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伝統こそチャレンジを。地元の文化を敬い、土をいとおしむ気持ちが生んだ備前焼リサイクル「RI-CO」

STORY15:再生備前焼「RI-CO」

つくり手のストーリーを通じてつかい手と“いとしさ”を共有するエシカルオンラインショップ「メルとモノサシ」に掲載中のブランドストーリーをnoteでもご紹介しています。

土から生まれた陶器は、土に還らない。

この事実は、意外と知られていないように感じます。天然の土からつくられているけれど、高温で焼成するため土中の有機物がなくなり、石のような物質になってしまうのです。

「RI-CO(リッコ)」の陶器は、岡山県備前市で800年の歴史を持つ伝統工芸・備前焼の産地から、さまざまな理由で廃棄された破片をリサイクルしたもの。土そのもの色味や、ざらっとした触感からは、備前焼さながらの風合いが感じられます。

それもそのはず。この陶器には、備前の人たちの“土”を想う気持ち、そして地域産業をリスペクトし合う気持ちが表れているのです。

レンガの技術を応用

備前焼のリサイクルを初めて成し遂げた牧沙緒里さんは、陶芸と同じく天然土石を原料とする備前市の地場産業の一つ、耐火レンガの製造会社で働いています。牧さんにとって備前焼は身近な存在だったものの、現状について具体的に知ったのは、法律関係の仕事でキャリアを積んだ後、親族が経営する現在の会社で働くようになってからでした。

前職時代、岡山県の経営支援員として「備前焼の売り上げが落ちている」という相談を受けたことがありましたが、実際に備前に戻り、地場産業同士で交流していく中で、在庫がたくさんあったり原料となる土が枯渇していたりと、備前焼が抱える課題を深く知るようになりました。窯元を訪問したときには、破損や水漏れなどのため販売できない作品が陶器ごみになっているのを目の当たりにしました。

(牧さん)
備前焼の陶器ごみ

そんな中で牧さんが驚いたのは、同じ備前の焼き物でありながら「レンガの製造ロス品である廃レンガは99%以上リサイクルができている」ということ。牧さんの勤める会社は、自社で発生する廃レンガを原料としてリサイクルしていました。このことを知り、牧さんは「備前焼のリサイクル」の可能性を探り始めます。

「土がない」と言いつつ破損品を捨ててしまうなら、それらを原料にリサイクルしたらいいじゃないかと、単純に思ったんです。きっと備前焼は800年の歴史の中でたくさんの改良を積み重ねてきたはず。環境への配慮が当たり前になった今、伝統を守りつつも新しいチャレンジをしてもいいんじゃないかなと。
備前焼は釉薬をかけず土だけでつくられているからレンガと同様に粉砕できるし、リサイクルのノウハウが地元にあるからCO2を排出して遠距離を運ぶ必要もない。この“発見”をした以上、やってみたいと考えました。

(牧さん)

備前焼をつくる作家や窯元のほとんどは、家単位で営む工房です。たとえリサイクルに関心があっても、それぞれが巨大な粉砕機を導入することは現実的ではありません。また、リサイクル素材の開発には化学的な分析も必要でした。そのため、作家や窯元から譲り受けた破片を用いて、専門的な技術者がいる牧さんの会社内で試作を重ねていきました。

備前焼の性質をいかす

たくさんの人が気軽に楽しめる商品をつくりたいと考えていた牧さんは「備前焼はコーヒーの味が変わる」と言われていることに着目。コーヒーに特化して商品開発を進めることにしました。

リサイクル粘土はできたけれど、はじめはどうしても水が漏れてしまったんです。まずはその性質をいかしてコーヒードリッパーをつくろうとしたのですが、構造的な知識が全くなくて。備前焼業界の方に岡山市内でコーヒーと備前焼について追究されているコーヒー屋さんを紹介いただき、一緒に開発を進めました。

(牧さん)


コーヒードリッパー

その後、粉砕の細かさや天然の粘土との配合比率、焼く温度や時間など、試験研究を重ね、なんとか水漏れを解消。RI-COシリーズのアイコンとなるマグカップや珈琲玉などが誕生しました。リサイクル粘土の成分比率は商品によって異なり、多いもので7割程度だといいます。

リサイクル粘土

生産にあたり、牧さんは陶器のリサイクルが進む岐阜・美濃焼の産地に幾度も相談したそう。

美濃焼は伝統と現代技術を融合させ、日本で最も“産業”として陶器をつくっているところ。自動ラインで日に数万個つくる工場もあるらしく、家内工業で一つひとつ手でつくる備前焼とは全然違います。
RI-COのリサイクル粘土は質感が石っぽく、備前の伝統的な手ひねりよりも機械生産の方が適しているため、美濃の技術を参考にしました。型に粘土を流し込んで成形し、ガスや電気の窯で焼くという現在の生産体制が整えられたのは、美濃の方たちのおかげです。

(牧さん)

とはいえ、RI-COのリサイクル粘土は大量生産ができるほど扱いやすくはなく、工場で職人が細かく状態を見ながら手を入れて生産する「半機械生産」のようなやり方でつくっています。

職人さんが一つひとつ確認しながら、機械で型に粘土を流し込みます

風合いへのこだわり

RI-COの陶器の大きな特徴は、土そのものの色合いやざらっとした肌触り。この質感は、牧さんにとって譲れないこだわりでした。

私たちは再生素材で機械生産をしているので、「伝統工芸・備前焼」ではありません。備前焼らしさを無視し、釉薬をかけて表面をつるんとすることもできましたが、私は地元の人間としてどうしてもできなかった。やっぱり、地域文化を尊敬しているんですよね。
備前焼は伝統的に釉薬をかけてこなかったからリサイクルしやすいわけですし、RI-COは陶器ごみを減らしたいという思いで窯元さんから集まった破片と備前の土だけでつくっている商品。再生品とはいえ、外から見たときに備前焼特有の天然の風合いを感じられるものにしたかったんです。

(牧さん)

天然の粘土は粒の大きさが均一ではないため、伝統的な備前焼の表面はざらざらとしています。RI-COでもその質感を出すために、あえて粒度を均等にせず粘土をつくり、備前焼と同様、釉薬をかけず焼き締めています。

備前焼の作家や窯元も「ごみをなくすのは大事なことだ」と共感し、RI-COの陶器ごみ回収や生産に協力的だといいます。登り窯を焚くときに「スペースが余るから200個ぐらい一緒に焼くよ」と連絡があったり、備前焼の伝統技法を用いたコラボレーションが実現したり。RI-COには備前焼らしさを楽しめる品揃えが増えてきています。

備前焼の伝統技法「ひだすき」で柄をつけたシリーズ「ランタンオレンジ

また、商品には小さな“やすり”が同梱されています。これは、備前の文化を体験できるちょっとした遊び心です。

陶器を削るなんて、ありえないですよね。でも備前の家庭では、ざらつきが気になったりお茶碗が欠けたりしたら「危ないから削ろう」というのも珍しくありません。もちろん商品はしっかり削ってから出荷していますが、つかう人がやすりで仕上げを疑似体験することで、この焼き物は本当に土だけでできているんだなって実感してもらいたくて。

(牧さん)
付属のやすり

産地のごみは産地の責任

備前焼の陶器ごみは現在、作家や窯元の組合からの廃棄品を中心に、年間約12〜13トンほど自主回収しています。産地である伊部駅には自治体による回収ボックスが設置され、一般市民からも回収しています。

陶器業界全体で見れば、10トンぐらいで何の意味があるの?という程度の量です。でも、「歴史ある備前焼が産地でごみを出さない伝統をつくった」ことが大事だと思うんですよね。
リサイクルって、コスト面でも環境面でも、産地に戻さず発生した地域で再生するのが一番いいんです。ならば、産地には産地の産業で出るごみをなんとかする責任がある。備前焼の産地が備前焼のごみをなくすというのは、正解なんだと思っています。

(牧さん)

地元をよく知り、地元の産業を担う牧さんだから、業種を隔てて人をつなぎ、RI-COを生み出すことができたのだと痛感します。「地元の“焼き物”どうし根っこが同じで、仲間意識があるから一緒にできるんじゃないかな」と語る牧さん。その根っこに通ずるのは、土への愛情です。

土の産業をしているので、やっぱり土とか石ころにいとおしさを感じるんですよね。だからこそ捨てられてしまう部分にも価値を見出したいし、土や石を見るとすぐ「これは何かになるぞ」と考えちゃう。もう染み付いているんです。
平均点を取れない商品を犠牲にしてブランドや伝統が成り立っていた時代から、それらを救うことが評価される時代になってきています。臭いものに蓋をする世の中を変えていきたいですし、私たちみたいな田舎の小さい会社でも、こういう取り組みができるってことを伝えていきたいですよね。

(牧さん)

産地の人にしかない感覚が時代の価値観と出合ったとき、伝統産業の未来はつくれるのではないか。RI-COのカップでまろやかになったコーヒーを飲むたびに、そんなことを考えさせられます。

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