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特別支援学校からの発信「その指導や支援を子ども本人は必要としているのか?」

子どもたちと関わる保護者、教員、支援者の方々の中にはよかれと思って子どもたちへ伝えているのになかなか伝わらず悩まれている方もいらっしゃるかと思います。

子どものことを思っているのに伝わらないもどかしさ

「早く片付けをしなさい」「明日の用意をしなさい、また忘れ物するわよ」「ちゃんとあいさつくらいしなさい」

子どものためを思ってついつい小言を言ってしまう。でも子どもはこちらの言うことを聞かないのでついキツイ口調になってしまう。「なんでこんなに伝えているのにやってくれないの」とイライラしてしまう。何度も叱るけれど、だんだん効果がなくなってきた。

そんな経験って誰にでもあると思います。

でも、子どものためを思って伝えているはずなのに伝わらないのは本当になぜなんでしょうか?

ある社長の話

ある営業についての本を読んでいて、ハッとさせられるエピソードがありました。

どうしたら、営業で成果が出せるか?  その答えは、実はとても簡単です。相手のメリットをとことん考える、ということです。
 とても当たり前のことですが、見落としがちなポイントを、強烈に気づかせていただいた話がありました。次に紹介させてください。
  NPOなどの社会貢献活動をしていると、企業を訪ね、「サポートをしてください」とお願いに行く場面があります。こういう場合の企業側の本音として、営業のアポイントそのものを、わずらわしく思っているケースが多々あります。

 ある大企業のトップが、こんなことを教えてくれました。「なぜ、 NPOが嫌われるかわかりますか?  それは話が非常に論理的で、情熱的だからですよ」

 思わず私は、「それって、いいことなんじゃないですか!?」と聞き返しました。
 その方の説明によると、 NPOは、「世の中にはこんなにヒドイ問題があります。私たちは解決策を持っています。本気です(だから、あなた方が私たちをサポートするのは、当然です)」と、こちらに逃げ場を与えない。さらにそれが、論理的で情熱的だからたまらない、というのです。
 企業側からすると、「わが社のメリットは何なのか?」を知りたいです。そこに対する提案がまったくないので話にならない、と言われました。
 つまり、あなたの会社の強みや、商品の優位性を、論理的に情熱を込めて話すのはかえって逆効果かもしれないのです。「相手のメリットをとことん考える」ことを大切にしましょう。」
『ここではないどこかに、自分の居場所や働きがいのある職場を探しているあなたへ(秋田 稲美)」』

私たちはよかれと思ってこのNPOの営業のようになっていないでしょうか。自分の価値観や感情だけを押しつけて、なんでやらないんだ!と怒ってはいないでしょうか。

相手のメリットを考えるために、一度、子どもの視点から考えてみましょう。

子どもの視点から考える

子どものやる気だけが原因と考えるとお互いにとってもしんどくなってしまいます。

一度、子どもの視点に立ってなぜなのかを想像してみましょう。

もしかしたら子どもたちの考える●●と周りの大人が考える●●のイメージがズレているのかもしれません。

そうだとしたら私たちにできるのは、そのイメージのズレを埋めることです。私たちのイメージする●●のモデルの見本を具体的に大人が示すのです。例えば、具体的な手順をひとつひとつ一緒に確認する、マニュアル化して提示する、大人のイメージする片付いた部屋を写真に撮って視覚的に示すようにゴールを明確にするなどです。

もしくはその子にとってはハードルの高い内容なのかもしれません。その子にとってどの部分ができていて、どの部分が苦手なのか課題を分析したり、少しずつスモールステップで取り組んでいくことをおすすめします。

でもできるはずなのにやっていないように思えたり、「もっとやる気を出してほしい」なんて思うこともあるかもしれません。

子どもはその●●の必要性を理解しているのだろうか?

さてここからが今回のメインテーマです。

お伝えしたいのは、子どもたちはみなさんの求めている●●の意味や必要性を理解しているのでしょうか?

SSTソーシャルスキルトレーニングが求められるように、子どもたちの中には社会の暗黙のルールやマナーを理解するのが苦手な子がいます。

ある研修会でこんな言葉を聞きました。
「みなさんは当たり前のことだと思っているでしょうけど、洋式トイレに座って排泄するのは人間だけなんですよ」
私たち人間は、幼い頃からトイレットトレーニングをし、ある程度尿意や便意をコントロールして、トイレで用を足します。野生動物はそんなことをしません。もちろん衛生面や文化面などの理由はあるのでしょうが、私たちが当たり前と思っているトイレに座ることは、本能的に備わっているものではなく、後天的に学んだ価値観なのです。

必要性といえども、わかっていてもできないのが私たち人間です。ダイエット、運動、規則正しい生活、読書、勉強…やった方がいいと言われることは世の中に溢れています。

でも全ての人がそれら全てをやっている訳ではありません。むしろ、やっていない人の方が多いのかもしれません。正しいくて必要なことのはずなのに。

僕個人の考えですが、人がなにかを始めるためには、その人の中で必要性を理解し、納得した上で選択することが必要なのだと思います。大事なのは正しさではなく、その人の文脈における必要性と納得です。

無理やりさせられたことは長続きしない、もしくは厳しく注意する人がいなくなるとやめてしまうことが多いのはそのためだと思います。

昔読んだ本に書いてあった、ヒッピースタイルで服装にも身だしなみにも無頓着だったスティーブ・ジョブズが、服装が他者へ与える印象の重要さを理解し、Apple IIのお披露目会という場では窮屈なスーツに身を包んだというエピソードを思い出します。

なので僕自身は授業や日々の関わりの中で、今から学ぶことが子どもたちにとってどんなふうに役立つのかを伝えらようにしています。子どもたちに納得して学んでもらうためです。逆に生活上の課題を学びに繋げることもあります。

そうすることで、子どもたちが必要性を実感し「これいいな」と思う。それが子どもたちの身になり、子どもたちの自発的な学びや変化に繋がるんじゃないかなと考えています。

子どもが納得するための関わり方を

子ども本人の納得がキーワードになるなら、私たちの関わり方も変わってきます。

●●しなさいという指示だけでなく、なぜ●●が必要なのかをその子が納得するような形で提示しましょう。

無理やりさせるのではなく、必要性やメリットを説明した上で子どもにどうするかを選択してもらいましょう。その際はどこまでならいけるのかを交渉したり提案するアプローチも効果的です。

●●の必要性だけでなく、その先にあるお楽しみのために頑張ろうと伝える方法もあります。「宿題しないとゲームさせないよ!」ではなく、「ゲームするために宿題終わらせようね」という提示の仕方です。

もちろんその子にとって「やりたい」と思えるお楽しみである必要はありますが。

伝えるための関係性も大切です。私たちもそうですが、毎回ガミガミ叱られるような嫌な人から言われたことって、内容が正しくてもつい反発してしまいますよね。

その子の言うことを全て聞き入れてくださいとか、甘やかしてくださいとか、なんでも褒めてくださいいう訳ではありません。大事なのはその子を認め、評価すべきところを評価することだと思います。

まとめ

いろいろ書いてきましたが、僕自身もついイライラして「なんでやらないんだ!」と叱ってしまうことがあります。

子どものためにと思って、何度も叱り、お互いにしんどくなった経験もあります。

でも「なんでやらないんだ!」と声を荒げる前に立ち止まり、「なんでやらないんだろうか?どうしたらやろうと思うのか?」を子どもの視点に立って考えてみると、袋小路と思っていた先に道が開けてくることがあります。

そのためのキーワードとなる必要性や納得について紹介させていただきました。

大人が見る「困った子」は、本人からすると「困っている子」という言葉もあります。

「なんでやらないんだ!」と叱理想になったとき、ぜひ子どもの視点に立って考えてみてください。



表紙の画像はカラパイア「いつも不平、不満ばかりを口にする人は自ら健康を害している(ニューヨーク研究者)」より引用しました。