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#24 おばあちゃんだけど、時々転生代行救世主やってます

 人気もまばらな通りを進み、微かな記憶と猫ちゃん達の勘を頼りに世界を支える柱のあるビルを探す。
 あの時はユキノさんに案内してもらってたし、自分の使命で頭がいっぱいだったから周りの事なんて気にしてなんかいなかったけれど、こうしてゆっくりと眺めてみると、私が生前暮らしていた日本の街並みにとてもよく似ている。もしかしたら、閻魔様が初任務という事で気を利かせて、よく知ってる雰囲気の世界に送ってくれたのかも?なんて思ったんだけど、そういえば緊急度が高い世界から順に行く事にしたんだっけか。なら、(言葉は違うけれど)馴染みのある世界に最初に行けたのは幸運だったのかもしれない。
「あ、見えた!アレじゃなかったっけ?」
 シロちゃんが私達の方を振り返りつつ、前方に建つビルを指さした。
 言われてみればそうな気もするし、そうじゃないかもしれないし?パッと見よくあるビルだから即答できない。
「どうだっけ?」とクロ君の方を見ると、黙って頷いたからきっと合ってるんでしょう。
 そんな訳で、辺りを伺いつつコッソリ中へと忍び込む。
 世界を救った救世主らしからぬ行動かもしれないけれど、そんな事実を知ってるのはごく一部の人だけだし、そもそも世界の人に感謝して欲しくてやっていた訳では無い…なんてかっこよく言ってみたけど、ただ単に目立つのが気恥しいだけだったりする。そもそも私、今はただの小さな女の子だし。
 それはさておき、ビル内に潜入成功した私達は、あの無機質で長い長い廊下を歩いていく。
 来た時は気にしなかったけれど、全然人が居ないのにいつも電灯がついているのは、もしかしたら地下界のミクべ神が、カモフラージュとしてこのビルを建てたのかしら…?
 そんな憶測をしつつビル内を彷徨い、あの資料室のような部屋の片隅にある階段を探し当て、私達はあの長い長い階段を上り始めた。

 そんなに時間も経っていないはずだけど、何故か懐かしさを感じてしまったこの階段…あの頃よりも、シロちゃんやクロ君とも仲良くなれてるのかしら?
「ねぇねぇ、ユメミおばあちゃん。地下界のミクべ神様に会ったんだよね?どんな人?神様?だった?」
 シロちゃんからの質問に、そういえばこの子は警備の人達に捕獲されてて会ってないんだっけ、と気付く。
「そうね…地上のミクべ神様にお顔がよく似てたけど、なんというかもっとサバサバしてるというか…うーん?」
「アイドルになるって言ってたぞ」
 私が言葉を選んでいると、横からクロ君が口を挟んできた。
「アイドル?あの歌って踊る?」
「あの歌って踊るやつだ」
  断言するクロ君を見てシロちゃんはしばらく首を傾げ何やら考えこんでいたけれど…
「いやいやいや、いくら私でもそんな冗談効かないよ~!だって世界を見守る神様がアイドルになるなん…て…」
 アハハと最初は笑い飛ばしたシロちゃんだったけど、私の曖昧な笑みに何かを感じたようで、徐々にその勢いが無くなる。
「あー、なるほど。そういう感じの神様だったんだね。…うん、ちょっと会ってみたくはあったかも」
 シロちゃんの想像が合ってるかどうかはさておき、そんなやり取りをしている間に小さな踊り場のある場所まで上り着いた。
 壁越しからザワザワと多くの人の声が聞こえる。確か地上界での階段の入口は、役所みたいな場所にあったはず。
 あぁ、戻ってきたんだなぁ…
 いまだ異世界に居るにも関わらず、まるで家に帰ったかのように感じる自分がちょっと面白い。
「あ、壁が」
 シロちゃんの呟きに振り返ると、私が向いていた反対側の壁がグニャリと歪んだ。そしてそのまま四角に切り取られたように壁が消え、そして………

「みんな、おかえり」

 地下界のミクべ神の声によく似つつも少し低い声。そして金髪サーファーのお兄さん風な見た目。
 地上界ミクべ神が、以前に見た時と同じ爽やかな笑顔で私達を待っていてくれていた。

#25につづく


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