美術展が好き。 |特別展アリス —へんてこりん、へんてこりんな世界—
喋る白ウサギを追って大きな穴に飛び込むと、その先には不思議な世界が広がっていた。
身体の大きさが変化する食べ物、ウサギと帽子屋のおかしなお茶会、チェシャ猫、トランプ兵、公爵夫人の裁判——目まぐるしく場面が移り変わる物語は、ユーモアに溢れ、子供はもちろん大人も楽しめる。
ルイス・キャロルの『不思議の国のアリス』は、19世紀にイギリスで刊行され、以来世界中で愛されているファンタジー小説だ。小説はもちろん、アニメ、映画、演劇など、「不思議の国のアリス」のコンテンツは、全世界で成功を収めている。
ルイス・キャロル|不思議の国のアリス
私が『不思議の国のアリス』を初めて読んだのは、大学生になってからだった。
小林泰三さんの『アリス殺し』をはじめ、世の中には『不思議の国のアリス』をオマージュした作品が数多く存在する。そうした作品をいくつか読む中で、本家のアリスを読んでおきたいと思い、手に取った。
アリスが体験する数々の不思議な現象に、ぶんぶんと振り回されるうちに、読了した。後に様々なコンテンツに影響を与える、原点としての輝きを感じた。幼い頃に読んでいたら、きっと全く違う感想を抱いていただろう。
子供の頃に読むと、心を湧き立たせる冒険譚。大人になってから読むと、様々な教訓が得られる少女の成長譚。
読む時代によって印象は変化するが、読者を魅了する面白さは不変だ。『不思議の国のアリス』は、すごいパワーを持っている。
特別展アリス —へんてこりん、へんてこりんな世界—
さて今回は、六本木ヒルズの森アーツセンターギャラリーで開催されていた、「特別展アリス —へんてこりん、へんてこりんな世界—」へ行ってきた。
挿画や映画、演劇、ファッションなど、刊行以来、様々な分野で人気を誇ってきた『不思議の国のアリス』。特別展アリスでは、そんなアリスにまつわる多分野の展示が、約300点も一堂に会する。アリスファンには堪らない企画展だった。
展示は、小説『不思議の国のアリス』の誕生物語から始まる。
数学者だったチャールズ・ラトウィッジ・ドジソン(ルイス・キャロルの本名)は、知人であるヘンリー・リドゥルの娘三姉妹に、即興で物語を作って聞かせていた。その中で生まれたのが、『不思議の国のアリス』の原点となる「地下の国のアリス」だ。その後、当時の著名な装丁画家ジョン・テニエルと二人三脚で、初版を完成させる。
『不思議の国のアリス』の場面の切り替わりが目まぐるしいのは、即興話の中で生まれたという背景もあるだろう。目の前で話を聞いている少女たちを楽しませ続けるため、次々と展開を変える必要がある。きっと聞き手の少女たちの要望にも応えながら、柔軟な発想によって形作られたのが『不思議の国のアリス』だろう。
イギリス文学研究者の武田将明教授が、『不思議の国のアリス』についてこう述べている。
『不思議の国のアリス』には、キャロルが少女たちに物語を聞かせた田舎の風景、大切な思い出が、投影されているのだ。不思議の国の物語の向こう側に、キャロルと三姉妹がボートを漕ぎながら、楽しそうに笑っている光景が透けて見えてくる。
特別展アリスには、ジョン・テニエルの挿絵が多数展示されており、その精密で表現豊かなタッチに舌を巻く。彼は挿画のみならず、作品の本筋にも影響を与えており、『不思議の国のアリス』の完成に不可欠な人物であったことがわかる。
そして、アリスは本の世界を飛び出し、映画やアート、ファッション、果ては政治利用まで、様々なジャンルへと派生していく。展示会を進んでいくうちに、今日に至るまで、アリスが辿ってきた壮大な道筋をなぞることができる。
展示のデザインは、アリスの世界観を非常に大切にしていると感じた。視覚的・感覚的に楽しめる工夫が、随所に施されている。
アリスが不思議の国に迷い込む巣穴を模したトンネル。プロジェクションマッピングの技術が使われた大きなチェシャ猫や、賑やかなお茶会の部屋。ただ鑑賞するだけにとどまらない、体験型の楽しい展示となっていた。まるでアリスと同じように、自分も不思議の国に迷い込んだかのようだった。
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