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いつかやりたいこと

「いつかやりたいと思ってるんだけどさぁ。もう少し考える」
そういって、違う話題に変わった。
電話を切ったあとで、もう1度考えてみる。

いつかいつか、と思って、いつかが来なかったことがいくらでもある。

いつか観に行きたい、と思っていたバンドは解散してしまった。
いつか食べようと思って大事にとっていたおやつは賞味期限が切れてしまった。
いつかゆっくりお風呂に入れてあげようと思っていた祖母は死んでしまった。
いつか読もうと思っている本はずっと傍らに積まれている。
なぜか私は、いつかがいつか来てくれる、と思っている。

でも本当は、わかっている。
いつかは来ない。
いつかには、自分から向かわなければならない。

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いつかやりたいと思っていて、やってよかったことの一つにスカイダイビングがある。

ニュージーランドの南島を1人で周っていたとき、道中知り合った人に「絶対やったほうがいい!」と言われ、まぁもう一生来ないかもしれないし……と思い決意。高さは3パターンあったが、ちょっとびびって一番低い13,000フィート(約4,000m)を選択。

いざ決めたものの、やっぱり怖い。
事前にネットで口コミを調べているときに、昔あった事故のことなどを読んでしまい余計恐怖にかられる。
「ここで死んでも悔いはない」
自分に言い聞かせる。
写真と動画を取ってくれるサービスがあり「飛ぶ前に一言!!」と陽気なインストラクターに言われる。そんなハイテンションで急に聞かれても、緊張も相まってとっさに一言なんて出てこない。「I'll do my best.」と引きつった笑顔で答えた。

飛行機で空に上がってしまうと、高揚感であまり恐怖は感じない。
飛行機の中には同様に飛ぶ人が数名。
それぞれの熱気と少しの不安、インストラクターの醸し出す安心感が漂う。
「そろそろ準備するよー」
飛行機のドアが開けられると、雲が広がっている。
普段、高いところが苦手な私だが、あらびっくり。
高すぎてよくわからない。
雲の上にいるなぁ、という冷静な感想。
飛び降りる瞬間「I can fly」と叫ぼうかと思ったけど、インストラクターになに言ってんだこいつと思われそうなのでぐっと飲み込む。
風圧で口の中がからっからになりながら落ちること数秒、パラシュートが開いてしまえばもう、楽しい空中散歩。

飛ぶ前はあれだけ怖かったのに、案外あっけなかった。
それにしても人間はすごい。
こんなにちっぽけなのに、鳥の目にも、虫の目にも、魚の目にもなれる。
そして時には命にもかかわるアクティビティにもかかわらず、それを楽しんでいる。

「よかった、生きてる」
何事もなかったかのようにまた旅を続けた。

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人間の好奇心というものはどこから生まれるのか、すごく気になっている。
私が「この人ステキだなぁ」と思う人は大体好奇心旺盛で、常に何か新しいことを模索していたり、疑問を持っていたり、事象を面白がっていたりする人が多い。
そんな人たちに憧れて、「自分もまずは何事も体験してみよう」と考えているものの、筆で表面をさっさっさーとなぞる程度でやった気になっている自分がいて、はてこれでいいものか?と思ったりもしている。

今、いつかやりたいと思っていることが、いくつかある。
フルマラソンを走る、というのはそのうちの一つである。
人間の、いつかやってみたい、感じてみたいと思う情動は、はたしてどこから生まれてくるのだろう?
走るのが得意なわけでも習慣なわけでもない。それゆえ自信もなくて悩んでいる。それで、冒頭の会話である。

でも、わかっている。
いつかは、今の決断の連続でしかない。

明日、また電話ができたら「私やっぱりやってみる」って話そうと思う。

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