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こころをダイジェスト 3話 不安

不安のメカニズムについての解説。
コロナ禍で不安を感じている方が多いと思いますが、そのような方にこそ見て欲しいと思います。不安に対抗するためにはまずは知ることから!

注:本 noteはNetflixオリジナル作品「こころをダイジェスト」の解説になります。そのまま読んでもいいですが、一度作品を見てからの方が楽しめると思います。レビューはこちら

導入

意図的に過呼吸を起こすことでパニック障害の症状を体験できる。
パニック障害とは非常に激しい不安の現れであり、様々な不調を起こす。
なぜ人は不安を感じるのだろうか?そのメカニズムに迫る。

不安とは生き残るための工夫

動物は人間ほど様々な種類の不安を抱えてはいない。
動物が不安を感じるときは命の危険を感じるとき、つまり捕食者を見つけたときである。
感情を司る脳の扁桃体が激しく働き、アドレナリンを放出。戦闘準備もしくは逃走態勢に入る。

戦闘(逃走)態勢にはいると、
心拍数が増え、血管を拡張され、筋肉に大量の酸素を供給する。
瞳孔が開き、相手の動きを見逃さないよう集中する。
消化や生殖など戦闘に不要な働きはストップし、体内のリソースを生存に直結する部分だけに極限まで集中させる。

このように不安というのは命を守る補助の感情として進化した。
ところが、人間が普段不安を感じることといえば、ローンや税金の支払いや、渋滞で遅刻しそうとか、そういう生存に直結しない事ばかりである。
ここで面白いのが、そのような場合であっても、体は捕食者を見つけたかのように反応する

つまり、税金の支払いを考えただけなのに、人間の体は心拍数を早くし、唾液と消化をストップさせ(消化不良の原因)、性欲が減衰し、足に逃走用のエネルギーを送り、逃げたり戦おうと準備してしまうのである。

また、常に深刻な不安を抱えている人は扁桃体が敏感になり、些細な不安でも逐一アドレナリンを放出するようになる。これが一般に不安障害とされる人の状態である。

笑っている顔から怒っている顔まで段階的に変化させた写真を、不安障害の人に見せると、曖昧な顔を怒っている方に分類しがちという研究がある。
だが、なぜそう判断したのか本人には論理的に分析することができない。
脳の論理的な領域である前頭前皮質は、感情を司る扁桃体を制御できないためである。

不安障害はその恐怖の種類により次の4種に分類される。

破滅的な恐れ(catastrophic fear)はひどいことが起こると確信したり、特定のものに対しえもいわれぬ恐怖を感じる、〇〇恐怖症(phobia)が当てはまる。

評価への恐怖は対人障害に多く当てはまるように、常に観察され低い評価をされることへの恐怖である。

自制心を失う恐怖はパニック障害と関係する。パニック発作を起こし制御が効かなくなることを恐れる。病状が進行すると発作が起こりうる公共の場自体(広場恐怖症)を恐れるようになる。

未来への恐怖は、先が読めない不確かさによるもので、強迫性障害が当てはまる。強迫性障害の特徴に儀式が挙げられる。鍵をかけたか何回も確かめたり、数があっているか何回も数え直したり、この儀式を行わないと、酷いことが起こると思い込んでしまう。

不安障害はなぜ起こるのだろうか

不安障害がなぜ発症するのかはわかっていないが、不安障害となりやすい
条件についてはある程度わかっている。

一つは遺伝的なもの。親が不安障害なら子供も不安障害になりやすい。

二つ目は性別女性は男性の2倍の確率で不安障害になりやすい。

三つ目は神経伝達物質のバランス。例えばセロトニンが不足すると鬱の原因となりやく、鬱病の人は不安障害を抱えることも多い。
但し、鬱と不安障害の因果関係は不明であり、またセロトニンが不足したことで鬱になるのか、鬱になったからセロトニンが不足するのかという順番もまだわかってはいない。(いわゆる卵が先か、鶏が先か)

四つ目がトラウマ。2話でも解説したが、脳は過去から未来を想像するシミュレーターである。例えば、茂みからライオンが飛び出してきて、命の危機を感じた場合、茂みに恐怖を感じ、茂みを避けるようになってしまう。
これは生存のための防衛本能であるが、人間社会での場合はそれが過剰に働いてしまうことも多々ある。

今じゃ考えられないが、過去に次のような実験があった。
赤ん坊のアルバートに白いネズミを近づけ、ハンマーで大きな音を出す。
すると、最初は白くて小さなものを怖がるようになる。
しかしそれにとどまらず、次第にネズミと同様にふわふわしたうさぎや毛皮まで連想ゲームのように怖がるようになった。(もちろんそのときはハンマーで音を出していない)
関係ないものまで恐怖が結び付きエスカレートするのは不安症によくあるケースだ。論理的に無害で無関係とわかっていても恐怖を感じてしまう

現代は不安の時代?

不安や恐怖は近年急激に一般化している。
不安に対処するグッズが売れ、ベンゾジアゼピン(抗不安薬)の処方量が年々増え、不安に関するネット検索量が急増している。

不安を増加させる原因である。と槍玉に挙がるのが、ツイッターやFacebookなどのソーシャルメディアである。これらが不安の原因となるケースも増えている。成功して輝いてる他人の人生を見て、不安症になりやすい人は影響を受けやすい傾向がある。
SNSの閲覧時間が多い人は孤独感を強く感じ、不安症の傾向が強まる。

SNSやインターネットが不安を掻き立てる現代は、まさに恐怖と不安が蔓延する時代であると言えるだろう。

ここまで読んで、確かに現代は過去に比べ、不安が多い時代だと納得できるというか思い当たる人は多いと思う。かくいう自分も、なるほど確かにそうだと納得していた。

しかし、一方で長期にわたる統計データを分析したところ、不安障害を患う人の割合が増加しているという証拠は見つからなかった
不安が広く蔓延しているような印象は何も現代に限ったことではない。
人類の過去の例を見ても「今は不安の多い時代だ」という風潮は普遍的に存在している。
無意識のうちに、「私は不安が蔓延っている現代に生きてきいる」、という不安意識を持っているのだ。不安への対処がいかに難しいかがよくわかる例だろう。

不安への対処法

人類は長い間不安に悩まされており、現代でもそれは変わらない。
ただ少なくとも不安への対処には進歩が見られている。

1900年代まで不安症への治療といったら、都会の喧騒を離れ、落ち着いた田舎で療養するしかなかった。

ところが、ネズミを気絶させることなく沈静化させる薬がアメリカで見つかり、それが抗不安薬ミルタウンとして販売された。
ミルタウンは瞬く間に全米で最も売れる薬となった。(現在では依存と乱用問題により販売中止となり、ベンゾジアゼピンがその後釜になっている。
ベンゾジアゼピンもまた同様の問題を抱えているのは言うまでもないが。)

抗不安薬は不安障害の治療に効果的であるが、薬の種類が非常に多く、それぞれの作用・副作用も様々である。基本的に副作用は重く、長期間の治療になるため自分に合う薬を見つける必要があり大変である。

お酒で不安を紛らわす人もいるが、アルコールは不安を増強することもあり、副作用を考えると有効な薬とは言えない。

マリファナの効果は賛否両論である。精神活性の主成分であるTHCは心拍数を上げる効果があるため、不安を高める可能性がある。一方精神活性のないCBDは短期的ではあるが、不安に有効であるという研究結果も出ている。

運動にも効果がある。運動は心拍数を上げるため、一見矛盾しているように感じるが、爽快感よるストレス解消や緊張がほぐれる効果がある。
但し、劇的な効果があるわけではなく、不安症の予防としては良いかもしれないが、治療に単体で用いるには力不足である。

不安障害の治療法

不安障害にはたくさんの治療法があるが、未だに万人に対する最適な治療法はわかっていない。
しかし、統計的に現時点で一番効果の高い治療方法はわかっている。
それは投薬と心理療法の両用である。

心理療法の中でも人気があるのが認知行動療法である。
認知行動療法では暴露療法というテクニックがよく用いられる。
それは、恐怖を呼び起こす環境を再現し、その状況に晒されることでその
状況に慣れ、状況と恐怖との結びつきを切り離す治療法である。

実際に行った人によると、恐怖を感じた状況を文章に書き出し、それを録音し何度も聞いたとのことだ。
自ら不安を催す行いをして、不安が極限まで高まり生存本能がビンビンに刺激されても、そんな状況でも自分はは死なない、ということを実感させ学習させる療法である。

粗治療に感じるかもしれないが効果はあるらしい。
トラウマを克服するには恐怖と直面し、打ち勝たなくてはいけないようだ。

まとめ

・不安とは生存本能のためのシステム。人間は生存と関係ないことでも不安を感じるが、そんな場合でも体の中では逃げ出す準備をしてしまっている。

・不安や恐怖、トラウマといった感情は、頭では大丈夫とわかっていても、対応するのが難しい。感情を司る扁桃体は倫理的思考を担う前頭前皮質でも制御できないからである。

・不安障害には薬物療法と心理療法の両用が一番効果が高い。

・不安や恐怖を克服するには、結局のところそれらと向き合う必要がありそうだ。心理療法を試すときは、それを専門とするカウンセラーや医者が助けになってくれるだろう。

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