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5分でわかるキャリア研究:キャリアレジリエンスを高めるには?

前回の記事では、キャリアに関わる困難に対処する力であるキャリアレジリエンスという概念について紹介しました。今回は、就職後のギャップや昇進・異動によるショックにも効果のあるキャリアレジリエンスを高める方法について紹介します。
キャリアレジリエンスの定義等については、前回の記事をご確認ください。


伸ばしやすい要素と伸ばしにくい要素

前回の記事でも紹介しましたが、キャリアレジリエンスは、様々な個人特性や能力から成ります。そのため、キャリアレジリエンスの要素の中に、伸ばしやすい要素と伸ばしにくい要素が存在すると考えらえれます。

キャリアレジリエンスは、キャリアに特化したレジリエンス(精神的な回復力)なのですが、平野(2010)は、レジリエンスを遺伝による影響が強い要素と、後天的に獲得しやすい要素に分類しています。具体的には、前向きに考える力や忍耐強い性質は伸ばしにくい遺伝的な要素であり、問題に前向きに取り組む力や自己及び他者を理解する力は伸ばしやすい獲得的な要素だと考えられています。

キャリアレジリエンスについては、問題対応力、ソーシャルスキル、新規多様性、未来志向、援助志向のどの要素が遺伝的な要素で、どの要素が獲得的な要素か、まだ検証されていません。しかし、平野(2010)を参考にすると、未来を楽観視する要素である未来志向や、社交性などが含まれるソーシャルスキルは遺伝的な要素が強いかもしれません。

遺伝的要素は伸ばせないのか?

この記事をお読みの人の中には「遺伝的だったらもう無理なのでは..」と思った方もいるかもしれません。一方で、遺伝的な要素も教育プログラムを通じて得点が向上されたことも確認されています。

短期のプログラムで急に「人が楽観的に変わる!」というのはなかなか難しいですが、プログラムを通じて、他者に「〇〇さんは楽観的だよね」と言われたり、「自分はいざという時、結構前向きに考えるな」という振り返りをし、自分が意外と楽観的なことに気づくことはあります(平野 2017)。つまり、自分が持っていたけれど、日々を生きる中で自覚でなかった自分の強さについて気がつくことは可能です(平野 2017)。また、キャリアレジリエンスは年齢とともに向上していくことが確認されています。このことを踏まえると、キャリアレジリエンスは生まれた時にその高い、低いが固定されてしまうものではなく、短期間で伸ばすのは難しくても長期的な視点で見れば少しずつ伸ばしていくことは可能だと考えられます。

レジリエンスを伸ばす or 持っているレジリエンスに
気がつくには?

平野(2017)は、レジリエンスの得点が上がることについて、発掘と増幅に分けて説明しています。発掘とは、自分の持つ潜在的な資質を新たに発見することを示します。増幅とは、新たな知識やスキルを得ることによって、資質がさらに増加していくことを意味します。

発掘する方法
先の例のように他者に「〇〇さんは楽観的だよね」と言われることなどを通じて、自分の持つキャリアレジリエンスを発掘するには、日常生活におけるフィードバックや、個人が逆境をどのように乗り越えたかの振り返りが有効だと考えられます(平野2017)。実際に、Borgen et al. (2004)は、自分のキャリアをふり返るポートフォリオを作成するワークショップを行い、事後のインタビューのから、参加者のキャリアレジリエンスが向上したことを示唆しています。

増幅する方法
新たな知識やスキルを得ることによって、資質をさらに増加させる方法としては、①本や他者からのアドバイスによって物事に対する新たな視点を得たりすることや、②生活する中で困難体験から立ち直ること、成功体験を経ることが挙げられています(平野 2017)。①の具体例としては、未来を悲観してしまうことに悩んでいる人が、認知行動療法の本を読み、実践してみることを通じ、少しずつ未来を明るく捉えていくことができるようになることが挙げられます(未来志向の向上)。②の具体例としては、なかなか業績が上がらなく、悩んでいた人が、業績を向上させた経験を通じて「仕事で何か問題が起きても、自分なりの方法で乗り越えることができる」と思えるようになることが挙げられます(チャレンジ・問題解決・適応力の向上)。

まとめ

①レジリエンスには伸ばしにくい要素(遺伝的な要素)と伸ばしやすい要素(獲得的な要素)がある
②遺伝的な要因についても、自分が本来持っていたということに他者との振り返りなどを通じて気づくことができる
③キャリアレジリエンスを高める方法には、発掘する方法(例:振り返りを行う中で自分の持ったレジリエンスに気づく)と、増幅する方法(本などを読み、実践することで力をつける)の2種類がある

キャリアレジリエンスが低いことに悩んでいる人や、キャリアに関する悩みを抱えている人は、自分が今までのキャリアの危機をどのように乗り越えたか振り返ることや、本などを読み自分が必要と感じるキャリアレジリエンスの構成要素を伸ばすなどして見ても良いかもしれません。

もっと詳しく知りたい人への参考文献
Borgen, W.A., Amundson, N.E., Reuter, J. (2004) Using portfolios to enhance career resilience. Journal of Employment Counseling,41(2) : 50–59
平野真理 (2010) レジリエンスの資質的要因・獲得的要因の分類の試み:二次元レジリエンス要因尺度(BRS)の作成. パーソナリティ研究,19(2): 94-106
平野真理 (2017)「資質を涵養する : パーソナリティ心理学」『臨床心理学』17(5):669-672


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