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【青い春夜風】

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悩める2人の不登校少年と、その2人を3年間担任した1人の若い熱血教師の物語。「青春とは何か?」という問に対して、3人は答えを見つけることが出来るだろうか。
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2023年5月の記事一覧

青い春夜風 07

青い春夜風 07

Before…

【七】 明るくなり始めた時までは記憶が朧げにあるが、結局眠ることはできたようで、雅に叩き起こされた。
「光佑、いい加減起きなよ。うりゃっ。」
 頭をぺしぺし叩かれ、遠くから聞こえた声が徐々に近付いて、漸く遅くて浅い睡眠が終わった。
「わり、おはよーさん。あんま寝た気しなかったわ。」
「勝手にやったけど、珈琲淹れたよ。これでスッキリするっしょ。」

 春先とはいえ、朝はまだ暑いとは

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青い春夜風 06

青い春夜風 06

Before…

【六】 担任と主任が家から出て間もなく、奥の部屋の押し入れから小動物が飛び出してきた。
「へへっ、上手くいったね!ざまーみろばーか!」
「ここまで作戦通りに行くと気持ち悪ぃな、良い意味で。」
 冷蔵庫からキンキンに冷えた缶ビールを二本出して、勢いよく乾杯して飲んだ。ここまで頭がキレる幼馴染が恐ろしく頼もしい。

 時間は、約一日前に遡る。

 北小の馬鹿共を叩きのめし、家に帰った

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青い春夜風 05

青い春夜風 05

Before…

【五】「晴野先生と木ノ原くん、ちょっと。」
 朝のホームルーム後すぐ、廊下で待機していた主任に呼ばれた。
「はい、おぉ林に、森田。ってその顔、どうした?」
 鼻にガーゼを貼った林と、主任の姿から昨日の出来事が頭を駆け巡った。あの二人が関わっていると直感させる。林が口を開いた。
「昨日、光佑の奴に殴られたんです。」
「光佑…?」
「はい。俺ら三人でいた時に、煙草吸いながら。雅もいま

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青い春夜風 04

青い春夜風 04

Before…

【四】 申し訳なさそうに我が家を去る担任を見送り、次の面倒を見る番になった。
「雅、おい雅。雅ッ!」
「迷惑……めいわ…あっ!?どしたん光佑、ごめん聞いてなかった。」
 はぁ、と息が漏れた。煙草を一本取り出して咥え、もう一本を伸ばす。
「呼んだだけだよ。とりあえず、一服して落ち着けよ。」
 火種を灯し、冷蔵庫から缶ジュースを二本取り出して一本渡し、蓋を同時に開いて軽く乾杯した。

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青い春夜風 03

青い春夜風 03

Before…

【三】 古い団地の一角で、慣れた手つきで壊れたインターホンを押し、すぐさま扉を二回ノックする。これが、俺の家庭訪問の合図。
「晴野っち、おつかれ!はいこれ、差し入れ!」
 思っていた通り、家主より先に腕白な少年が飛び出してきた。手にはお茶のペットボトルを持っている。
「雅、随分汗かいてるな。運動でもしてきたのか?」
 きゅるんとつぶらな瞳で、少年は言葉を投げ返す。
「そそ、スケボ

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青い春夜風 02

青い春夜風 02

Before…

【二】「なんだよ、新学期早々フケてんのかよ。」
 朝の十時過ぎ、インターホンも押さずに玄関前の扉を開く。そして、縁側でほろ酔いを飲みながら煙草を吸う幼馴染を見つめる。
「おはよ、光佑。お前だってサボってんじゃん。」
 隣に腰掛け、左に倣って煙草を吸う。
「ばーさん、元気か?」
「んー、まぁまぁかな。しばらく店番は俺の仕事になりそうだよ。」
 噂をすれば影。雅のおばあさんが玄関から

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青い春夜風 01

青い春夜風 01

【Prologue】「なぁ、明日から中三だぜ。」

「そーだね。二年の時は何日休んだっけ?」

「出席日数数えた方が早えーよ。多分片手で数えられんだろ。」

「ふーっ、そっか。お互い楽しい一年だったね。」

「あぁ、お前のお陰でな。良くも、悪くも。」

「ははっ、嫌味かい、コースケ君?」

「お前こそ、わざわざ君付けで呼ぶとは嫌味くせぇな。ミヤビ君よぉ。」

「まぁまぁ、お互い様ってことで。」

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【あらすじ】
中学2年と3年の境目で、雅と光佑は2人鉄棒に座って1年を振り返り、1年とそれより先について語り合う。2人は中学1年の時に起きた「事件」をきっかけにほとんど登校しなくなっていた。そんな彼らを3年間担任する晴野は、大切な1年間の為に奔走する。青春って、なんだろう?