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特別支援学校からの発信「SST=ソーシャルスキルトレーニングってなに?」

今回は特別支援教育でよく取り組まれているSST=ソーシャルスキルトレーニングについて紹介していきます。

人と関わるために必要なスキル

「ソーシャルスキル」とは、対人関係や集団行動を上手に営んでいくための技能(スキル)のことです。

人は生まれてから多くの人たちと関わりながら知識を身につけ成長していきます。ほとんどの子どもは親や周りの人の行動を見聞きしたり、「挨拶しようね」「そんなことを言ってはいけないよ」などのように言葉で習ったりして、自然に社会生活に必要な行動を学び、身につけていきます。そうした小さな成功体験を積み重ねることで自己肯定感も育っていきます。

障がいのある子たちは、周りの状況やルールを読み取ること、感情を抑えること、じっとしたり集中して話を聞くことが苦手だったり、どんな風に伝えたらいいのかがわからずに、友だちと上手く人間関係が築けず、集団に馴染めないことがあります。集団に入らないことでスキルを身につける機会は減っていき、そのことで自尊感情が低下していきがちです。対人関係や集団参加がうまくいかず注意されたり怒られることが多くなりがちで、自分を否定的に捉えてしまっていることも少なくありません。

(画像はミライマより)

ソーシャルスキルトレーニングとは?

ソーシャルスキルトレーニングとは、そのような社会生活を送る上で必要なスキルを少しずつ練習していき、身につけて普段の生活の中で活用できるようにしていく訓練のことです。

例えば子どもたちの友だちの消しゴムを勝手に取ると言う行動は、家庭のしつけやその子の性格だけが原因ではなく、不適切なソーシャルスキルを身につけてしまった結果です。具体的な行動である「消しゴムを貸して」とやさしく言うなど適切なソーシャルスキルを学習すれば、その子の行動は変わりますし、その子が変われば周りの反応も変わります。

(画像はじゅぎょうのたねより)

課題があると思われている子の多くは、それまでの生活経験から偏った適切でない選択肢(例えば先生や友だちに構ってほしいときにイタズラをするなど)しか持っておらず、そのために苦労しています。彼らに「それ以外のこんなやり方があるよ」と伝え、練習し、選択肢の1つにしてもらうのです。

彼らの行動は家庭や個人的な性格のせいにしても解決できるものではありません。むしろソーシャルスキルトレーニングは、具体的な行動面に注目しますり訓練すれば誰でも身につけることができるようになるという考え方で取り組んでいくのです。

ソーシャルスキルトレーニングの流れ

ソーシャルスキルは以下のような手順で身につけていきます。

(画像はslideplayerより)

①教示(インストラクション)

まずは、そのスキルが必要な理由と、スキルが身につくとどのような効果・結果があるかを言葉や絵カードなどを用いて伝えます。約束やルールとして提示する場合もあります。

ソーシャルスキルが身についていない子たちは、その行動をする自分なりの理屈や理由を持っていますが、「なぜ周りの人がその言動をするのか」がわかっていないことがよくあります。「なぜその言動(スキル)が必要なのか、身につけるとどのようなメリットがあるのか」をその子が納得できるかたちで丁寧に説明してあげましょう。そうすることが子どもたちが頑張るモチベーションにも繋がります。

②モデリング

手本となる適切な振る舞いを見せたり、不適切な振る舞いの例を見せてどうすれば良いか考えてもらうのがモデリングです。

(画像はみんなの教育技術より)

子どもたちは周りの大人の言動をよく見ています。子どもたちに「●●しなさい!」と注意する前に周りの大人がお手本を示したいものですね。

またモデリングで見本を示してから、次のリハーサル、フィードバックと実際に練習に取り組んでいくためには、いくつかの指導方法があります。

子どもたちができるよう、視覚的な手順表を見たり、手を取って具体的な動きを練習したり、声をかけたりといった、言動の手がかり(プロンプト)となるものを用意します。

課題に取り組むために、課題を細かく分け、その子がどこでつまずいているのかを考えるのが課題分析です。また取り組む課題を繋げていくことをチェイニングと言います。その子にあった取り組み順を考えます。

またその子によってゴールは違いますが、その子が1人でできるように、プロンプトや手助けを減らしていくのがフェーディングです。

③リハーサル

教員や友だちを相手にして実際に練習します。ロールプレイングやディスカッション、ゲーム場面の中で練習したり、ワークシートを用いることもあります。スキルの意義や必要性、行動とのつながりを繰り返し学びます。

(画像はみんなの教育技術より)

具体的な場面や相手の気持ち、行動の理由などをイメージしやすくするための、コミック会話ソーシャルストーリーといった技法もあります。

④フィードバック

行動を褒めたり、「●●するともっと良いよ」と修正を促すことがフィードバックです。リハーサルや生活の中での行動や反応を振り返り、適切にできたことを評価し、実施が難しかった場合はどうすればうまくいくかを伝えます。

(画像はみんなの教育技術より)

このリハーサルや実際の生活の中での練習とフィードバックを繰り返すことで、スキルを上達させて普段づかいできるようにしていくのです。

(画像はOGメディックより)

⑤般化

学習したスキルを、実際にどのような場面・人・場所にも発揮できるようにします。

この般化は正直なところ、なかなか難しいです。リハーサルの場面ではできても、普段の場面でもすぐに活用できるようにはなりません。なので、実際の場面の中でもリハーサルやフィードバックを繰り返していくことになります。

どんな内容があるの?

お家や学校などで生活していく上で必要なスキルがソーシャルスキルなので、その内容は多岐にわたります。

僕のおすすめの本『【特別支援教育】実践ソーシャルスキルマニュアル』では、集団行動・セルフコントロール・仲間関係・コミュニケーションの4つの領域に分けられています(細かいトレーニングの内容例は記事に掲載しています)。

他にもいろいろな分け方や項目があります。

1.あいさつができる(コミュニケーションスキル)
2.自己紹介ができる(自己認識スキル)
3.上手に人の話を聴ける(コミュニケーションスキル)
4.知らないことを質問できる(コミュニケーションスキル)
5.あたたかい言葉をかけられる(コミュニケーションスキル)
6.自分の気持ちをコントロールできる(情動抑制スキル)
7.気持ちをわかって働きかけることができる(共感スキル)
8.うまく断ることができる(コミュニケーションスキル)
9.自分を大切にできる(コミュニケーションスキル)
10.トラブルの解決策を考えられる(問題解決スキル)
11.ストレスに対処できる(ストレス対処スキル)

アットスクールより

1.気持ちよいあいさつのスキル
2.効果的な自己紹介のスキル
3.上手な聞き方のスキル
4.上手な質問のスキル
5.友達の誘い方のスキル
6.仲間への入り方のスキル
7.あたたかい言葉かけのスキル
8.気持ちをわかってあげるスキル
9.上手な頼み方のスキル
10.上手な断り方のスキル
11.トラブルの解決スキル

みんなの教育技術技術より

ソーシャルスキル・チェックシートなんてものもありました。

(画像は大分県教育委員会より)

集団での行動や人との関わり、感情のコントロール、コミュニケーションなどがソーシャルスキルの核になるものです。

ソーシャルスキルだけでなくライフスキルも

ソーシャルスキルは対人関係や集団行動に重きを置いたものですが、買い物や移動、余暇活動など生活に重きを置いたライフスキルトレーニングというものもあります。

(画像はViewキャリア!熊谷校より)

ライフスキルトレーニングについてはまたどこかでお伝えしたいと思います。

また学校でおこなわれる自立活動の一環としてソーシャルスキルトレーニングも取り組まれます。

学んでいくための、普段使いしていくための土台を

ソーシャルスキルトレーニングに取り組む上で大事にしてほしいことを2つお伝えします。

ソーシャルスキルトレーニングの流れのところでも触れましたが、「なぜそのスキルを身につけるべきなのか」をきちんと子どもたちに伝えましょう。当たり前ですが、こちらの一方的な押し付けだけではやる気はもちろん、大人のいない場面で使おうという気にはなりません。スキルを身につけるために学び、練習するのも、そのスキルを活用していくのも子ども自身です。そういう意味では、子どもたちにさせるというよりも、子どもたちが納得して、使いたくなるような伝え方をしないといけないのかもしれません。

もうひとつは学校のクラスなどの集団で使っていくための空気、雰囲気づくりです。スキルを身につけた子が、集団の中で使っても笑われたり、からかわれたりしない、みんなが受け入れてくれるという安心感がないと普段使いは難しいのかもしれません。

もしかしたら盲学校に来てルーペや単眼鏡の使い方を訓練したのに、自分の学校、自分のクラスへ戻ると恥ずかしくてルーペや単眼鏡を出せない弱視の子たちの気持に似たものがあるかもしれません。

そんな安心感のある雰囲気、関係づくりには人的環境のユニバーサルデザインという視点がおススメです。みんなが頑張れる雰囲気があれば、その子の取り組む姿勢も変わってくるかもしれません。人的環境のユニバーサルデザインについては、別の記事でも紹介しています。

まとめ

ソーシャルスキルトレーニングについては巷に本や記事が溢れています。今更僕が紹介するまでもないかと思うのですが、今まで紹介してきた課題分析やプロンプト、フェーディングなどのまとめとして、また自分自身の再確認として、またこの先にコミック会話やソーシャルストーリー、ライフスキルについて書いていくことを忘れないようにするためにみたいな意味を込めて書いてみました。モデリングやプロンプト、課題分析、チェイニングといった技法は、さまざまな場面で活用できますし。

もちろんソーシャルスキルトレーニングは一朝一夕に、簡単に身につけられるというものではありません。般化には時間がかかりますし、トレーニングと本番である日常生活の間のミッシングリンクのようなものを埋めていく取り組みや工夫もたくさん必要になります。その子の実態によって目標設定や取り組み偏ったも変わってくるでしょう。そのためにさまざまな実践が行われています。

でも、子ども本人が納得し、こうなりたいと思った上でソーシャルスキルトレーニングに取り組み、実際に練習の成果を本人が実感できたとき、周りから評価を受けたときのパワーはすごいんです。そして「できた」実感と自信が次の頑張りへのパワーになります。

厳しく叱ったり指導したりするから取り組むのではなく、子どもたちが納得してスキルを身につけられるように、そして身につけたスキルが自信になってチャレンジする気持ちがどんどん広がっていくように。今回紹介したソーシャルスキルトレーニングについての内容がそのようなお役に立てば幸いです。


参考にしたサイト

1.子どものためのソーシャルスキルトレーニング君ならどうする「ソーシャルスキルトレーニングとは」

2.LITALICOジュニア「 ソーシャルスキルトレーニング(sst)と発達障害について。例や流れも解説。 」

3.みんなの教育技術「関係を円滑にする「ソーシャルスキル・トレーニング」のコツ」

4.四谷学院 発達支援「ソーシャルスキルとライフスキルの違いとは?【ライフスキルについて解説】」

5.教育zine「いつものクラスでSST」



表紙の画像は教育zine「いつものクラスでSST 第3回クラスで耕す子どもたちの心」より引用した「一本でぬりえ」のイラストです。