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美術展が好き。 |〈空間と作品〉展 アーティゾン美術館

目も眩むような暑さから逃れるように訪れた、東京・アーティゾン美術館

そちらで開催されていた「空間と作品」展がとても楽しかったので、noteを書こうと思います。




アーティゾン美術館について


アーティゾン美術館、名前は耳にしたことがありましたが、実際に足を運んだのは今回が初めてでした。


アーティゾン美術館。
東京駅地下出口から歩いてすぐの好立地。


第一印象は、「都会の富豪の匂いがする」でした(良い意味で)。


アーティゾン美術館の前身は、ブリヂストンの創業者・石橋正二郎氏が設立したブリヂストン美術館。2020年1月に、現在のアーティゾン美術館になりました。

「アーティゾン」とは、「アート」「ホライゾン」(地平)を組み合わせた造語。名前の付け方にも、どことなくブリヂストンイズムを感じます。

時代を切り拓くアートの地平を多くの方に感じ取っていただきたい、という意志が込められています。新しい美術館のコンセプトは「創造の体感」。古代美術、印象派、日本の近世美術、日本近代洋画、20世紀美術、そして現代美術まで視野を広げます。

https://www.artizon.museum/about-museum/

幅広い時代・地域・様式の美術作品。その創造性を、肌で体感する。

まさにそのコンセプト通りの体験をすることができたのが、今回の「空間と作品」展でした。


館内には、大きな吹き抜け空間が広がります。
右上の浮島がミュージアムショップ。


全面ガラス張りの建築、差し込む陽光が生み出す影も美しい。


館内の所々にアートが点在。



「空間と作品」展


「空間と作品」展をひとことで言うと、「美術品と鑑賞者の関係を捉え直す」展覧会でした。


美術館の展示室に整然とならぶ美術品、それらは、今日誰もが鑑賞することのできる公共的なものとなっています。ですが、その美術品が生まれた時のことを振り返ると、それは邸宅の建具として作られたり、プライベートな部屋を飾るためにえがかれたりと、それを所有する人との関係によって生み出されたものであることが分かります。また、時を経る間に、何人もの手を渡り、受け継がれてきたものもあります。この展覧会では、モネ、セザンヌ、藤田嗣治、岸田劉生、琳派による作品や抽象絵画まで、古今東西、様々な分野の作品からなる石橋財団コレクション144点によって、美術品がどのような状況で生まれ、どのように扱われ、受け継いでこられたのか、その時々の場を想像し体感してみます。

https://www.artizon.museum/exhibition/detail/574


「美術品は、美術館の展示室に整然と並べられた状態で鑑賞するもの」という、暗黙の認識があります。

しかし、モネやピカソといった有名な画家の作品も、初めから美術館に展示されていたわけではありません。

それらの作品を購入ないし寄贈された所有者がいて、プライベートな空間で、個人的な鑑賞を楽しんでいたのです。


「空間と作品」展は、普段の美術鑑賞ではあまり着目されることのない、美術品の生まれた背景や受け継がれてきた変遷について、美術館という空間の枠を超えて、鑑賞者にひろく想像・体感させてくれる展覧会でした。




「美術品−鑑賞者」の関係を捉え直す

例えば、まず私たちを出迎えてくれる円空《仏像》

美術館の広い展示室に展示されていると、歴史的な彫刻作品として捉えてしまうのが自然です。


円空《仏像》


しかし元々は、修行僧である円空が全国を行脚しながら、訪れた村で個人的に交流を持った村人に贈ったものであるとされ、人々の生活(信仰)の身近にあるものでした。

かつては個人的な祈りの対象であったということを考慮すると、洗練された彫刻作品という印象から打って変わって、生活の名残りのような温かみを感じられるから不思議です。



世界で最も有名な芸術家のひとりである、パブロ・ピカソ。美術館に作品を展示すると、それをお目当てに世界中から人々が詰めかけます。

しかしそんな彼の作品も、以下の〈腕を組んですわるサルタンバンク〉のように、美術館のコレクションに加わるまでに、実に多くの人々の手を渡り歩いてきたのです。


〈腕を組んですわるサルタンバンク〉


「空間と作品」展では、かつて〈腕を組んですわるサルタンバンク〉を所有していたピアニストのウラジーミル・ホロヴィッツを例に、自邸に飾った本作を眺めながら、彼がどのような日々を過ごしていたのかに焦点が当てられています。

〈腕を組んですわるサルタンバンク〉の展示室には椅子が数脚置かれており、そちらにゆったりと腰掛けながら、当時のホロヴィッツの気持ちを想像することができました。



日本の美術品としてよく目にする、屏風。金があしらわれた豪華絢爛なものや、水墨画のように侘び寂びを感じるものなど、その特徴は時代によって様々です。

考えてみれば当然ですが、制作された当時、それらは建物の一部でした。屏風や襖の周辺には、その建物で暮らす人々の生活があったのです。


円山応挙《竹に狗子波に鴨図襖》


「空間と作品」展では、円山応挙《竹に狗子波に鴨図襖》がかつて建物の一部として存在していたことを体感できるよう、古い日本家屋の和室が再現されていました。

鑑賞者は畳の上に座って、目の前で襖を鑑賞することができます。照明も建物の外から差し込む陽光のように設計されており、普段とは全く異なる鑑賞体験が楽しめました。



美術館で鑑賞するだけがアートじゃない

今回特に面白かったのが、「My favorite place」という展示エリア。

ここでは、展示室の中に椅子や照明などを置いてインテリア空間をしつらえ、その中に美術品を溶け込ませる形で展示していました



なんとなくIKEAの店舗みたいです。


美術品をプライベート空間に取り入れることは、かつては特権的な営みでした。

しかし現代では、モネやピカソといった往年の名作も、アートポスターなどを用いて比較的簡単にインテリアに取り入れることができるようになりました。

「空間と作品」展では、美術館という公共的な空間を飛び出して、プライベートな空間で美術品を鑑賞することを提案し、美術品と鑑賞者の関係を問い直していました。


手前の椅子に腰掛けて、
リビングダイニングで美術品を鑑賞している気分に浸れる展示。
椅子に座った眺め。
普段美術館で鑑賞するのと全然違う感覚です。



額縁、見てますか?

「空間と作品」展では、普段の絵画鑑賞から少し視野を広げ、作品のまわりにある額縁にフォーカスした展示もありました。

美術品のそばに設置される解説文も、作品に関する解説ではなく、それを囲う額縁に関する解説になっているのです。


キュレーターのガイドも、
読んでいてワクワクするような構成です。


こうして額縁を意識しながら鑑賞してみると、自分がこれまでいかに額縁に注意を払っていなかったかに気付かされました。額縁、こんなにも色々な種類があったなんて!

絵画の画面と展示室の空間を視覚的に繋ぐ額縁は、美術品や展覧会のクオリティを左右する、非常に重要な存在なのです。

作品のノイズにならない、かといって作品の格を落とさない、絶妙なバランスが求められます。



基本的に、絵画と額縁はセットで考えられます。額縁の中に収められて、絵画は完成するのです。

岸田劉生のように、額縁に強いこだわりを持つアーティストもたくさんいました。作品の魅せ方を最もよくわかっているのは制作者、といったところでしょうか。


岸田劉生《麗子像》(左)
青木繁《わだつみのいろこの宮》(右)


額縁のデザインや材料は、時代や地域によって様々。美術史の変遷は、そのまま額縁の変遷でもあります。

普段は見逃しがちな額縁の趣向に目を凝らし、その意図や背景を想像すると、芸術鑑賞の深みがグッと増すようです。美術館巡りの楽しみポイントがまたひとつ増えました。


以下は、私が特に良いなと思った美術品と額縁の組み合わせたちです。








数百年前の作品ともなると、制作当時の額縁が劣化し、作品保護の観点から新しい額縁に交換する必要も出てきます。

美術館では、今回の「空間と作品」展で見てきたようにその作品が受け継がれてきた背景を尊重し、作品を最も効果的に演出(かつ保護)できる額縁を選んでいるのです。

これは並大抵の知識ではできない作業で、作品の魅力を損なわないよう、美術館では日々調査・研究が行われています。


アーティゾン美術館が新たにしつらえた額縁で生まれ変わった作品たち。



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