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今日も、読書。 |シンクロする読書 〜自転車泥棒と、ねじまき鳥クロニクル

2022.5.1-5.7


SPBS TORANOMON

都内の書店を巡るのが趣味で、先日虎ノ門にある「Shibuya Publishing & Booksellers(SPBS)」の店舗へ行ってきた。

SPBSは「本と本屋の未来の扉を開く」というビジョンのもと、本と編集に関する様々な事業を手掛けている企業だ。私はホームページの読み物をよく読ませてもらっていて、本や出版について非常に勉強になるのでおすすめだ。

今回ようやく機会を見つけて、虎ノ門ヒルズにある店舗に行くことができた。

実店舗である「SPBS TORANOMON」は、「ビジネスパーソンのニューノーマル(新しい日常)をサポートするために編集されたセレクト本屋」とのこと。確かに、「NFT」「経済学」「宇宙科学」「芸術」「文学」……と、ビジネスパーソンの教養や感性を磨いてくれそうな本が、ジャンルごとに並んでいる。

選書のセンスが絶妙で、棚のどの部分を見ても新しい発見があり、楽しい。例えば「宇宙」の棚には、科学系の入門書から「映画ドラえもん のび太の月面探査記」の小説まで、幅広い関連本が並ぶ。関心のある分野でもそうでない分野でも、新しい本との出会いが絶対にある書店だと思う。

私はこういう、本の配置に書店員さんの意図や願いが込められている、人の想いが棚に表れているような書店が好きだ。この本の隣には、この本を置いてみよう。この本の隣には、こんな雑貨を置いたら面白いのではないか。この本が好きな人は、きっとこの本も手に取ってくれる——そんな書店員さんの想いが伝わってくるようで、嬉しくなる。

本と一緒に、その想いも受け取る。そういう書店で購入した本は、チェーンの大型書店で買った本よりも、深く心に残りやすい。サイモン・シン『暗号解読』の上下巻を買い、帰路につく。



呉明益|自転車泥棒

呉明益さんの『自転車泥棒』を読む。

呉明益さんの小説を読んだのは、『眠りの航路』以来、2作目だった。『眠りの航路』は、台北で暮らす主人公が睡眠障害に陥るのだが、混濁する意識の中で、太平洋戦争中に少年工として日本に渡った父親の人生を追っていくという物語。

そんな『眠りの航路』に続き、『自転車泥棒』もまた、著者自身の境遇や経験を下敷きにして書かれた半自伝的小説だった。行方不明になった父親の自転車を追ううちに、100年にわたる著者の家族の歴史や、占領と貧困を乗り越えた台湾の歴史、そして戦争に強く結びつく古き良き自転車の発展史が浮かび上がってくる、壮大な大河小説だ。

「『眠りの航路』の中で行方不明になった自転車はどうなったのか?」という読者のメールがきっかけとなり、執筆されたという本作。父親が失くした自転車の行方を追ううちに、それまで胸に支えていた家族分断の歴史を見つめ直し、彼らの頑なな心が少しずつ解けていく様子が良かった。

本作は、とにかく読み応えがある。厚みもそうだが、ひとつの小説の中に、複数の物語が溶け合っているためだろう。

自転車を探し求める中で知り合った人々から、それぞれの人生の話を聞いていく。まるで、台湾が舞台の短編集を読んでいるような、多様な物語の集合になっている。

その語りの合間に、台湾の自転車史の記録がノートとして挿入されるのも面白い。このノートでは物語性が極力排除され、記録として淡々と自転車の歴史が紹介される。著者が描いたという精巧な自転車のスケッチとともに、台湾で自転車業界がどのように変遷していったのか勉強になる。もちろん、小説の理解を深めてくれる役割も果たす。

歴史小説であり、幻想小説でもあり、家族の繋がりを描いた人情小説でもある。人によって、きっと楽しみ方が異なる作品だろう。


ここからは個人的な話になるのだが、本作と並行して読んでいた村上春樹さんの『ねじまき鳥クロニクル』との思わぬシンクロが、かなり衝撃的だった。

『ねじまき鳥クロニクル』には、日中戦争中に満州の新京動物園で、猛獣が一斉処分されたエピソードが登場する。凄惨なエピソードで、印象に残っていた。

そんな中で『自転車泥棒』を読んでいると、台湾の円山動物園で、同じように猛獣たちを殺処分する話が出てきて驚いた。全く意図しないところで、満州と台湾の戦時猛獣処分の話が繋がるなんて、思いもしなかった。

特に『自転車泥棒』の方は、丸々ゾウの視点で描かれる不思議な章もあり、多層的な視点で物語を眺めることができた。ごく稀にある、密度の濃い読書体験となった。



ショートショートを作るゲーム、じゃれ本

先日、大学時代の友人たちと「じゃれ本」というゲームをした。本を読むことが好きで、創作に少なからず興味があるという方は、絶対にハマるゲームだと思ったのでご紹介。

じゃれ本は、リレー形式でショートショートを作っていくゲームだ。

最初に題名を決め、ひとりあたり2分で、順番に物語を書いていく。書いたら次の人にバトンタッチしていくのだが、その人は題名と、前の人の書いた文章しか、見ることができない。そのためバトンタッチしていくごとに、話の筋が思いもよらない方向へ飛躍していくことが多く、最後に読み合わせをするのが大変面白い。

題名は、ミステリやSFなど王道のものを選ぶと書きやすくなるが、人によって認識が異なる言葉だったり、それぞれ持ち寄った適当な単語を組み合わせたりすると、どんな作品が出来上がるか予想がつかず楽しい。私が遊んだ時は、適当に言葉を組み合わせて「世界の焼きマシュマロ史」という題名になった。まさかこの題名の作品が、あんな話になるなんて……。

とんでもない文章を差し込んで場をかき乱したり、終盤に協力して無理やり感動物語に仕立て上げたりと、色々な動きができるのも面白いところだ。2分という持ち時間を調整して、短編〜中編作品を作ってみても楽しいに違いない。

読書界隈で流行りそうな気がするじゃれ本、是非一度お試しあれ。



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