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妄想紀行。起きなかった出来事の記憶。 ※オール妄想なので、実在する何某と写真と文章は全…

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妄想紀行。起きなかった出来事の記憶。 ※オール妄想なので、実在する何某と写真と文章は全く関係ありません。

記事一覧

Setagaya in 2015 #1

隣の部屋で、ケンタが「バカっ」と独り言を言っている。 ほぼ20分おきに言っている。 きっと仕事のストレスを、小さく発散させているんだろう。 「バカっ」。 『馬鹿』と言…

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1年前
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Doha in 2018 #1

私昨日、ここでおばあさんと話したんだ。知らないおばあさん。ちょうど今くらいの夕暮れ時。そのベンチでニャンコを抱いて座ってたの。ハチワレのちんまりした猫だった。ハ…

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1年前

Berlin in 2006 #1

エリさんとは、友人に呼ばれて出向いた誰かの誕生日パーティーで出会った。誰の誕生日だったかは知らない。でもそんなこと誰も気にしない。おおかた、私同様、ただ酒が飲め…

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1年前

Lisbon in 2018 #1

リスボンに越してきて3ヶ月ほど経ったある日、お隣さんになったミズ・チコーネが醤油を借りにやってきた。 ドアの向こうにヴァージンのように佇む彼女。 ようこそ、ミズ・…

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1年前

Luang Phabang in 2019 #1

立ち飲み屋の人見知りたちはいつも、お互いを視界にいれながら、寄ることも話すこともできず、しかし、大丈夫ここにいるから、という寂しい気遣いをもって、その思いのエー…

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1年前

Santorini in 2008 #1

サントリーニの崖の上で友達の元カレに出くわした。別れたばかりのふたりの関係については、私ははっきりと、彼の方に非があると思っている。彼は、己の行動原因は常に己の…

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1年前
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Ho Chi Minh in 2014 #1

深夜に上陸するという台風に備えて、夫が家中の雨戸を閉めて回っていたある夜、突然、私の胸元に小さな虚無が去来する。日曜の夕暮れ時に感じる物悲しさにも似た感覚。明日…

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1年前

San Francisco in 2012 #1

もよ子はもうずっと、J.Loの美容法を実践している。かれこれ20年以上も前、新入社員として職場の花見に参加した際、酔った同期入社に『吉田さんの後ろ姿、ジェニファーロペ…

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1年前
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Côte d’Azur in 2009 #1

ミャンマーの雑貨を扱うお店で“タナカ”というお香を見つけたのはもう何年も前のこと。 聞けば、ミャンマーでは化粧品として使用されているらしく、美肌を保つために重宝…

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1年前
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Hanoi in 2018 #1

外国で行われた体操の大会を見る機会を得た際の話。 どこかの国の小さな女の子が、マスカレードマズルカという音楽に合わせて踊る床の演技を見て、原始的な歓びを感じた。 …

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1年前
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Madrid in 2019#1

怒りはもう消化済みとばかりに妙に淡々と振る舞いながら、明らかによそよそしく、さらにこちらの感じの悪さにはひどく敏感で攻撃的。 どうしたの?と聞いても、適切な言葉…

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1年前
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Setagaya in 2015 #1

隣の部屋で、ケンタが「バカっ」と独り言を言っている。 ほぼ20分おきに言っている。 きっと仕事のストレスを、小さく発散させているんだろう。 「バカっ」。 『馬鹿』と言う時、ちょっと破裂音が入って、最後は必ず寸止め。 故に、限りなく『パカっ』に近い「バカっ」。 ちょっと馬の足音っぽくもあり、 これが始まるとモンゴルの草原に意識が飛ぶ。 もしかすると、ケンタ自身もモンゴルの馬に思いを馳せているのだろうか。 わたしは、隣との空間を隔てている、磨りガラスのスリットが2本入った引き

Doha in 2018 #1

私昨日、ここでおばあさんと話したんだ。知らないおばあさん。ちょうど今くらいの夕暮れ時。そのベンチでニャンコを抱いて座ってたの。ハチワレのちんまりした猫だった。ハチワレって懐っこいイメージあるから、野良ちゃんかなと思って声かけたんだ。ニャンコは、おばあさんの膝の上で絶妙にバランスをとりながら、白い靴下になってる前足をぺろぺろ舐めてた。おばあさんは、両手でニャンコの背中をポンポンしてて、もうかわいいったらないって顔して見てるの。それで私、「かわいいニャンコちゃんですね」って話しか

Berlin in 2006 #1

エリさんとは、友人に呼ばれて出向いた誰かの誕生日パーティーで出会った。誰の誕生日だったかは知らない。でもそんなこと誰も気にしない。おおかた、私同様、ただ酒が飲めると聞いて集まってきた連中だ。 部屋に入ると早速、バスタブで冷やしてあるビールを取りに、バスルームへ行く。エリさんはそこでひとり、便器に座り、マリファナを吸いながら、メロンパンを食べていた。「忙しそうですね」私は笑って声を掛ける。エリさんはガハハと大きく笑って「マリファナはいいんだけどさ、このメロンパンは誰にも分けたく

Lisbon in 2018 #1

リスボンに越してきて3ヶ月ほど経ったある日、お隣さんになったミズ・チコーネが醤油を借りにやってきた。 ドアの向こうにヴァージンのように佇む彼女。 ようこそ、ミズ・チコーネ。私は恭しく招き入れる。「なんとなく今日はそんな気がしてたんです。」私は言う。 「ミズ・チコーネ、私は9歳の時からこの日を待っていました。」 チコーネが恥ずかしそうに差し出した空の小さな醤油差しを横に置いて、私は一升瓶入りの醤油を持って行くように言う。 「遠慮は無用、ここには大西洋のマグロ全てを一瞬で漬けに

Luang Phabang in 2019 #1

立ち飲み屋の人見知りたちはいつも、お互いを視界にいれながら、寄ることも話すこともできず、しかし、大丈夫ここにいるから、という寂しい気遣いをもって、その思いのエーテルだけをじんわりと触れ合わせている。

Santorini in 2008 #1

サントリーニの崖の上で友達の元カレに出くわした。別れたばかりのふたりの関係については、私ははっきりと、彼の方に非があると思っている。彼は、己の行動原因は常に己の中にあるということを理解せず、キミのために、とか、キミのせいで、とか、そんな『恩着せがましい』言い回しを好む男。 そんな彼と夕暮れ時のサントリーニで出くわした。たくさんの観光客がひしめき合う中、彼も私もひとりだった。夕陽のかかった彼の瞳が茶色に輝いて、少しゾクっとする。でも今は面倒だ。ひとしきり挨拶を交わすと、私はなん

Ho Chi Minh in 2014 #1

深夜に上陸するという台風に備えて、夫が家中の雨戸を閉めて回っていたある夜、突然、私の胸元に小さな虚無が去来する。日曜の夕暮れ時に感じる物悲しさにも似た感覚。明日は月曜でも9月でもないのに…と思った瞬間、その小さな虚無はあっという間に巨大化し、息を吸う勢いで私の全身を飲み込んでしまう。『ひとりだ』。 そんな声が脳内に響く。すでに強くなっていた風が、雨戸を容赦なく叩く。パラパラと舞う雨。テレビの笑い声が遠のく。私は絶望的にひとりだ。わかっていた。なぜ気づかなかった?沈んでいく意識

San Francisco in 2012 #1

もよ子はもうずっと、J.Loの美容法を実践している。かれこれ20年以上も前、新入社員として職場の花見に参加した際、酔った同期入社に『吉田さんの後ろ姿、ジェニファーロペスに似てる』と言われたのだ。彼はただ『大きなお尻』と言いたかっただけであろう。もよ子はわかっている。しかしそれ以来、どうしてもJ.Loのことを無視することができない。 J.Loの美容法とは、『しのごの言わずに”モイスチュアライジング”』。 冬の朝、昨夜の風呂の残り湯で洗った洗濯物を、一人暮らしのワンルームいっぱい

Côte d’Azur in 2009 #1

ミャンマーの雑貨を扱うお店で“タナカ”というお香を見つけたのはもう何年も前のこと。 聞けば、ミャンマーでは化粧品として使用されているらしく、美肌を保つために重宝されているとのこと。私は、細いスティックに固められた乳白色のキラキラした粉末を顔にすり込みたくなる思いを抑え、厳かな気持ちで火をつける。 タナカは柔らかく香る。どんな気分もどんな音楽も邪魔しない。落ち込んでいる時も興奮している時も、とにかく何も言わず、スッと、ハチミツ入りの暖かい牛乳を身体の芯に注ぎ入れてくれる感じ。

Hanoi in 2018 #1

外国で行われた体操の大会を見る機会を得た際の話。 どこかの国の小さな女の子が、マスカレードマズルカという音楽に合わせて踊る床の演技を見て、原始的な歓びを感じた。 室内とは言え裸足で飛んだり跳ねたり、転がったり回ったり、全身を伸び縮みさせてあちらへこちらへとぴょんぴょん跳ね回る、魔法がかかったゴムボールのような彼女の動き。 彼女の身体は、音楽に共鳴して勝手に動き出し、その動きで覚醒した全身の細胞がくすくすと笑いながら、皮膚という膜を破って飛び出さんとばかりに、筋肉のコースター

Madrid in 2019#1

怒りはもう消化済みとばかりに妙に淡々と振る舞いながら、明らかによそよそしく、さらにこちらの感じの悪さにはひどく敏感で攻撃的。 どうしたの?と聞いても、適切な言葉を探し適切な対処を心掛けているフリをして、結局答えない。そしてずっと不機嫌。そんな怒り方をするクソ。