ファミレスのウェイトレス

私が高校生の頃にマネージャーとして在籍していた運動部は、平日は夜8時頃まで練習し、土日祝日も休みなどなく、
しかも朝から晩まで試合や練習をしていました。
弱いチームなのに遠征もありました。
たくさんバイトをしてお金を稼ぎたかったけれど、シフト制のバイトをすることは不可能でした。

進学校に通っていたのに、高校を卒業したら就職するつもりだった私は、
3年生になり部活を引退すると、すぐにあこがれのファミレスで働くことにしました。
最近は、ホールの仕事をウェイターとかウェイトレスとか言わないような気がしますが、高校生の頃の私は、なんだかその言葉の響きにずっと魅力を感じていました。

アルバイトは校則で禁止されていましたが、結構みんなやっていたし、
先生に見つかったところで、停学などになった人はいなかったと思います。

スタッフ募集の看板に、
『早朝は時給UP』と書いてあったので、
土日祝日の早朝からランチにかけて働くことにしました。
新聞配達の経験がある私にとっては、
ファミレスの早朝なんて、なんてこともない時間でした。

私がそのファミレスに入った頃は、
まだハンディは導入されていなくて、
オーダーは手書きで伝票に書いていました。
料理の名前にはすべて略語があり、
しかもそれが料理名を縮めただけ、というわけでもなく、なぜこの略語になったのだろう?と、疑問に思うようなものでした。覚えるのは一苦労でした。

朝に来店するお客は常連客ばかりで、
食べるものもだいたい決まっていました。それこそ「いつもの」で通じる世界でした。
モーニングセットの卵は、目玉焼きの半熟とか、両面焼きとか、よく焼きとか、スクランブルエッグとか、
お客の好みに調理してくれるのですが、
朝担当のおばさま方は、みんなそれを覚えていたので、新人の私がオーダーを聞きに行くと、お客もめんどくさそうな顔をしました。
朝からいつもラムステーキを食べるおじさんがいて、スタッフはみんなでその人を『ラムじい』と呼んでいました。

慣れてくると、ランチにも入るようになりましたが、出勤時間の15分前にはホールに出て、退勤するときは15分を過ぎてからホールを出るように言われました。
つまり30分はタダ働きをさせられました。

『早朝は時給UP』につられて早朝に入るようにしたのに、
「最初は試用期間ということで普通の時給ね。」と言われ、まあ、そんなものなのかと思っていましたが、
何ヶ月経っても時給は変わりませんでした。
店長に言ってみると「じゃあ、来月分からね。」と言われ…
「じゃあってなんだよ。もっと早く言えばもっと早く上がっていたんかい。」
と思いました。
こちらから言わなければ、忘れたふりをしてずっとそのままだったのでしょう。


そのファミレスは、デザートなどは、オーダーをとると自分で作らなければなりませんでした。
朝からパフェなど食べる人はほとんどいませんでしたが、たまにランチに入り、
とっても忙しいときなどは、作り方もよく覚えていないのに作らなければならず、大変でした。

あるとき、学校で、たいして仲良くもないクラスメイトに、ファミレスでバイトをしていることを知られ、
「じゃあ、今度みんなで行くよ!デザートとか、タダで出せるでしょ?」
と言われました。
たしかに、自分がとったオーダー分は自分で作るのだから、忙しい時間帯なら、伝票に書かずに、とったふりをして作ることは可能でした。
でも、そんなことをしたこともなかったし、その子達のことは好きでもなかったし、特別に親しかったわけでもないのに、よくそんなこと言えるなぁ…とビックリしましたが、口だけだろうと思っていました。

でも、数日すると、
私が昼間出勤する日と店の場所を確認してきました。
そして
「じゃあ、その日に行くね!」と、言ってきました。

当日は遠い市外からの人も含めて6人でやって来ました。
安い料理をいくつか頼み、その6人で分け合った後、遠慮なくいろんなデザートを注文してきました。
なんとか誰にもバレずに頼まれたデザートを出すことができ、みんなは満足そうに帰っていきましたが、私はすごい罪悪感が残ったままでした。

最初から好きではなかったその人達が、
とても嫌いになりました。

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