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こころをダイジェスト 4話 マインドフルネス

マインドフルネス瞑想には2500年にも及ぶ歴史がありますが、広く注目されるようになって、たったの30年ほどしか経っていません。
感情をハックする、マインドフルネスのメカニズムに迫る。

注:本 noteはNetflixオリジナル作品「こころをダイジェスト」の解説になります。そのまま読んでもいいですが、一度作品を見てからの方が楽しめると思います。レビューはこちら

導入

ネパール人のミンギュル・リンポチェは幼少時ヒマラヤ山脈に住んでおり、恐ろしい吹雪に対してパニック障害になった。
著名なチベット仏教徒だった父に瞑想を勧められ、彼もまたチベット仏教徒となる。瞑想の分野で才を示し、数十年後ブッダガヤ(仏教の聖地)に寺院を建立するに至った。

その後、彼は研究対象としてウィスコンシン州で脳の実験に参加する。
そのとき彼は41歳だったが、驚くことに彼の脳年齢は33歳相当だった。
慈悲の瞑想をしながらMRIを撮ってみると、脳の共感回路の活動が平常時の800%にも急増した。
まるで、てんかん発作が起こっているような状態だが、てんかんと違い脳の活動を意識的に制御できていた。これほど極度の脳活動の増加は現在の脳科学では説明することができない。

:ここでの慈悲の瞑想というのは一般的な用法ではなく、仏教用語の慈悲のことを示し、それぞれ次のような意味がある。
:全ての生けるものが幸せであるように
:全ての生けるものの苦しみがなくなるように

仏教では瞑想をすることで苦しみが和らぐという。
臨床的な研究にもそれが示されている。
なぜ呼吸を意識するだけでこのように脳の働きが変化するのだろうか?
瞑想で人生を変えることはできるのだろうか。

瞑想とは?

瞑想のような行為は、世界中の様々な宗教に似たものが見られる。
その種類は数百にも及び、静かに聖句を読んだり、祈ったりといった行為も瞑想の一種である。

しかし、これらの殆どは厳密にはマインドフルネスとは違う。
マインドフルネスの大元はバラモン教(過去のヒンドゥー教)に由来する瞑想法である。
紀元前500年頃、ブッダがそれを学び、独自の解釈を加え体系的にまとめ上げたものが、サティパッターナ瞑想法である。
これが現在のマインドフルネス瞑想の伝統形式であり、神に近づいたり、心を無にするものでなく、心に焦点を当てることを目的としている。

ちなみにパーリ語(最古の仏典の言語)ではsatipatthanaと書く。
焦点 内側   維持
sati +   upa +  thanaがくっついたものであり、焦点を内側に向けることという意味である。

:原文では「サティパッターナ瞑想」と言っているが、字幕では「ヴィパッサナー瞑想」と書かれていた。セリフの内容を正として記載した。

マインドフルネスでは、心に引っかかっている問題を、避けたり対処しようと思うのではなく、自らの反応を観察することに徹する。
人生の困難な状況において、負の感情と戦って打ち負かす必要はなく、重要なのは負の感情とも友達になることである。

マインドフルネスの再発見

仏教で生まれたマインドフルネスだが、これを西洋に広く広めたのが、ビル・モイヤーズジョン・カバット・ジンである。
ジョンは、西洋向けに宗教色や神秘性を廃し、医学的な手法を確立した。
それが、マインドフルネスストレス軽減法(MBSR)である。
後年彼は、マインドフルネスを仏教徒、ニューエイジまたは奇妙なものといったイメージを持たせないようにしたと語っている。
仏教を胡散臭いと言っているわけではなく、当時はまだ市民権を得ていない段階であり、広くアメリカ人に受け入れられるようにしたためだ。

マインドフルネスは心のスポーツ

マインドフルネスはスポーツと同様に捉えることができる。
体を鍛えるのがスポーツなら、心を鍛えるのが瞑想だ。

瞑想を始めると数秒後には心が彷徨い始める。
初心者には当然であり、その時の脳はタイムトラベルしている状態にある。

1話の記憶の回でもあったが、過去を思い出したり、未来のことを考えているときは同じ脳の部位が活動している。
それをデフォルトモードネットワーク(DMN)と呼び、思い出したりする以外にも後悔や恐怖といった思いを巡らせている。
仏僧たちはそのような状態をモンキーマインドと呼ぶ。
初心者がそうなるのは仕方ないのだが、重要なのは心が遠くに行ったことに気づくことである。
例え百万回意識が逸れようとも、百万回意識を戻す位の気持ちが必要である。

心を呼吸に集中することで、脳の一部である背外側前頭前皮質(dl-PFC)活性化する。ここは霊長類(特に人間)ならではの脳領域で、脳の中の脳とも言われる部位である。
この領域がDMNと連携し、DMNの働きを鎮めている
ちなみに鬱や不安障害の人はDMNが活発に活動しているが、それを鎮めるためにもマインドフルネスは有効と言える。

瞑想と忍耐力

瞑想のプロほど痛みに耐えることができる。痛みの感じ方は一般人と同じであるが、不快指数は一般人に比べて低かった。
脳の感情の中心は扁桃体であると1話で説明した。瞑想の初心者は痛みを想像すると扁桃体が活性化するが、瞑想のプロは痛みを想像しても平静時と同じ状態を示した。
瞑想のプロは痛みを平静に受け止めることができる。
(いわゆる、心頭を滅却すれば火もまた涼し、を科学的に説明したことになるのだろうか。)

例えば死体などのグロ画像を見た時、普通の人の扁桃体は強く反応するが、瞑想のプロの扁桃体は反応が少ない
これはマインドフルネスによって、扁桃体の活動を制御する(つまり感情の手綱を握る)、腹内側前頭前皮質(vm-PFC)が扁桃体とのつながりを強化したということを意味する。

これによって緊迫状態になっても、感情を制御して冷静に持ち落ち着いていられることにつながる。

この効果が、刑務所での更生にマインドフルネスが用いられている目的の一つでもある。
つまり、「ついカッとなってやった」、が起こらないよう感情にゆとりをもち衝動性を制御する能力を鍛えるのである。

マインドフルネスの研究

瞑想の研究が少なかった時代(2000年初期)、瞑想に関する論文は年に100本もなかったが、今では年に1000件以上も発表されている。
だが全ての研究に信頼性があるわけではない
健康に関する瞑想の研究の内、8000件以上の研究に対し、信頼性ありという結果が出たのはたったの47件だった。

:マインドフルネスに限らず臨床試験の数は膨大で、論文によって色々結果が異なってきます。
玉石混交の論文の内、信頼性が高い論文(ランダム化比較されてるか等)の結果達をメタ解析して、本当に効果があるのかを調べています。
信頼性がないからといって効果がないというわけではありません。(効果があるとも言えませんが・・・)
コクランのレビューエビデンスをリンクしましたので興味がある方はどうぞ。

まとめ

・マインドフルネスのベースは2500年前にブッダがまとめたもので、近年効果が検証されるに伴い、急激に普及した。

・マインドフルネスでデフォルトモードネットワークの働きを鎮めることができ、鬱や不安障害に効果があるのではないかと期待されている。

・マインドフルネスは感情を制御する手綱を強め、緊迫した状況でも冷静さを失わないようにする効果も期待できる。

・マインドフルネスの効果ははっきり示されたわけではないが、少なくとも有害ではないことはわかっている(コクランレビューより)

最後に

このビデオはマインドフルネスの効果やメカニズムを説明するものであって、詳しいやり方を教えるものではありません。
やり方に関してはNetflixに瞑想の実践法を説明したおすすめのビデオがあります。そちらもレビューしているので、よろしければ下記のリンクをどうぞ。


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