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オトナのチョコレート学〜チョコレートのある人生を学問する〜vol.1 平野紗季子さん×土屋公二さん

産地にこだわり抜いたカカオを使った「meiji THE Chocolate」は、リニューアルを機に“チョコレートのある人生”について考えるオンライン講座を開催。
第1回のゲストは、「meiji THE Chocolate」のCMにもご出演いただいている、フードエッセイスト・平野紗季子さんと、日本を代表するショコラティエの一人・土屋公二さんに、チョコレートとの出会いから作り方の解説、ビーントゥバーなど、さまざまなテーマで語っていただきました!

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フードエッセイストとショコラティエ、それぞれのチョコレートの“原体験”

平野:今日は「チョコレートを学問する」と題して、土屋さんにお話を聞けるということでめちゃくちゃ楽しみにしていました! 土屋さん、よろしくお願いします。

土屋:はい、チョコレートのことをたくさんお話ししようと思います。よろしくお願いします。早速ですが、平野さんにとって、チョコレートの原体験は、どんなものでしたか?

平野:私、小学生の頃、あまのじゃくだったんですよ。飛行機に乗るときって、子どもは大抵窓側に座るじゃないですか。でもあえて通路側を選ぶ子どもでした(笑)。チョコレートも、父がよく海外のお土産として買ってきてくれたんですが、カカオ分40%のチョコと80%のチョコがあったら「私は80%が好き!」と言って苦いチョコレートを食べていました。

土屋:相当、あまのじゃくだったんですね(笑)。私の世代はチョコレート原体験といえば、小さい頃、親父がパチンコで負けた罪滅ぼしにもらってきたもの、という人が多いんじゃないかな(笑)。私の場合、それに加えて職業としての目覚めにつながるもう1つ原体験がありました。パティシエの勉強をしにフランスに行った時、現地で「チョコレート屋なら仕事があるぞ」と言われて(笑)、チョコレート屋で働いたんですが、お店で食べたチョコレートがあまりにもおいしくて。その出会いから、「自分はチョコレートを追究しよう!」と思ったんです。

平野:そんなに違ったんですか? フランスのチョコレートって。

土屋:もう目からウロコというか、「なんでこんなにおいしいんだ?」って思うくらい。これをみんなに食べてもらいたいという気持ちを持って帰国して、本格的なチョコレート作りを始めました。

平野:その頃のパティスリー業界って、どういう時代だったんですか?

土屋:いわゆる生菓子とか焼き菓子を作っていました。私がフランスに行ったのは1981年ですが、まだその頃日本には、ショコラトリーとかショコラティエという言葉もなかったです。

平野:なるほど。じゃあ土屋さんはそういう時代から、「meiji THE Chocolate」に至るまでの40年近くを見てきたということですね。

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土屋:明治さんも、その40年の中で比較的早い段階から、世界各地のカカオから商品化していくという考えはあったんですが、最初の頃は全部のチョコレートに香料を入れていて、正直もったいないなと思っていました。でも昔は、「香料を入れないとチョコレートにならない」というのが常識だったんですね。

平野:「meiji THE Chocolate」には産地別にベネズエラ、ブラジル、ペルー、ドミニカ共和国の4種類がありますが、全部香料は使っていないですよね。

土屋:もともとはカカオも、ガーナのカカオに中南米のカカオを少し混ぜて……という風に産地をブレンドするのが主流だったんですよ。それも理由があって、年によって雨がたくさん降ったり降らなかったり、日照時間が長かったり短かったり、そういう気候の変化でカカオの味が変わるので、そのブレをなくすためにブレンドしていました。そして香料を入れて、全体でバランスを取る、というのが常識でした。

平野:均質な味にするために、いろんな産地のカカオをブレンドして、香料を入れていたんですね。

土屋:でも、「meiji THE Chocolate」のように一つの産地のカカオだけで、香料を使わなければ、それぞれの産地のカカオ本来の味わいを楽しめますよね。それに、去年と今年でチョコレートの味が違ったら、おもしろいと思いませんか?

平野:おもしろい! むしろ違って当たり前なんですね。来年の味と今年の味を食べ比べてみたいです。

チョコレート界に「豆を尊重する」という風が吹いた

平野:カカオをブレンドしていた時代から、どのように「一つのカカオ産地にこだわる」という流れになってきたんですか?

土屋:「ビーントゥバー」の発達が大きいですね。チョコレート業界って、我々作り手もカカオ農家も、ここ10年で大きく成長しているんです。一言で言うと、「豆を尊重する」という風潮が出てきました。

平野:「豆を尊重する」……それはカカオ本来の味わいを楽しむとか、カカオに思いをはせるとか、そういうことでしょうか。

土屋:そうですね。私が子どもの頃は、チョコレートといえばカカオ度数の低い甘いミルクチョコレートで、女性や子どもが好きなおやつにすぎなかった。それがここ10年で、ビーントゥバーのチョコレートや「meiji THE Chocolate」のように、70%ぐらいのハイカカオで、パッケージもおしゃれで、産地ごとのカカオの味を楽しみながら食べるチョコレートが登場してきました。

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(左から:ベネズエラ、ブラジル、ペルー、ドミニカ共和国の豆を使ったチョコレート。奥が「meiji THE Chocolate」、手前が「テオブロマ」)

平野:なるほど。個人的には、出始めの頃のビーントゥバーのチョコレートって、口触りが少しザラザラしていたような印象があるんですが、「meiji THE Chocolate」は同じビーントゥバーでも、すごくなめらかですよね。その違いってなんですか?

土屋:大きく2つの要因があって、1つは作り手が粒子を粗くするか、細かくするか。もう1つは使っている機械によって、粒子の大きさが違ってくることです。

平野:粒子が細かいと、なめらかになるんですね。

土屋:そうです。ビーントゥバーのチョコレートでも、粒子が粗いものと細かいものがあります。

平野:そういう違いも意識すると、チョコレートを食べるときの解像度が高くなる気がします。

一流ショコラティエが解説! 「チョコレートは科学である」

平野:そもそも、チョコレートってどうやって作るんですか? 土屋先生、教えてください!

土屋:わかりました。まずカカオの種を蒔きます。1週間くらいで芽が出て苗になりますが、そこからカカオの実ができるまでだいたい6〜7年、早い方法でも3〜4年はかかります。

平野:え!? そんなにかかるんですか?

土屋:実がちゃんと採れるようになるにはそれくらいかかりますね。花が咲いてから6カ月くらいで実ができるので、収穫します。収穫したら中をくりぬいて、果肉と種に分けます。私たちがカカオ豆と呼んでいるのは、この種のことなんですよ。

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(ブラジルの農園にて土屋さんが撮影。種は白い果肉に包まれており、果肉は食べると柑橘やライチのような風味がする)

平野:カカオの種ってことなんですね。

土屋:そうです。そして、その種を発酵させます。

平野:チョコレートといえば発酵っていうイメージがあります。

土屋:発酵させるパターンと、させないパターンがありますよ。発酵の方法は国によって違います。バナナの皮に包んだり、木箱に入れたり。だいたい5〜6日発酵させます。

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(写真左;バナナの皮で覆って発酵している、同右:発酵に用いられる木箱 どちらもブラジルにて土屋さんが撮影)

平野:バナナの皮に包むのは、なんでですか?

土屋:よくぞ聞いてくれました! 最近ようやくわかってきたんですが、バナナの皮の裏に、微生物がいっぱいいるんですよ。いろんな国のいろんな種類のバナナの皮をもらってきて、微生物を詳しく調べたら、例えばブラジルとベネズエラでは菌の種類が違う、なんてこともわかりました。

平野:それぞれの微生物が、発酵を促進するんですね。おもしろい!

土屋:おもしろいですよね。他にも発酵にはいろんな考え方があって、豆を入れる木箱を一回一回洗って、死んだ微生物を流した方がいいという考え方もあるし、バナナの皮なんか使わなくても、手でかき混ぜちゃえばその菌で発酵するっていう考え方もあるし。チョコレートは科学なんですよ。

平野:チョコレートは科学! なるほど。発酵によって種に何が起こるんですか?

土屋:味の変化が起こります。簡単に言えばおいしくなる、もしくは少し酸味が出ます。

平野:そうなんだ。発酵の次は?

土屋:乾燥させます。基本的には天日干しですね。これも地面に並べて乾かすパターンと、棚に並べて乾かすパターンがあります。1週間から10日ほど、ゆっくり時間をかけて乾燥しないと、豆の中まで乾燥しないんです。乾燥が終わったら、麻袋に詰められて世界各地に輸出されます。一次産業としてのカカオの生産は、ここまでです。

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(ブラジルの青空とカカオ豆のコントラストが美しい)

平野:あれ、豆のローストはいつ行うんですか?

土屋:輸出される段階のカカオ豆を生豆と言いますが、生豆が工場に着いて、ゴミを取り除いてからローストします。このローストする際の温度やかける時間というのが、チョコレート会社それぞれの企業秘密なんですよ。

平野:そこが味の要ということですね。

土屋:そうです。焼き方にも大きく分けて2種類あります。生豆をそのまま丸ごと焼くか、細かく砕いてから焼くか。前者は豆の外側がしっかり焼けて、内側は少し火の通りが弱い。ビーントゥバーではほぼこの焼き方です。後者は小さいので均一に火が入って、時間がかからない。量産するには後者の方が適しています。

平野:それで風味が違ってくるんだ。勉強になりました……!

カカオ豆は、チョコレートの「原石」

平野:土屋さんは、「meiji THE Chocolate」の4カ国には全部行ったことがあるんですか?

土屋:全部行きましたよ。この4カ国以外にも。現地に行ったら、何があると思います?

平野:現地の人との出会い、でしょうか。

土屋:そう、出会いがあるんですよね。人だけじゃなく、その土地の気候や風土、いろんなことを感じます。それにカカオ農家の人たちって、みんなカカオを愛しているんだなというのが伝わってくる。そうすると我々も、チョコレートを、カカオを大事にしなきゃいけないなって思うんですよ。そういう出会いから、現地を応援したいという気持ちにもなります。生産環境を整えて収穫量が倍になれば、農家の方の収入も増えますから。

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(ペルーのカカオ農園にて)

平野:すごい熱量ですね。明治さんも「メイジ・カカオ・サポート」というカカオ農家支援の取り組みをされていますが、確かに、手間をかけて育てているカカオ農家さんたちに、利益がきちんと還元されてほしいなって思います。

土屋:現地で出会ったカカオ豆を、どうやっておいしいチョコレートにするか、焼き方を変えたり、温度を変えたり、試行錯誤してデビューさせていくっていうのが、ショコラティエの醍醐味です。

平野:デビュー! アイドルプロデューサーみたいですね。

土屋:カカオ豆はチョコレートの原石ですからね。

平野:「テオブロマ」さんはお店ができてからずっと、「meiji THE Chocolate」のような、産地にこだわった板チョコを作られているんですか?

土屋:いや、豆の産地を選んで作っているのは7〜8年前からです。産地には、会社ができた22年前から足を運んでいたんですが、実際に仕入れてチョコレートに仕上げているのは、ここ7〜8年ですね。

平野:豆から作ろうと思ったきっかけはなんだったんですか?

土屋:いわゆるメーカーが作ったチョコレートを溶かし直して、ケーキにしたり板チョコにしたりするということは、他にもやっている人がたくさんいたんです。もちろん、そこにも腕の差はありますが。豆からこだわることで、自分の味を作りたかった。でも、非常に大変です(笑)。良質な豆だけが送られてくるわけでもないし。

平野:でも、ちゃんと現地に足を運んで、人と出会って、その風土や歴史を全身で感じられている土屋さんだからこそ作れる味というのがあるんだろうなって、お話聞きながら実感しました。今後はどういうチョコレートの楽しみ方を提案したいと思いますか?

土屋:そうですね。例えば、チョコレートの産地にしても、「meiji THE Chocolate」のブラジルがあり、「テオブロマ」のブラジルがあり、別のお店が作ったブラジルもあるというふうに、作り手によって同じ産地でもいろんな味になると思うので、それを皆さんが選んでくれたらいいなと思います。

平野:その選び方、楽しいですね! お話を聞いているだけで、旅をしたような感覚になりました。土屋さん、ありがとうございました!

土屋: ありがとうございました! 皆さん、良いチョコレートライフを。

【Next オトナのチョコレート学 vol.2 鎌田安里紗さん×野村友里さん】

■プロフィール■
平野紗季子(ひらの・さきこ)さん(フードエッセイスト)
1991年福岡県生まれ。小学生から食日記をつけ続け、大学生時代に日常の食にまつわる発見と感動を綴ったブログが話題になり文筆活動をスタート。雑誌等で多数連載を持つほか、イベントの企画運営・商品開発など、食を中心とした活動は多岐にわたる。著書に『生まれた時からアルデンテ』(平凡社)。最新作に『私は散歩とごはんが好き(犬かよ)。』(マガジンハウス)著書に『生まれた時からアルデンテ』(平凡社)がある。Instagram

土屋公二(つちや・こうじ)さん(THÉOBROMA オーナーシェフ)静岡県でパティシエのスタートを切り、修行のため渡仏。フランスのパティスリー、ショコラトリー、三つ星レストランなどで6年間修行し帰国。フランスのショコラトリーの日本店のシェフを務め、1999年東京・渋谷にチョコレート専門店「ミュゼ・ドゥ・ショコラ テオブロマ」をオープン。20年前から世界のカカオ農園を訪問し、理想のカカオを追い求めている。2015年東京・渋谷にbean to bar専門店「カカオストア」をオープン。国内外での受賞歴多数。フランスのチョコレート評価ガイド(C.C.C.)では2014年から5年連続金賞を受賞している。HP:ミュゼ・ドゥ・ショコラ テオブロマ

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