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子どもの参画〜子どもたちによる公園の計画・模型作り

こんにちは。
妊娠・出産をし子育てが始まり、noteからしばらく遠ざかってしまっていたので、とっても久しぶりの投稿です。

私はドイツで公園と遊具のデザイナーとして働いています(現在は育休中)。少し前の話になりますが、遊具デザインの仕事をしていて一番楽しかった日のことについて書こうと思います。

私が所属している遊具メーカーのデザインスタジオでは、プロジェクトごとに要望に沿った公園や遊具を一からデザインするのですが、子どもたちによるアイデアや希望がスケッチや模型の写真といった形で私たちのところに届くことも多々あります。

最近日本でも増えてきているようですが、子どもの参画による公園の実現による前向きな例がドイツを始めヨーロッパの各地でも多く報告されています。安全基準や予算といった枠に捉われない自由な発想がたくさん詰まった、しかし非現実的すぎない子どもたちのアイデアに、毎回とてもわくわくさせてもらっていました。

ドイツでは、1960年代から家庭や学校、地域の中で子どもの声を聞くことが重要視されるようになり、1992年に国連子どもの権利条約が承認されてから、子どもの参画がいろいろな場面で見られるようになってきました。遊び場の計画など子どもたちが日常的に触れる場のプロジェクトの進行に関わることで、主体性や協調性も生まれ、自分が参加したプロジェクトが完成した達成感を味わい、次への自信にも繋がります。自分たちが関わった遊び場が完成すると、子どもたちは誇りに思い、そこで更に楽しく遊べるようになり、友達も誘うようになります。また、自分たちの大切な遊び場を破壊するような行為も少なくなるようです。

こちらの記事にも子どもたちのアイデアから生まれた公園づくりについて書いているので、興味のある方はぜひ読んでみてください。

今回紹介したいのは、ドイツのとある街に新しく計画されている住宅街にできる公園の模型を子どもたちが作るワークショップに参加させてもらったときのことです。市の子ども・青少年課が、この住宅街の近くに住む7〜10歳の子どもたち約300人にこの日のワークショップのお知らせを送り、応募した20人が参加していました。ワークショップを進めるのは、この街のユースクラブの人たち。子どもワークショップのプロです。

自己紹介 & アイスブレイク

まずは、自己紹介。近所に住んでいる子どもたちなので、顔見知りや仲良しの子たちもいれば、みんなとはじめましての子たちも。また、子ども・青少年課の人たちや財政担当の方たち、この公園のプランに関わるランドスケープアーキテクト、遊具デザイナーの私など、いろんな大人たちも参加していたので、みんなで輪になって、遊びながらの自己紹介。
一通りみんな自分の名前を言ったら、ワークショップリーダーが、自分の名前と参加者のうちのひとりの名前を言ってボールをその人に投げます。「私の名前は〇〇で、△△にボールを投げるよ。」ボールを受け取った人は、同じ要領でまた別の誰かにボールを投げます。「私の名前は△△で、□□にボールを投げるよ。」既にボールを受け取った人は、それが分かるように両手を頭の上に乗せます。ボールがみんなに行き渡ったら、今度は同じ要領で、反対回り。それも終わったら、スピードを上げたり、ボールをふたつに増やしたり、ひとつのボールは初めと同じ向きでもうひとつのボールは同時に反対回りで回したり。バリエーションはたくさんあります。こうしてみんなで笑ってみんなの名前を覚えたところで、本題に入ります。

施工図・公園のテーマ「宇宙」

計画中の住宅地の中で、遊具が設置される場所はもう決まっていました。その施工図を子どもたちと一緒に見て、どれくらいの規模なのかを想像します。
また今回の公園のテーマは既に「宇宙」と決まっていたので、そのテーマに関して全体でブレインストーミング。
まず最初にワークショップリーダーが「おかしなアイデアや間違ったアイデアというのはひとつもないんだよ」と子どもたちにしっかりと伝えたり、ひとりひとりが発言しやすい雰囲気を作ったり、どんどんアイデアを引き出していく様子もとても勉強になります。
宇宙について子どもたちが思いついたことをどんどんメモしていって、更にイメージが膨らむように、このようなダッシュボードを仕上げ可視化していきます。

遊具・遊び場についてディスカッション

次に、
「よくない遊び場ってどんなの?」
「いい遊び場ってどんなの?」
に関してみんなでディスカッション。

よくない遊び場として子どもたちが挙げていたのは、
・赤ちゃん用の遊具しかない!
・ひとつの遊具しかない!
   (滑り台しかない、ブランコしかない、シーソーしかない等)
・特定の遊具がない!
 (滑り台がない、ブランコがない、シーソーがない等)
・カラフルすぎる!
・影がない!
・とにかくつまらない!
・小さい!
・水遊び場がない!

いい遊び場としては、
・いろいろな遊具がある!
・スリル満点!
・トイレがある!
・木がたくさん生えていて影がある!
・いろいろな植物が生えている!
・遊具だけじゃなくて卓球台もある!

公園プランナー顔負けの意見が勢ぞろいでびっくりしました。
この頃にはみんな勢いがついてきて、どんどんいろいろな発言が飛び交っていました。

グループ分け

そして、20人の子どもたちを5つのワークグループに分けます。グループ分けにもいろいろな方法があると思いますが、この日は、1月1日から12月31日までお誕生日の順番に子どもたちが一列に並んで、前から1、2、3、4、5、1、2、3、4、5、…と数えていって、5つのグループに分かれました。

公園のプランニング ー アイデア & スケッチ

「さぁ、公園の計画を立てましょう。遊具のアイデアを出しましょう。」
といきなり言われてもなかなか難しいもの。そこでこの日用意されていたのは、
いろいろな動詞、形容詞、素材、宇宙に関する言葉が入った4つの袋。
動詞は例えば、すべる、ゆれる、まわる、とぶ、など、遊び場で行うこと。
形容詞は例えば、速い、長い、高い、ざらざら、すべすべ、など。
素材は、木、金属、布、ガラス、など。
宇宙に関する言葉は、月、星、宇宙人、など。
この方法はいろいろなワークショップに応用できそうですね。
各グループがそれぞれの袋から2つずつ取って、それに沿ってアイデアを出し合いながらひとりひとりがA4用紙にスケッチを仕上げていきます。

それぞれのスケッチが仕上がったところで、グループでA3用紙一枚に遊び場のスケッチを仕上げていきます。4人の意見をまとめてひとつの遊び場を作っていく。これはなかなか大変そう、と思ったのですが、それぞれのアイデアを組み合わせたり補ったり選択したり、どのグループも驚くほど上手に話し合いながらスケッチを仕上げていきます。A4のスケッチを切り抜いて貼り合わせてコラージュにしたグループも。7〜10歳の子どもたちがしっかりとそれぞれの意見を主張し交換しまとめていく様子に、日頃から学校でもしっかりとグループワークが行われているんだなぁ、子どもの声がちゃんと聞いてもらえているんだなぁ、と本当に感心しました。
仕上げの時間になったら、プレゼン。5つのグループそれぞれが、どんな遊び場にしたいのかを説明しながらアイデアを紹介していきます。「宇宙」という同じテーマに短時間で取り組んだにも関わらず、多様性に富んだアイデアばかりで、とても楽しませてもらいました。また、それぞれのグループの代表ひとりだけが発表するのではなく、5つのグループ全てで4人全員が発言していて、ここでもグループワークやプレゼンの経験を見せつけられました。感心感心。

昼休み → だるまさんがころんだ

アイデアを発表した後は、一旦お昼休み。午前中だけでも盛りだくさんでした。お昼ご飯はピザと果物の食べ放題。みんなお腹いっぱい食べて、元気いっぱい。
ワークショップリーダーの提案で、午後のプログラムが始まる前にみんなでだるまさんがころんだに似た遊びをして、次にそのバリエーションを。そうすると子どもたちから次から次へと様々なバリエーションの提案があり、一通り遊んでから、公園の計画に戻ります。

グループのシャッフル

午後は、午前中のスケッチを元に模型を作ります。とここで、数人の子どもたちから、グループを変えたいとの申し出がありました。理由は、午前中グループ内でうまく噛み合わなかったから、お昼休みに別のグループの子と話していたら似たような新しいアイデアが出てきて一緒にその模型を作りたいから、単に仲良しの友達と一緒のグループがいいから、など。
お、どうなるのかな、と興味津々で見ていると、ワークショップリーダーは、各4人の5つのグループができてみんなが満足できるようであれば、グループを変えてもかまわないから、子どもたちで話し合うように提案。模型作成の時間が短くなりすぎないように制限時間は5分。2〜3人は納得がいかない顔をしていたものの、5分後には新しく形成されたグループで作業開始。すごい。また感心してしまいました。
模型作りの材料はたっぷり用意されています。というわけで、作業再開。

模型作り

さぁ、今日のハイライト、公園の模型作り開始です。午後には市の大人たちや子どもたちの家族が来てプレゼンをする時間が決まっているので、それまでに仕上げなければいけません。グループ内で話し合いながら、手分けしながら、どんどん模型が作られていきます。私も5つのグループの間を行ったり来たりしながら、何を作っているのか教えてもらったり、模型作りを手伝ったり。

モデル作りをしながらいろいろと話していると、子どもたちの性格も少しずつ見えてきて、とってもおもしろい。
大人しそうに見えた小さな女の子が実は想像力に溢れていてアイデアが次から次に出てきたり、おしゃべり好きでなかなか作業が進まないように見えていた子が実はとっても面倒見がよくて他の子たちのお手伝いばかりしているから自分のモデルはなかなか完成しなかったり。口数は少ないけれどこだわりが強くてモデルの完成度にも完璧を求める男の子。体調が悪いとしょんぼりした声で伝えてくれたので水分を摂って少し休むように促すと、実はグループ作業がうまくいかなくて別の部屋でしばらく泣いていた子。制限時間が気になって焦りすぎてあたふたあたふたと落ち着かず、作っては壊し作っては壊しを繰り返してしまっている子。自分は不器用だからとグループのメンバーに作業の分担をする仕切り屋さん。アイデアが止まらなくて他のグループにもアドバイスを始める陽気なおせっかいさん。

みんな真剣に、助け合いながら、試行錯誤しながら、モデルを完成させていきます。

「宇宙アドベンチャー」「スペース公園」「ロケット広場」など、各グループそれぞれ遊び場にタイトルを付けて、模型の完成です。

プレゼンテーション

参加している子どもたちのお父さんお母さんやきょうだいや市の大人たちがたくさん集まってきて、ついに発表の時間です。どのグループも誇らしげに楽しそうに自分たちのアイデアを発表していました。

子どもたちのアイデアや創作意欲をどんどん引き出すワークショップの進め方、揉め事があったときにも子どもたち同士で解決させるサポートの仕方、事前の準備等、ユースクラブの人からとてもたくさん学ばせてもらいました。
そしてもちろん、真剣に考えてアイデアを出し合い話し合いそれを形にしていく子どもたちからも多く学ばせてもらった1日になりました。

ワークショップの、その後

このワークショップに誘ってくれた子ども・青少年課の知り合いに確認してみたところ、昨年末にできあがってきたデザインは残念ながら子どもたちのアイデアと願望を叶えるものではなく、またやり直しになったそうです。
「子どもの参画」と言いながら結局大人がメインで進めてしまうプロジェクトも多い中、このプロジェクトでは最後までしっかり子どもたちの意見や願いを聞き入れられているようで、この遊び場の完成がとても楽しみです。

長くなりましたが、最後まで読んでいただいてありがとうございました!

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