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十五夜にケアを考える


昨日の夕方、団子を求めて店をはしごした。

残念ながらどこも売り切れで、でももうお腹の気分は団子だったので、白玉ののったデザートを買って帰った。あんこと生クリームが甘くて幸せだった。幸せはこんなにも身近なところにあるんだなぁ、と月並みなことを思った。

中秋の名月。

月がとても明るく光っていた。


以前働いていた特養に、月を見るのがとても好きな入居者さんがいた。

毎晩のように、「今日も月見に行ってもいい?」と事務所にきて、職員に声をかけてくれた。一緒に外に出て、今日はどんな形だ、雲がどうだ、明るさがどうだ、などと話しながら眺めて、今日あったことなど他愛のない話をして、「おやすみなさい」とあいさつをする。

それまで、月をしみじみと眺める習慣がなかった私は、日々日々見え方が変化するっておもしろいなぁと天文学知識ゼロの感想をもち、そういえば、小さいころ車に乗っていて、「月がついてくる!!」なんて騒いでたな、と思い出しもした。


昨年の十五夜。

その日は昼間から、月を見るのがすきな方が「今日は十五夜よ」と楽しみにしていた。(正確には、数日前からカレンダーを確認しながらカウントダウンし、とっても楽しみにしていた)

みんなでお月見しましょうよ、との言葉に、私は「まずは団子だな」と思い、買いに出かけて準備をした。

その夜。いつもは寝る支度をする時間だが、せっかくなので月を見たい人は玄関の前まで~と声をかけると、数人が集まった。

お茶を入れて、外にテーブルとイスを用意して、みんなで月を眺める。

きれいだねぇ、と声を出す人もいれば、ただただ見つめる人もいれば、団子を食べ終えたらもういいや、と早々に部屋に戻る人もいた。

月を見るのがすきな、お月見発案者の方は、いつもは職員と2人きりで楽しむ月を、何人かの人と見ることができて大喜びしていた。

みんなが、よかったよかった、と言いながら部屋に帰っていった。

時間にして、ほんの数十分。

たった、それだけの出来事だった。

でもその時間を振り返ると、私は不思議な気持ちになる。

ただただ進んでいく日常の時間、たんたんと流れる生活の中に、ひとつ、締まりのようなものができた時間。

その時間は、暦を体感できた時間だった。

それはどういうことかというと、人間と宇宙とのかかわりを体感する時間だ。

……この話どこに着地するの?!と思った方、ですよね!!でも実はケア論につながるのでもう少しお付き合いいただけるとうれしいです


KOMI理論という、ケア理論がある。

看護と介護、それぞれの専門性の重なる部分を「ケア」とする、ナイチンゲールの看護思想をもとにした理論。

この理論では、ケアの対象者について考えるとき、その生命、認識、生活、社会、自然が相互にかかわっているとしていてとらえ、自然とのかかわりがさらに、宇宙とのかかわりと広がっている。

つまり、宇宙からのなにかしらの影響を、私たちの生命や、認識、生活、社会や自然の中で受けている可能性がある。そして、私たちも影響を与えている可能性がある。そしてケアとは、その影響しあっているものを観察から読み取り、それぞれに働きかけながら、その対象者の方の持てる力を最大限に発揮できるように、ととのえることである。

とはいえ、宇宙からの影響と言われても正直あまりピンときていなかった。

けれど、月を眺めながら、ちょっと涼しくなってきた夜。肌だけでなく、暦の上で季節をとらえることで、時間の流れを感じることができた。

なにかと時間に追われている毎日だけれど、少し息をついたらどうかと月が語りかけてくれているような気もする。

あのお月見、楽しかったなぁ。そうやって思い返していると、たしかに私たち、宇宙からの影響を受けている、としみじみ感じる。


今年の十五夜は、自宅から眺めた。

辞めた職場で今年お月見をしたかどうかは分からない。

施設には、数分前のことを覚えているのが難しい方も多くいたので、昨年お月見をしたことを覚えている人は、ほとんどいないかもしれない。

それでも、その時に一瞬でも、時の流れを感じたという出来事が、その人のケアになっていたらいいなと思うし、一緒に月を眺めていた私自身は、その場、その空間にケアされていた。そして、そのときの記憶が、今も自分をケアしてくれている。

そう考えて、改めて、ケアって奥深いなぁと思っている。

ちなみに私が月を見て「お団子が食べたい」と思うのは、宇宙から認識への、影響だ。

そうとらえると、はしごして団子を買い求めるその行動も、理解ができるのである。



◇おまけ◇

これはカルチャーマガジンであることを思い出しました。

暦で思い出す、おすすめ本です。

映画化もされているのでご存じの方も多いのでは。

暦誕生までのドラマに大興奮しました。秋の夜長にぜひ。

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