期には、このまま研究を続けるべきかすごく迷いましたね。結婚や働く環境の安定性、お給料などを具体的に考えていった結果、就職を選びました。

——製薬メーカーではどんなお仕事をされていたんですか?
たとえば、実験段階の薬をいきなり人に飲ませるわけにはいかないんですよね。まずは細胞などの試験管レベルで試して、その結果が大丈夫だったら動物、そして人にも試していく。その過程で、薬の成分が身体の中にどれだけ入ったかを測る「方法」をつくっていました。ずーっと、方法をつくる仕事でしたね。

——"方法をつくる"ってカッコいいですね……!製薬会社の仕事内容を伺うのは初めてなのでとても興味深いです
私は入社から約6年間ずっと分析チームにいたんですが、社内にはさまざまな部署がありました。

たとえば、薬のアイデアを出す人、その薬を実験する人、その薬を試す方法をつくっている人もいれば、他の薬と相互作用がないか確認する人も。その薬を合成するとなれば、安く合成する方法を模索する人たちもいます。

新卒時代のみのりさん

——ひとつの薬を企画して、世に流通するまでにどのくらいの時間がかかるものなのでしょうか
10年以上かかることが多いですね。なので、私が在職していた期間だと2回だけ、携わった薬が世に流通するのを見届けられました。入社してすぐの頃に携わっていたようなプロジェクトです。

——壮大なプロジェクトですね……。一方で、みのりさんが現在働くにあたって重視している「対話の機会」というのは研究職ではなかなか少ないものでしょうか
そうですね。もちろんさまざまな関係者とコミュニケーションして仕事していきますが、私が求めていた「対話」とは少し違ったかもしれません。

患者さんのニーズを把握して新しい薬をつくっていくんですが、私にとってはどこか机上の空論に思えるようなこともあったんです。「本当にこの薬を求めてくれている人がいるのかな」とか、いたとして「その患者さんが本当にしんどいと思ってることは何なんだろう?」とか。

自分たちが果たして患者さんたちの役に立っているのかどうかという対話をしてみたかったなと思います。


失敗への恐怖がない

——研究職における「キャリアアップ」とはどういったものなのでしょうか
「王道コース」と思われるのは、博士号をとって、何本も論文を書いて、海外に留学する道です。もしくは、マネジメントや会社の経営層に進んでいくパターンもあります。個人的には、経営に入り込んでいくよりは「研究をしたい」という想いが強かったですね。

一方で、妊娠を機に仕事内容が研究から離れてしまったり、身体も思うように動かなくなったりで働き方が大きく変わってしまったんです。子どもが生まれた後は、とにかく子どもが可愛くて朝と夜しか会えない生活は嫌だなと感じるようにもなりました。

会社の女子寮でパーティー

——そこから、現在のライターという職業に興味を持たれたのですか?
育休を経て、もといた仕事にただ戻る、というのは「何か違う」とずっと思っていたんですよね。

ずっとヘルスケアに興味があって研究職を目指してきましたが、結婚、出産、コロナ禍を経験したときに、環境問題や社会問題に関心をもつことが増えました。自分にとってヘルスケアだけが一番大事なことでもないように思えたんです。

その中で、たまたま見かけたSHElikesの広告に興味をもって無料相談会に参加しました。入会後、興味のあるコースを一通り受けて、一番グッときたのがインタビューライティングでした。

——これまでの研究職からガラッとかわる職種へのチャレンジ、不安はなかったですか?
どちらかというと、ドキドキワクワクのほうが強かったです。おそらくちょっとネジが外れてて、失敗への恐怖がほぼないんですよね。これたぶん、研究者だからだと思います。

研究って、ほぼ失敗しかないんですよ!毎日毎日、思っていたことと違う結果が出て「あ~もう、はいはい」みたいな気持ちになるんですよね(笑)。

だから、上手くいかないことに慣れ過ぎているというか。これがいいことかどうかわからないんですが……!

——研究者だったからこその最強メンタルですね!みのりさんのnoteを拝読すると、比喩やわかりやすい言い換えが絶妙で、勝手に研究職のご経験が生きているのかなと妄想していたんですが……
えー?本当ですか!?ありがとうございます。noteで小説も書いているんですが、研究職の経験というよりは読書が大好きなことのほうが関係しているかもしれませんね。

——仰るとおり、みのりさんの文章は小説など膨大なインプット量あっての言葉選びだと感じることが多々あります
親からも「なんで理系に行ったんやろ?」と言われるくらい読書好きですね。読むのが好きだから「書く」ことへのハードルが低かったというのはあったかもしれません。

かなり趣味に近いですが「小説を書いて生きていけたら~」と、SHElikesの受講生のみなさんと話していたら「noteにどんどん書いちゃえばいいじゃん!」と背中を押してもらえて。エッセイやインタビューだけでなく、noteで小説も書くようになりました。

——仲間の背中押しがあったのですね。ちなみに私はみのりさんのnoteの「断面萌えは、フルーツサンドがすることや」というタイトルが好きで。タイトルやキャッチコピー作成もお得意そうですよね
うれしいです!実は、タイトルを考えるのがめっちゃ好きなんです。

インタビューの自主企画の中では「あなたのキャッチコピー考えます」という企画もやっています。協力してくれる方々の性格や特技をふまえてコピーを考えるのがとても楽しいです。

考えるのも好きですし、見るのも好きです。「さんまのお笑い向上委員会」というバラエティー番組が大好きなんですが、その回で活躍した芸人さんやトークの総括を、スタッフさんが毎回タイトルにして打ち出すんです。そのタイトルを見ると毎回興奮してしまって……!そういう切り取り方をするのか、面白いな!と感動します。


経験を捨てるのではなく、生かす

——実際に何本もインタビューライティングを経験してみて、目指していた頃と現在で感じているギャップなどはありますか?
「楽しい」の一言ですね。やりたいと思っていた「対話」をするだけでどんどん文字にできる素材が溢れてきて。それをどう構成するかを考える時間も心が落ち着くんです。とても贅沢な時間だなと思います。

仕事にするとなると、「自分が楽しい」だけじゃなく「自分ができる貢献」が重なりあうことが大切だと思っています。「この人のどんなところを記事で表現したいか」に加えて、「どんな人に読んでもらいたいか」を考えて書けるようにもなってきました。

——これまで執筆されたインタビュー記事の中で、最も思い出深い記事はありますか?
父へインタビューした記事ですね。
この記事は、インタビュースキルを伸ばしたいと思い、インタビューライターとして活躍している仲奈々さんに添削してもらった記事です。

実の父にインタビューをする、という経験自体も思い出深いのですが、仲奈々さんからいただいたフィードバックが学びだらけで。この記事は、幅広いキャリアの方々に読んでもらいたいと思って構成した記事だったんですが、「自分の前提知識で文章をつくってはいけない」ということを学びました。

私も父も会社員で、あたかも私や父のような人たちが世界のマジョリティのような表現で初稿を書いてしまったんですね。決してそういった意図がなかったとしても、結果的に誰かを排除するような記事に仕上がってしまうこともあるんだと気付きました。

原稿執筆はここで

——ライターへ転身するにあたって壁にぶつかったことはありましたか?
「研究者」という、ある日突然なるには難しい仕事をしていたので、よくまわりからは「キャリアを捨てるのはもったいない」と言われましたね。自分でも「確かに……」と思うことはありましたが、みえだ舞子さんのコーチングを受けたことで視界が開けました。

「一歩踏み出せないこと」は、「これまでの経験を手放せない」とほぼイコールだと感じていたんですよね。でも、コーチングによって私はこれまでの経験を捨てるのではなく、生かすんだという気持ちに。

挑戦したいのはインタビューライターだけど、もしそれが上手くいかなくても医療系ライターや薬機法の理解を生かしたライティングなども道はある。そう気づけたことで、将来について安心感を得ることができました。

——これから実現したい理想の姿はありますか?
すごい幼稚なんですけど……毎日寝るのも起きるのも楽しいハッピー野郎になりたいんですよね。子どもを見ていると「今」を生きているじゃないですか。その感覚が一番大事だよなって実感しているところなんです。

こういった肩書がほしいといった理想はまったくありません。たとえインタビューライターや小説家として大成しなくても、少なくとも「今」私がやりたいことはその方向にあるので、進んでいる最中です。

今は、父へのインタビューをきっかけに、身近な人に届けるためのインタビュー記事をもっと書いてみたいと思うようになりましたね。

あとは、インタビューだけでなく、そのインタビュイーの方に複合的なサービスを提供出来たらいいなと。キャッチコピーだったり、プロフィールをつくったりといったお手伝いができたらと考えています!


\ 「固定費教えてください!」コーナー /

その人の固定費は、その人の価値観をあらわしているみたい。そんな、このインタビュー企画のお決まり質問「あなたの固定費教えてください!」。みえさんにも「固定費」を聞いてみました。

——みのりさんの固定費ってなんでしょう?
「ノンアルコールビール」でございます。

——なんと!確かにnoteでも「めちゃめちゃ飲む」と書いてありました
もともとビールが大好きなんです。妊娠だったり夜に勉強するためだったりでビールをしばらく断っていたんですが、お気に入りのノンアルコールビールを見つけてしまいまして。「ヴェリタスブロイ」ってやつなんですけど。

昼食とお気に入りのヴェリタスブロイ

これは、ビールっぽくつくられた飲料じゃなくて、ビールからアルコールを抜いたビールなんですよね。ビール好きの人にはとってもおすすめです。

箱買いして1日1本ペースで飲んでいるので月に3000円以上はかかってますね。でもこれがないと生きていけない……!気分転換や「よし、やるぞ」という気合いも入ります。


取材・執筆/犬田メメ


知性や圧倒的読書量を感じる美しい文章を書く一方で、「向上委員会大好き!」とニコニコ笑うみのりさんの魅力をたっぷりと感じられたひとときでした。

キャリアチェンジって「経歴を捨てることになるのでは?」のモヤモヤを「たとえこの道で失敗してもなんとかなるか」と思える強みに変えて突き進んできたみのりさんの言葉は、きっとたくさんの人の背中を押してくれるのではないでしょうか。

研究職ならではの「人をマクロで感じ伝える」みのりさんのインタビュー記事もぜひ読んでみてくださいね!

取材させていただき、ありがとうございました!


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