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シークヮーサーカードの加工原理は乳化か?卵の熱凝固か? 〜考察編〜

食品加工を全力で楽しむ人、いしもとめぐみ です。
前回は瓶入りシークヮーサー果汁を使って、レモンカードならぬシークヮーサーカードを作りました。

結果としては大成功!うまく出来ました。
でもなぜ、とろみのついたクリーム状に固まるのでしょうか。
材料や加工工程から、乳化や卵の熱凝固が関わっていると推察しました。

1.乳化とは何か

乳化という言葉の意味を知らなくても、乳化は私たちの生活や食べ物には無くてはならない現象です。マヨネーズ、バター、マーガリン、チョコレートのガナッシュ、さらには牛乳や生クリームも乳化が関わっている食品です。

基本的に、水と油は混ざり合いません。
しかし乳化剤が水と油の間に入ることでふたつは均一に混ざり合い、安定した状態になります。これが乳化している状態です。

乳化剤としてはたらく物質には、サポニンやグリセリン脂肪酸エステルなど様々なものがあります。卵に含まれるレシチンも乳化剤としての力を持っています。

水と油を乳化させるには、乳化剤とあと2つ、コツが必要です。
それは「油は少しずつ加えること」「水と油をしっかり攪拌(かくはん)すること」です。

例えば、マヨネーズは卵と酢を混ぜ合わせたものに油を加えて作ります。
このとき油は少しずつ、細く糸をたらすようにゆっくり卵液に加え、同時にホイッパーなどで激しく混ぜ合わせます。

卵液に混ざった油の粒を乳化剤が取り囲むことで、油は水の中に安定して浮くことができ、乳化した状態になります。
油を少しずつ加えながらしっかり攪拌すると、卵液に混ざった油の粒は小さくなります。油の粒が小さいほど油と乳化剤は分離しにくくなり、乳化が安定します。油として舌に当たる面積が小さくなるのでマヨネーズの口当たりはなめらかになり、油っぽくなくさっぱりした味わいになります。

まとめると、乳化には乳化剤という成分と、油を少しずつ加えることと、水と油をしっかり攪拌することという操作が必要になります。

次に、卵の熱凝固についてです。

2.卵の熱凝固とは

こちらに関しては説明不要でしょう。卵の熱凝固も私たちに身近な現象です。
目玉焼き、玉子焼き、だし巻き玉子、ゆで玉子、オムレツ、プリンなどなど、みんなが大好きな卵料理はたいてい卵の熱凝固を利用しています。
卵が加熱によって固まるという現象は、卵に含まれるたんぱく質が熱によって変性(たんぱく質としての性質を失う)した状態です。

卵の熱凝固温度は卵黄と卵白で異なります。
この温度は資料によってまちまちですが、おおよそ以下のようになります。
白身:60℃前後で固まり始め、80℃で完全に固まる
黄身:65℃前後で固まり始め、75℃で完全に固まる

3.シークヮーサーカードはなぜ固まるのか?

シークヮーサーカードには果汁とバターと卵、つまり水と油と乳化剤が含まれており、出来上がるとマヨネーズのようにとろみのある状態になります。
これはマヨネーズ同様、乳化というはたらきが関わっているのかも…

そう予測して説明してきましたが、シークヮーサーカードには乳化という現象はあまり関係がない気がします。ここまでお付き合い下さった皆様、すみません。
なぜなら溶かしたバターを一気に加えて、ホイッパーではなくヘラでゆ〜っくりかき混ぜているから。乳化に必要な操作「油は少しずつ加えること」「水と油をしっかり攪拌すること」を行なっていません。
多少は卵のレシチンが油と水を引き寄せているかもしれません。しかしマヨネーズのようにがっつり乳化が絡んでいるわけではないでしょう。

では、シークヮーサーカードは卵の熱凝固により固まっているのでしょうか。

シークヮーサーカードの加工工程を振り返ってみましょう。
バターを合わせた卵液を70〜80℃の湯煎にかけ、ヘラで混ぜ続けました。
もしも混ぜることなく放置すれば、湯煎にかけているボウルに接している面から、卵液は少しずつ固まっていくでしょう。卵液を混ぜ続けることでまんべんなく熱が行き渡り、卵液全体の温度を均一に上げていくことができます。たんぱく質の変性も均一的に起こり、卵液は温度の上昇にともなって徐々にムラなく固まっていくことになります。
これがシークヮーサーカードの、とろりとしたクリームのような状態なのです。

湯煎温度は70〜80℃です。
これは卵が完全に凝固するかしないかという危険な温度です。

しかし卵液には砂糖や果汁、バターなどが加わっています。
厳密には、果汁に含まれる酸には卵の熱凝固を進めたり、砂糖には逆に遅らせたりする作用がありますが、すべてひっくるめて、卵液は混ざり物で希釈された(濃度が薄まった)状態だと考えられます。
こうなると卵液は凝固しにくくなります。塩と砂糖だけ加えたシンプルな玉子焼きよりも、出汁をたっぷり加えただし巻き玉子の方がふんわりやわらかく仕上がりますよね?

卵液は希釈されているので、一般的に卵が固まる80℃近くで湯煎しても完全に固まらず、粘性のあるとろとろの状態になるのです。

4.まとめ

以上より、シークヮーサーカードがゆるく固まるのは、
◯卵液が果汁・砂糖・バターによって希釈されているため
◯常に混ぜながら70〜80℃の湯煎にかけることで、全体がゆっくり均一に加熱され、徐々にムラなく固まっていくため
だと考えられます。

乳化はほとんど関係ありません。わはは。(開き直り)

これが私の中で納得のいく結論です。
謎が解けてスッキリ。シークヮーサーカードをさらに美味しく食べられそうです。

ずーっとシークヮーサーカードで通していますが、もちろんレモンカードなど他のフルーツカードでも言えることなので。
ふと思ったのですが、たんぱく質分解酵素を含む果物を使うとどうなるのでしょうか。むふふ、面白そう。
これはまたの機会に。

フルーツの香りと贅沢な甘味、バターと卵の濃厚な旨味を楽しめるフルーツカード、本当に美味しいですよ。混ぜる工程さえとにかく耐えれば比較的簡単に作れるので、ぜひトライしてみてください。
今日はこの辺りで失礼します。
ではでは。

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