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2023年10月の記事一覧
物語は言葉より先にうたを覚えた。
男の子は女の子に小箱を贈った。中身は秋の複雑な光と影に包まれた物語の赤子だった。物語はまだあどけなく言葉を知らなかった。女の子は物語をゆりかごでゆすり、うたを聴かせた。物語は言葉より先にうたを覚えた。
きみの宇宙はこの世だけでなりたっていない。
詩の学校でジムモリソン先生が言った。いいか、きみたちはこの世を大事にしすぎている。あの世や幻想も同じように大事にするんだ。そこへ行く秘密の通路や、会話の手段が、詩やうたや絵さ。もしくはしんと生けた花かもしれない。大事にすればすべてはある。きみの宇宙はこの世だけでなりたっていない。
ひとりになれる丘の上のお家。
男の子は女の子に小箱を贈った。小箱の中身は、女の子がひとりになれる、世界のどこからも離れた丘の上のお家だった。女の子はつらいとき、そこに行ってひとりでいちじくのパイを焼いて過ごした。男の子は、自転車でお家の前まで来て、いちじくのパイの匂いをしばらくかいで、声はかけずに帰った。
わたしたちは言葉を使いすぎた。
わたしたちは言葉を使いすぎた。
世界の果てのある国のひとたちは、そう気づいて言葉を封印した。美しいもの、素敵なものに触れたら、すぐに言葉にせず、黙ってひとにやさしくし、黙って自分を成長させた。そして、その美しさの奥深い謎と自分を見つめながら、名もなきうたや絵を黙ってつくり続けた。
気軽に絶望できない。
もう死んでもいいかな、なら、最後に恥も外聞もなく本をつくろう。そしてつくった本をカフェに置いてもらい、その本を見た書家の方が、書にしてくださり、その書をそのカフェで撮影し、本にした。こんなことってあるんだな。カフェで書のインスタレーションイベントもする予定。気軽に絶望できないね。
小箱の中身はカルーセル。
口下手な男の子は、女の子に小箱を送った。小箱の中身は、秋のカルーセルだった。女の子は馬たちを取り出して、ミルクをあげた。夜、馬たちはおとなしく小箱に戻り静かに眠った。女の子が元気がない時には、馬たちはカルーセルの灯を灯し夢のようにまわってみせた。