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“脱プラ”の流行にとらわれない。「N h e s .」の歯ブラシをつかうと、おのずと環境を想い始める

STORY12:自然に還る歯ブラシ「N h e s .」

つくり手のストーリーを通じてつかい手と“いとしさ”を共有するエシカルオンラインショップ「メルとモノサシ」に掲載中のブランドストーリーをnoteでもご紹介しています。

最近は「脱プラスチック」という言葉を耳にすることが増え、多くのものが自然由来の素材でつくられるようになってきました。

毎日つかう歯ブラシもそのひとつ。竹製や木製のものを見かける機会が増えています。

「N h e s .(ナエス)」の歯ブラシは、完全にプラスチックフリー。本体となる柄には椅子の端材であるブナ材が、ブラシは食肉の副産物である動物の毛、柄の塗装にはエゴマ油……と、全てが土に還る素材でつくられ、環境配慮への徹底的なこだわりが感じられます。

フォルムはどことなく、慣れ親しんだプラスチックの歯ブラシを彷彿とさせます。それもそのはず、この歯ブラシがつくられているのは、国内屈指の歯ブラシの産地、大阪府東大阪市。生みの親・村中克さんは、歯ブラシを主とするプラスチック製品の製造会社の経営者でもあり、この歯ブラシにはプラスチック歯ブラシの製造で培ったノウハウがいかされているのです。

プラスチック歯ブラシの製造を生業とする人が、完全プラスチックフリーの歯ブラシを熱い思いでつくっている――。そんな状況を知り、ぜひとも話をうかがいたく、東大阪市まで行ってきました。

村中さんはどのような思いで、天然素材の歯ブラシをつくっているのでしょうか。

シドニーで出会った竹歯ブラシ

プラスチック製造の仕事に誇りを持って取り組んでいる村中さん。15年前の創業当時からエコへの意識も高く、つかい捨てされやすい宿泊施設のアメニティ歯ブラシをできるだけコンパクトにするなどのアプローチを行ってきました。

とはいえ、世の中でプラスチックごみへの問題意識が急速に広まる中で、しだいにモヤモヤとした気持ちが芽生えていたといいます。

「海亀の鼻にストローが刺さっている衝撃的な画像を見たことや、世の中でプラスチックごみの問題を言われ出したことがきっかけで、自身の仕事については認めつつも、何かせなあかんなと思っていました」

(村中さん)

運命の出会いは2018年春。旅先のオーストラリア・シドニーのスーパーマーケットで、竹製の歯ブラシが棚に並んでいるのを見て、村中さんに衝撃が走ります。すぐさま購入し、「これをつくらなあかん!」と考えました。

帰国後はインターネットで大量の竹歯ブラシを購入して研究を進め、「ナイロン毛のものが多い」「日本製のものがない」「ヘッド部分が大きく日本人には好まれにくい」などの事実を知り、つくりたい歯ブラシのイメージを具体的にしていきました。

「そこまで世の中がプラスチックのことを悪く言うなら全くつかわずにやったるわ!っていうぐらいの気持ちもありました。プラスチックの仕事があっての自分だから、そこは否定もできないしやっていくんですけど、反面、全くつかわないのも面白いんじゃないかなと」

(村中さん)

地場産業という地の利をいかせば、協力してくれそうな人は周りにたくさんいるはず。ところが村中さんは立場上、堂々と相談ができなかったそう。大阪から離れた場所の植毛屋さんに声をかけたり、名前を伏せて探してもらったり。手を尽くしても、開発に着手してくれる人にはなかなか出会えませんでした。

次々に巡ってきた縁と知恵

そんな時、ふとしたきっかけで思い出したのが、知人の木工職人さんでした。相談すると二つ返事で竹の本体を試作してくれました。さて次に植毛をどうしようか、というタイミングで、今度は村中さんのもとへ、天然毛の植毛を得意とする取引先が廃業の相談に訪れたのです。

「『廃業する前に植えてみてほしい』ってお願いしたらすぐにやってくれはって。その時は今ほど完成されていなかったけど、『これならできるな』って。だから廃業せんと一緒にやろうって僕から言ったんです。新しい法人を立ち上げ、一緒に商品開発と販売をやっていくことになりました」

(村中さん)

そのメンバーが、株式会社プラスの代表・中山さんと職人の西本さんです。天然毛の植毛ができる西本さんは、国内でも少ない貴重な存在。年季の入った機械を巧みに操りながら、慣れた手つきで小さな歯ブラシのヘッド部分に豚毛や馬毛を植えつけていきます。

そこからはみんなの知恵をいかしあい、理想の歯ブラシを追い求めていきました。

「椅子の端材をつかってはどうか」という木工職人さんからの提案、プラスチックの主力商品を参考に描いた村中さんのデザイン、「毛を斜めにカットすれば木の厚みがあっても奥まで磨きやすくなる」という中山さんからのアイデア……さらに、たまたま出会った油屋さんからの助言で、塗装にぴったりのエゴマ油にもたどり着くことができました。

こうして、全て土に還る素材で、持ちやすく磨きやすい、数ヶ月つかっても毛が広がらず木の質感を楽しめる、そんな歯ブラシが出来上がったのです。つかい心地は、仕事柄いろんな歯ブラシをつかってきた村中さんの折り紙つき。

村中さんは、縁に恵まれようやく叶えたこの歯ブラシに焼印を押すとき、いとおしさがこみ上げてくるといいます。

「製造工程の最後に焼印を押し、消毒や梱包をするのは僕なんですよね。すごい縁でできたから『うわ、できてしもたわ』って奇跡みたいに感じていて。世に出してあげたいっていう気持ちだけでやってきたから、どうしても『この子』っていう言い方になっちゃう。」

(村中さん)

自然に環境について考える

ブランド名の「N h e s .(ナエス)」は、スウェーデン語の文”Nature hittar ett satt.”の頭文字を取ったもの。意味するのは、“Nature will find a way(=自然は自らその解決方法を探しうる)”。木や花が自然に太陽の方を向き、環境の変化に合わせて強く育っていくようなイメージから名付けました。

「環境に配慮した商品をつかってもらうことで、地球を次の次の次の世代まで、最低でも今の状況で伝えていきたい」という思いのままに、村中さんは歯ブラシ以外の周辺アイテムの開発にも着手。モルタル製の歯ブラシスタンド、お手入れ用のエッセンシャルオイル、革の端材でつくったキャップなど、全て環境に配慮した素材でつくっています。

こうしたナエスのものづくりは、村中さんに変化をもたらしたといいます。

「これをやり出してから環境のことを自然と考えるようになってきたんですよね。だから、そういう人が増えたらいいなと思って。これをつかう人が増えたら自然とそういう思考になる人が増える。つかうことで心が豊かになって、“脱プラスチック”という流行に乗るのではなく、おのずと意識が変わっていく。ほな少しずつでも、自然とよくなっていくのではないかなと」

(村中さん)

日々、環境に配慮したものをつかうことで、おのずと環境に意識が向く――ナエスの商品をつくり・つかうことで起きた自身の変化からより明確になってきたビジョンは、ブランド名に込められた意味を体現しているようです。

選択肢を増やしていく

村中さんは、自身の営むプラスチック製造業を否定することはしません。ナエスを通じて環境への意識がより強くなった今、環境に配慮したプラスチック製品の開発にも注力しているといいます。

「会社の経営理念が『存在価値があるものを提供する』なので、プラスチックだけれど世の中に存在していいものをつくり続けたい。自分の仕事を下げて思うことはしたくないですね」

(村中さん)

新たな法律もでき、プラスチック業界に環境配慮の波が押し寄せていることは紛れもない事実。そのときに、村中さんのように心から地球環境に思いを馳せている人がいると思うと、新しいプラスチックのあり方にも期待が高まります。

プラスチックと天然素材の歯ブラシ。ついつい、対極で相容れないようなイメージを持っていましたが、村中さんの話を聞き、両者は横並びにある方が自然だなと感じ始めました。村中さんは「選択肢を増やすことも目的だ」とナエスについて語ります。きっと近い将来、「プラスチックか否か」の二択ではなく、さまざまな選択肢が生まれてくるのではないでしょうか。

既存の産業を否定するのは簡単ですが、これからの時代に必要なのは、村中さんのように、そこで培ったノウハウをいかしながら、心から環境に配慮したものをつくる動きなのかもしれません。

“脱プラスチック”の流行にとらわれず、おのずと環境を思う気持ちが芽生えるナエスの歯ブラシ。たくさんの人がつかうことで、人びとが自然に、自らの立場で環境に配慮したものをつくり、つかうようになる。そんな時代を待ち遠しく感じています。

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