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#短編小説
野原屋さん。
世界の果てのある町に
野原屋さんがあった。
土からつくった手づくりの野原を
ちいさな箱に入れて
ひもで結んで売っていた。
町のひとは仕事で疲れた
いちにちの終わりに
おうちで小箱の野原を
そっとひらいた。
町のひとはそれぞれの
野原を大事にしながら
生きた。
おにぎりを泣きながら食べて。
悲しむことと
愛することは同じで
うたをつくることと
庭をつくることは同じで
後悔することと
前進することは同じで
失うことは得たことで
写真は永遠で春は寒くて
憎くくて好きで
すべてはぎゅっと
握られたおにぎりで
わたしはそれを
泣きながら食べて
意味もわからず生きる。
まじめに取り組むために、しっかり逃げる。
#お洒落なオカマのキツネ が
子ぐまに言った。
おいしいものを毎日食べたら
美味しくなくなる。
まじめに生きることは
たまにふまじめになること。
自分に向き合うことは
たまに自分から逃げること。
まじめすぎることって
もはや悪しき信仰ね。
まじめに取り組むために
あたしらしっかり逃げるの。
いかにたくましくお洒落しようとしてたか。
なにをお祈りしたの?
子ぐまが訊いた。 #お洒落なオカマのキツネ が
答えた。
なにひとつうまくいかなくても
どんなにだめでも
たくましく、しぶくとく
生きていけますようにって。
状況がいかに最悪かとか
どうでもいいの。
そこであたしが
いかにたくましく
お洒落しようとしてたかが
重要なの。
あんたら人間は悲しがりすぎる。
大阪のおばちゃんねこが言った。
こんなん年の瀬に
言いたくないけども。。
あんたら人間はな
悲しがりすぎる。
ねこはな、傷をおったら
なめてまるくなって
じっとして眠るだけや。
あんたらもな
ごはんつくって
片付けして
美しいものを愛でて
まるくなって眠って
ただ生きるだけで
ええねん。
現実と幻想の両方にきちんと取り組む。
子ぐまに #お洒落なオカマのキツネ が言った。
世界とか社会とか自分の欠落とか
嫌になることはいつもあるわよ。
だけど
あんたが好きなもの
夢みるものに出会えた幸運と幸福は
そんなものたちに
なにひとつ汚されることはないの。
あたしたちは
現実と幻想の両方に
きちんと取り組むべきなの。