デザインは制限があるほど面白い。不要な革から“誰かのため”を生み出す「tete」のがま口プロジェクト
STORY14:既存の革を継ぐ「tete」
思い入れはあるけれど、ほとんどつかわないまま、クローゼットに眠っている革製品。多くの人にとって、思い当たるものがあるのではないでしょうか。
バッグブランド「tete」のデザイナー・古田佐和子さんと始まったプロジェクトでは、みなさんから不要な革製品を譲り受け、革と革をつぎ合わせた「エシカルながま口」に生まれ変わらせます。
かつては新品の革をつかって個性的なバッグをつくってきた古田さんが、つかわれなくなった革を生まれ変わらせる「革継ぎ師」として、がま口づくりを始めるようになった背景をうかがうと、デザイナーとしての一貫したスタンスと、これまでのキャリアを経て芽生えた価値観が見えてきました。
制限がある方が面白い
バッグメーカー勤務を経て、東京の若手クリエイター創業支援施設「台東デザイナーズビレッジ」に入居し、2013年に自身のブランド「tete」を立ち上げた古田さん。野菜をモチーフにした個性的なバッグをデザインし、はじめは国内、やがてバングラデシュの工場に発注する形で商品をつくってきました。
バングラデシュの工場に発注するときはオリジナルの革をつくらず、現地で調達できる他のメーカーのストックから革を選び、バッグをデザインしていたそう。限りある中から素材を選んでデザインするというやり方は、クリエイターにとって窮屈なのでは?と疑問が湧きますが、古田さんはそこに面白みを感じていたといいます。
ファスナーなどの副資材も同様に、入手できる範囲のものを選び、つかっていたそう。イメージとは少し違ったものでも「つかい方次第でいい感じになるんだなって学びましたね」と振り返ります。
誰のためのものづくり?
台東デザイナーズビレッジでたくさんのクリエイターに囲まれ、刺激的なブランド立ち上げ期を過ごしたあとは、地元・横浜のシェアオフィスに入居し、バングラデシュで生産したバッグを百貨店催事やオンラインショップで販売するスタイルで活動。同じオフィスでは、NPOなどの社会貢献事業に関わる人が多く働いていました。
明確な答えは出ないまま、出産を機にシェアオフィスを退去。育児に追われる日々を過ごす中、新型コロナウイルスの世界的パンデミックが訪れました。百貨店催事での販売は難しくなり、古田さんは生活のために飲食店でパート勤めをすることに。料理人である夫の三浦さんも大きな打撃を受け、夫婦で仕事へのやりがいを感じにくい状況が続いたといいます。
そこで、新規事業として夫婦で始めたのがteteのショップ&カフェ「tete cafe」です。古田さんがオーナー、三浦さんがシェフとなり、2021年5月に横浜市青葉区にオープンしました。teteのバッグを展示・販売するとともに、三浦さんによるカジュアルフレンチを提供するお店として、忙しい日々を送ることとなりました。
デザインや革のあり方を再考
慣れないカフェ業務と子育てに追われ、なかなかバッグの製作を再開できずにいた古田さん。過去につくったバッグを売るだけの日々でしたが、子どもが成長し生活が落ち着いてきたこともあり製作を再開しようと考えたときに、 “デザイン”そして“革”のあり方と改めて向き合ったといいます。
過去の製作スタイルはこの考えがあってこそ。これをさらに加速させたのが、飲食業を営む中で得た、動物由来のものを避ける“プラントベース”の人が増えていることへの気づきでした。
それを一番シンプルな形で実現すべく、デッドストックの革や不要になった革製品をそのまま活用する方法を模索しました。以前はフリーマーケットによく足を運んでいたという古田さんは「人が愛着を持っていたものが、違う人のものになるって、なんか面白い」と語ります。もともと、ものを循環させていくしくみに興味があったのです。
女性の自信につながるものを
いざバッグを製作しようとアイデアを練る中で、浮かんできたコンセプトは「子育てしながら働く女性を応援したい」というものでした。
新しい商品の試作を始めたものの、思うようにはいかず試行錯誤の繰り返し。最終的にがま口に行き着いた大きな理由は、その“つくり方”にありました。小物ながら、古田さんがつかうバッグ用ミシンでも縫製可能なシンプルな構造と、職人でなくても口金を取り付けやすいということ。ここに、がま口の可能性を見出したのです。
古田さん自身がパートで働くことを選んだとき、子育てしながら職を探すことの難しさを体感しています。だからこそ描けた、女性の“働く”までを見据えたものづくりのしくみ。「シェアオフィスでNPOの人たちに出会った影響が大きい」と振り返るように、当時感じていた葛藤をも消化してくれます。
異なる素材感の革がなじむ
エシカルながま口のプロジェクトは、まだ始まったばかり。最初は古田さんがかつてオーダーメイドでバッグづくりをしていた頃に仕入れた革のストックをつかった商品が中心ですが、今後、つかわれなくなった革製品を素材にしていくことで、いろいろな表情のものが生まれていく予定です。
「tete cafe」で開催しているワークショップはとても好評だそう。メルとモノサシへも、本革製品を持ってきてくださる方が少しずつ増えてきました。自分でつくったものや、自分の革製品が生まれ変わってできたものは、大事につかい続けたくなることでしょう。人びとが何らかの形でものづくりに関われるこのプロジェクトは、素材を循環させるだけでなく、つかい手の愛着をも育むはずです。
「限られた素材で面白いものをつくる」という古田さんのゆるがないスタンスに感心するとともに、無限に広がるその“いかし方”の可能性に面白さを感じずにはいられません。
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