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#映画感想文241『ウィ、シェフ!』(2022)

映画『ウィ、シェフ!(原題:La Brigade)』を映画館で観てきた。

監督・脚本はルイ=ジュリアン・プティ、主演はオドレイ・ラミー、ほかにフランソワ・クリュゼが出演している。

2022年製作、97分、フランス映画だ。

原題には「旅団」という意味がある。越境する人々という意味が含意されているのだろう。

主人公のカティ・マリーは、タレントシェフの店で働いている。店には頻繁に取材が入り、非常に繁盛している。そんななか、テレビ的な見栄えを良くするために自身のレシピと盛り付けを変えられたカティは憤りを隠せない。オーナーシェフの勝手なアレンジを元に戻し、客に出す。そのことが問題となり、呼び出しを受けるが、カティの怒りは収まらず、そのまま仕事を辞めてしまう。味や客からの評価ではなく、反抗的な態度を理由に叱責されたことが彼女の怒りに油を注ぐ結果となった。

カティは職人気質で、まっすぐな性格だ。譲歩や忖度、おべっかのできない人だから、組織で重宝される人ではない。ただ、それが真っ当な職人ではないか、という気がする。ゆえに一匹狼で料理長になるのは難しそうな人物という印象を与える。

失業したカティは、知り合いに連絡しまくるが、芳しい返事はない。そんななか、とある施設で調理師の募集を見かけ、面接に行き、すぐに採用される。しかし、厨房の衛生環境が劣悪であること、難民の少年たちの態度の悪さに失望する。彼女がさじを投げようとしたとき、友達の女優志望のファトゥに「半年働いて貯金して、自分の店を作ればいいじゃん! 頑張りなよ」というアドバイスを受け、カティはしぶしぶ働くことを決める。

難民(移民)である少年たちは、18歳までに就学ができなければ強制送還である。もとの国で学歴がどの程度あったのかは人によって違うだろう。学力や勉強の仕方を知っているかどうか、というポイントもある。まずはフランス語を習得しなければならない。

施設にいる70人分の食事を一人で作ることはできないと悟ったカティは、助っ人を依頼する。すると、少年たちが意気揚々と厨房にやって来てくれるが、彼らが料理について何も知らないことがわかる。包丁の持ち方も、食材も、盛り付け方も、皿の並べ方も、すべて教えていく必要がある。それはフランスの文化を教えることであり、彼らの生活力を伸ばすレッスンでもある。

調理のレッスン時、ジブリルという少年がカティに反抗的な態度を取る。「わたしの国では料理は女の仕事で、男は女からの指示を受けることはない。あんたに従いたくない」と言う。

「厨房ではシェフの指示は絶対。逆らわずに、毎回『ウィ、シェフ!』と言いなさい。それから、ミソジニーなんて許さない。そんな奴は出て行け」とはっきり主張する。カティは強い人なのだ。

その一件が発端となり、ジブリルが施設の外に出て、よからぬことをし始めたことが発覚する。施設長の男性は多弁ではないものの、子どもたちを守りたい、という気持ちの強い人である。カティは施設長から「子どもたちを追い出すような真似はするな。彼らは幼少時から大人に裏切られてばかりいたから信頼するまで時間がかかる」のだと説教を受ける。また、彼らの居場所を奪うな、と言われる。カティは不満げだが、それを飲む。そして、カティの方も、彼らの境遇を知り、学んでいく。

バタバタしながらも、徐々にカティと少年たちのあいだに、師弟関係ができていく。料理を教える側、教わる側、その信頼関係は強くなっていく。

そして、施設でフランス語を教える職員であるサビーヌとのやりとりでカティが施設育ち、日本でいうところの児童養護施設で育った過去が明かされる。両親のことは知らない孤児で、カティという名前は料理を教えてくれた人、マリーという人は育ててくれた人の名前だとわかる。

カティ自身も、孤独で孤高の人で、居場所を必要としている人だった。施設の台所で料理を学び、16歳からレストランで働いている彼女は、生きるためにフランス料理を作ってきており、料理をすることは彼女の人生においてわかちがたいものであることが示される。

映画の冒頭で、転職活動中の彼女が破り捨てた一通の手紙。料理人が対決する『ザ・クック』という番組への出演依頼だった。そのときは、テレビ番組に出るようなスターシェフに嫌悪感を露わにしていたカティだが、施設の少年たちのためならと、一肌脱ぐことを決める。誰かのためであると、人は動ける。

カティをきっかけに、施設長は料理コースを作り、そのまま就学できるような施設にしようと動き出す。

カティはレストランのオーナーシェフではなく、施設で料理を教える教師になって、物語は終わる。教師になることで、彼女は自分の居場所を見つけることができ、他者との関係構築ができるようになったのだ。両親に捨てられた過去を持つカティは、他人を信頼することが、愛情深く育った人たちよりも、ずっと苦手なのだ。そこが少年たちとの共通点で、ハリネズミのような彼女が、少しずつ変容していくところが、この映画の肝の部分でもある。

インタビューも興味深く読めた。

これだけ脚本に密度がありながら、97分なので、かったるいシーンが一つもなく、どんどん展開していくので、結構、忙しい。

そして、大人の肉離れって長引くよねー、というのが、よくわかる映画でもあった。笑

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