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短いおはなし7

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2023年10月の記事一覧

物語は言葉より先にうたを覚えた。

物語は言葉より先にうたを覚えた。

男の子は女の子に小箱を贈った。中身は秋の複雑な光と影に包まれた物語の赤子だった。物語はまだあどけなく言葉を知らなかった。女の子は物語をゆりかごでゆすり、うたを聴かせた。物語は言葉より先にうたを覚えた。

きみの宇宙はこの世だけでなりたっていない。

きみの宇宙はこの世だけでなりたっていない。

詩の学校でジムモリソン先生が言った。いいか、きみたちはこの世を大事にしすぎている。あの世や幻想も同じように大事にするんだ。そこへ行く秘密の通路や、会話の手段が、詩やうたや絵さ。もしくはしんと生けた花かもしれない。大事にすればすべてはある。きみの宇宙はこの世だけでなりたっていない。

時折目覚めるとオーロラがそよいでいた。

時折目覚めるとオーロラがそよいでいた。

北の果ての駅で、北限行きの切符を買った。列車が進むうちに、冬がたちまち深まり、窓に氷の結晶が音を立た。深く眠り、時折目覚めるとオーロラがそよいでいた。オーロラのやわらかなカーテンに紛れ込むようにまた眠りに分け入った。
#イプシロン急行

ひとりになれる丘の上のお家。

ひとりになれる丘の上のお家。

男の子は女の子に小箱を贈った。小箱の中身は、女の子がひとりになれる、世界のどこからも離れた丘の上のお家だった。女の子はつらいとき、そこに行ってひとりでいちじくのパイを焼いて過ごした。男の子は、自転車でお家の前まで来て、いちじくのパイの匂いをしばらくかいで、声はかけずに帰った。

わたしたちは言葉を使いすぎた。

わたしたちは言葉を使いすぎた。

わたしたちは言葉を使いすぎた。
世界の果てのある国のひとたちは、そう気づいて言葉を封印した。美しいもの、素敵なものに触れたら、すぐに言葉にせず、黙ってひとにやさしくし、黙って自分を成長させた。そして、その美しさの奥深い謎と自分を見つめながら、名もなきうたや絵を黙ってつくり続けた。

魔女は夢を見た。

魔女は夢を見た。

魔女は久しぶりに夢を見た。生まれ育った家にいた。テーブルがすこし散らかっていて、みんなどこに行ったのだろうと思った。やがて魔女は夢の中で気づいた。そうだった、わたしひとりだった。でも。と思った。わたしひとりの中にみんなを感じた。わたしひとりの中に幸運と自然と無限と自由を感じた。

気軽に絶望できない。

気軽に絶望できない。

もう死んでもいいかな、なら、最後に恥も外聞もなく本をつくろう。そしてつくった本をカフェに置いてもらい、その本を見た書家の方が、書にしてくださり、その書をそのカフェで撮影し、本にした。こんなことってあるんだな。カフェで書のインスタレーションイベントもする予定。気軽に絶望できないね。

幸せは続いている。

幸せは続いている。

こんなおれにも、しあわせなときというのがあったが失われた。きつねは思った。幸せは終わったのか?ちがうな。続いている。しあわせが終わって失意を生きるのではない。しあわせがあった幸運で、失意の日々を風を切って進む。しあわせとともに失意を生きる。

小箱の中身はカルーセル。

小箱の中身はカルーセル。

口下手な男の子は、女の子に小箱を送った。小箱の中身は、秋のカルーセルだった。女の子は馬たちを取り出して、ミルクをあげた。夜、馬たちはおとなしく小箱に戻り静かに眠った。女の子が元気がない時には、馬たちはカルーセルの灯を灯し夢のようにまわってみせた。

詩の学校で

詩の学校で

詩の学校で詩人のシェリー先生が言った。みなさん、苦境に呟くべきことばはひとつ。まあ、そんなこともあるさ、です。英語で言うとdon't think twice,it's alright.大阪弁だと、まあ、そないなこともあるやん、です。たくさんつぶやいて日々、乗り切りましょう。