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【ドローン対策専門家】海自護衛艦「いずも」騒動に見る違和感

横須賀基地に停泊中だった海上自衛隊護衛艦「いずも」のドローンで空撮されたと見られる動画が中国の動画共有プラットフォーム「bilibili」に投稿され、ソーシャルメディアで拡散した問題。当初に海外メディアから見解を求められましたが、「身の回りでは取り立てて騒ぎになっていない」と答えたまま放置し、その後も取り合っていませんでした。

「いずも」騒動への違和感

何故なら表立って騒ぐことは安全保障において得策ではないからです。レーダー等を破壊された訳ではありませんし、衛星からも撮影できる範囲の映像に過ぎません(確かに微弱電波をどこまで捉えられていたかは気になるところですが、今回の愉快犯ではその心配はなさそうです)。そもそも、生成AIやCG映像ではない実写動画だとしても、ドローンでなければ撮れない類の映像でもありません。ただ、ドローンで空撮するのがコストも掛からず簡単で手っ取り早い方法というだけのことです。

2019年4月米国海軍艦艇ズムウォルトに群がった6機の正体不明ドローンうちの1機

本来、悪天候や夜間での情報収集に有効かつ有用なのがドローンの特性です(故に災害時の被害状況把握に最適)。従って、ドローンを使用した艦艇へのスパイは珍しいことではなく、2019年4月に米国海軍艦艇「ズムウォルト」に6機のドローンが群がったケースが特に有名です。当時、6つの正体不明の飛行物体はUFO、正確にはUAP(Unidentified Anomalous Phenomena)ではないかと一部で騒がれたことから有名となった事例ですが、後に香港の貨物船から放たれたドローンによるスパイ活動だったと米軍が判定するまでに約3年を要しています。(画像と映像に映っている三角形の飛行物体「空飛ぶピラミッド」の正体はドローン。暗視ゴーグル越しにカメラで撮影された結果。)

今回の「いずも」は動画自体がソーシャルメディアにアップされているので未確認異常現象(UAP)として誤魔化すことは流石にできません。が、「加工・捏造の可能性」と言ったまま「探知はしていた」とし、大した問題ではないというポーズで数年間寝かせれば安全保障上はまだ増しな対応でした。

ところが、「本物の可能性」「探知できなかった」などと言い出すから問題を広げることになりました。安全保障や外交では国際的な相互関係間での駆け引きが必要であり、何でも情報を開示すればよいというものではありません。世界は情報戦の直中。民主主義国家だからといって直ぐに全ての情報を開示すべきだとは限りません。殊に安全保障に関わる機微な情報においては機密が必要です。(もちろん、適切に記録が保存され、後世に情報公開されることは前提ですが。)

たとい本当に探知できていなかったとしても、鴨の水掻きよろしく上体は平然としつつ水面下で防衛省・自衛隊がカウンタードローンシステム(C-UAS)の拡充とドローン対策訓練に危機感を持って取り組んでくれていればよいだけのことです。尤も、トイレットペーパーさえ自腹を切って購入していたとされる自衛隊ですので、予算の壁が存在することも想像に難くありません。

しかし、防衛相の対応をはじめ国会議員やメディアが軽率にも騒いで問題を大きくしてしまいました。国会議員は騒ぐのではなく、自衛隊が十分な装備と整備体制を整えられ、鼬ごっこである最新技術に絶えずアップデートできるよう建設国債を発行して防衛費を出すことです。そして何より必要なのは、かねてより懸案となっている自衛隊はじめ警察や消防など日本の法執行機関の手足を縛っているポジティブリスト過ぎる法規制、電波法等を改正することです。騒ぐなら改正しようホトトギス。

そもそも、ドローン(UAV)を検出・識別・追跡・対処するカウンタードローンシステム(C-UAS)開発を指揮していた立場からすれば、悪意のある不正ドローンを探知することは容易ではありません。まして、悪意を持った不正ドローンが日本の電波法を遵守して2.4GHz帯のWi-Fiを使用するとは到底思えません。また、ナビゲーションにGPSなどのGNSSを使うこともまずあり得ません。以前、C-UASについて意見交換を求めてきた米軍機関が、100%探知することは不可能という前提に立ってドローン対策に腐心しているのは、至当な姿と言えます。(C-UAS開発に関しては『【ドローン最大の冤罪事件】ガトウィック空港ドローンミステリー』を参照ください。)

対して、防衛省(および政府・与党)には以前「シームレスに災害時転用可能なISTARドローンシステム(UAS)整備計画」を提案して却下された経験があります(ロシアによるウクライナ侵攻の戦況をまのあたりにし、漸く最近になってドローンの重要性を理解したようですが)。

残念ながら、米軍と違って、C-UASに関する問い合わせを受けたこともありません。ですが、今回の「いずも」騒動でC-UASの常なるアップデートとドローン対策訓練の必要性は認識できたことと思います。

それにしても、日本のマスコミは本当に空騒ぎが好きなようです。軍事・国防専門家に話を聞くのは理解できます。しかし、今回の「いずも」騒動でドローンスクール講師やドローンレーサーをコメンテーターに起用するおかしさといったら、自動車メーカーのデータ偽装・車両認証不正(型式指定申請不正)事件で自動車教習所の教官に意見を求めているが如き滑稽さです。「災害時のドローン活用」(全天候型UAVなど悪天候・夜間の情報収集に有効かつ有用なのがドローンの特性)や「乗用ドローン(Passenger Drones)と空飛ぶクルマ問題」などドローンとAAMに関する日本メディアの議論が毎度本質からずれ、視野狭窄で頓珍漢なものとなるのも道理です。

例えば、上に挙げたX/Twitterポストで触れた最近の「空飛ぶクルマ」関連の記事なども困ったものです。記事では「明確な定義はないが」と記述されていますが、「空飛ぶクルマ」の定義は「空の移動革命に向けた官民協議会」の『空飛ぶクルマの運用概念』第1版(2023年3月31日)で示されています。定義も知らないジャーナリストが記事を書き、それを掲載する日本メディアの異常。しかも、「空飛ぶクルマ」はエアモビリティであるにも拘らず、当該記事は「自動車ジャーナリスト」に取材させているという見当違いも甚だしいものです。(「空飛ぶクルマ」や「乗用ドローン」の定義に関しては『【エアモビリティ】空飛ぶクルマ、乗用ドローン、eVTOLは何が違うのか?』を参照ください。)

あまつさえドローンの大きさに関する分類など基本知識がないまま行当りばったりの感覚でドローンサイズを記述、報道しているのも日本メディアの根本問題のひとつと言えます。

政府などの資料で「ドローン(小型無人航空機)」などとなっているのは「ドローン」の意味が「小型無人航空機」という訳ではなく、「ドローン」=「無人航空機」の中でも「小型」に分類される無人航空機という意味で括弧書きされているものです。日本では25kg未満(100g以上)の無人航空機が「小型」と分類されます(因みに、100g未満は「模型航空機」という分類になります)。同様にアメリカ連邦航空局(FAA)の分類では55ポンド(約25kg)以下のドローン(UAS)が「Small」(小型)サイズに分類されています。この「Small UAS」を略して「sUAS」と表記するのが一般的です。(「UAS」「UAV」などの用語については『【ドローン】新しい国際航空標準・勧告方式(SARPs)』を参照ください。)

先に挙げたX/Twitterポストのケースでは、NHKの報道および記事はドローン機体(UAV)重量9.45kgのエアロセンス社製VTOL固定翼ドローン「エアロボウイング」(AS-VT01)を「大型」と言っているので誤りとなります。25kg以下のUAVである「エアロボウイング」は分類において小型ドローン、つまりsUASクラスのドローンです。付言するなら、北大西洋条約機構(NATO)の基準では「Mini」(ミニ)カテゴリーのドローンに分類されます。「小型」(Small)どころか「ミニ」(Mini)とも見做されるUAVサイズであることに留意が必要です。(ポスト内でも触れているように海上保安庁の使用する全長11.7m、翼幅24mの固定翼ドローン「SeaGuardian」が標準的なドローンサイズと言えます。)

NATOのドローン分類表(NATO UAS Classification Chart)

まして、「災害時のドローン活用」に関しては何をか言わんやです。

また、ドローンに関して日本の軍事・国防専門家とドローン(およびAAM)の専門家との認識が一致している訳でもありません。私たちドローンとAAMの専門家が「アメリカは中国の十年遅れ、日本はその米国から更に十年遅れている」と分析しているのに対し、「日本は世界から2、3年遅れ」という日本の国防専門家が存在したりします。軍事・国防専門家だからと言って必ずしもドローンとドローン対策に詳しいとは限らないのです。

さらに言えば、ドローン自体が「ゲームチェンジャー」という認識はドローンとAAMの専門家にはないことだと思われます。欧州政策分析センター(CEPA)のレポート「An Urgent Matter of Drones」で述べられている通り、「ドローン自体はゲームチェンジャーではない。UAS(ドローンシステム)を取り巻く誇大宣伝にも拘らずその有効性は、電子戦(EW)、サイバー、宇宙能力、C4ISR、海軍・空軍戦力を含む軍編成の有機的相互支援による広範な軍事エコシステムへの統合にかかっている」(意訳)のが現実です。

Drones are not game changers by themselves. Despite the hype surrounding UAS, their effectiveness depends on their integration into a wider military ecosystem centered on mutually supporting and enabling capabilities, including combined arms formations; EW, cyber, and space capabilities; C4ISR (including multidisciplinary intelligence); and naval and air power capabilities (depending on type of UAS in question).

CEPA「An Urgent Matter of Drones」

「空飛ぶスマホ」ドローンの脅威

もともと軍事技術だったドローン(無人航空機)が、民生機に携帯電話などで使用されるようになったIMUなどのセンサーが搭載されるようになって進化が加速しました。民間セクターにおいて無人航空機から「空飛ぶIoTデバイス」「空飛ぶスマホ」へと進化したドローンは現代におけるデュアルユースの申し子と言えます。

その民間セクターにおいて急速に発展したのがsUASクラスの無人航空機、つまり小型ドローンです。このsUAS(小型ドローン)がドローン対策(ドローン防空)においてもっとも厄介な存在になります。小さくて飛行スピードが遅く、低空を飛んでくるのでレーダーなどでは捉え辛く、探知できたとしても鳥やコウモリなどとの判別が難しいからです。

鳥型のプロペラ推進ドローンやオーニソプター(羽ばたき)ドローンは当然のこと、実際の鳥の剥製で機体を覆った羽ばたきドローンも存在します。また、ウクライナ支援で送られたことで有名となった段ボール製のドローンもありますし、パフライスとゼラチンでできた食べられるドローンもあります。

悪意を持った不正ドローンが航空法や電波法を順守するはずもないので、これらのドローンが2.4GHz帯のWi-Fiを使用するとも考え難く、別の周波数帯を使っている恐れや自律型である可能性を考慮してドローン対策を行わなければなりません。

せっかく今回ここまでの騒動に発展してしまったことですので、どうせなら最低限実行すべきドローン対策を簡単に一般論の範囲で示しておきたいと思います(当然ですが、詳しい内容は公開できませんので)。

ドローン対策

ドローン検出システム

DJI社のドローン検知プラットフォーム「AeroScope」(モバイル)

まずはドローンを探知できなければ意味がありません。ドローン対策のベースとなるのがドローンを検出・識別・追跡する「ドローン検出システム」です。一般に最も知られているのは民生ドローンシェアトップのドローンメーカーである中国企業DJI社のドローン検出システム「AeroScope」でしょう。

因みに、メーカーの説明では「ドローン検知プラットフォーム」となっていますが、「検知」の意味には「実際に目で見て知ること」という意味があるためBVLOS(目視見通し外)で機能するものに関しては通常「検知」という用語は使用されません。「AeroScope」はBVLOSでも機能しますので、本来なら「検出」と言うべきところではあります。

この「AeroScope」はDJI社製以外のドローンにもある程度は有効ですが、メインは世界シェアの7割を占める同社製ドローンに組み込まれたDroneIDを使用したUAV(ドローン機体)と操縦者のGPS位置情報、飛行状況、経路、機体モデル、シリアルナンバーなどが検出できることが特徴のシステムです。

操縦者の位置情報を特定できることからロシアによるウクライナ侵攻のまだ電子戦(EW)が活発でなかった初期においてDJI社はロシアが有利になるよう「AeroScope」を操作しているとウクライナが激怒したことがありました。このときはウクライナ側の「AeroScope」だけに障害が発生していたと言われており、対してウクライナの使用するDJI社製ドローン操縦者位置情報はロシア側に筒抜けだったということになります。

この問題に対してウクライナの在野有志が立ち上がり、DJI社製ドローンのファームウェアを改造して「AeroScope」を無効化しました。その後、暫くの間はDJI社製ドローンが最前線で使用されたようですが、電子戦(EW)が激しくなると結局DJI社製ドローンは最前線で使い物にならなくなったということです。その点においては電子戦(EW)対策が不十分だったアメリカ製ドローンも同様でした。現在はウクライナ自国製造のFPVドローンや自律型ドローンが最前線で使用されているようです。

DJI社製ドローンAppに端末乗っ取りバックドアが仕掛けられていたことが過去に発覚したなどの経緯があり、FBI(アメリカ連邦捜査局)と米国サイバーセキュリティ・社会基盤安全保障庁(CISA)は重要インフラで中国製ドローンを使用しないよう警告を出しています。従って、DJI社製ドローン検出システムを民間が導入することは推奨しません。ですが、自衛隊などの法執行機関は揃えて分析・解析すべきは当然です。

「AeroScope」DroneIDハッキングは大学など民間のサイバーセキュリティ研究者の間でも一般的に行われていることなので、法執行機関のサイバーセキュリティ専門家なら容易に分析・解析できることと思われます。

カウンタードローンシステム

Leonardo社のC-UAS「Falcon Shield」

ドローン検出システムがドローンの検出・識別・追跡を行うのに対し、それらに加えて何らかの対処機能を有するシステムを「カウンタードローンシステム」と言い、通常「C-UAS」という略称が用いられます。つまり、ドローンを検出・識別・追跡・対処するための総合的なソリューションがC-UASです(写真は前出の記事『【ドローン最大の冤罪事件】ガトウィック空港ドローンミステリー』で触れたガトウィック空港に配備されたC-UAS)。また、上述した小型ドローン(sUAS)に重点を置いたカウンタードローンシステムを「C-sUAS」と呼ぶことがあります。

尤も、ドローン検出システムはC-UASに含まれると言うべきかもしれません。自衛隊などの法執行機関においては不正なドローンを無効化まで対処できるカウンタードローンシステム(C-UAS)が必須となることは言うまでもありません。

徘徊型弾薬(徘徊型ドローン)、俗に言う「自爆ドローン」など攻撃を意図したドローンの場合、検出から識別・対処までの猶予は数秒であり、対処の判断に割ける時間は1秒ないとも言われています。これは人間が余裕を持って判断するには短過ぎる時間であるため、C-UASにはAI(人工知能)の導入が進められています。

実際、米海兵隊CD&Iによれば、ガザにおけるイスラエル国防軍(IDF)が撃墜したドローン(UAV)のうち40%が自軍のドローンということです。現場(戦場)では「ドローンを検出したら即撃墜」が徹底されているためとも言われていますが、AIの軍事利用が最も進んでいるIDFだけにこの友軍ドローン撃墜にどれだけAIが関与しているのかが個人的には気になります。

ドローン対処方法

ドローンへの対処手段としては大雑把に、①ジャミングおよびハッキング、②物理的捕獲、③物理攻撃、④指向性エネルギー攻撃の4つの手段があります。

■ドローンへの対処手段
①ジャミングおよびハッキング
②物理的捕獲
③物理攻撃
④指向性エネルギー攻撃

①ジャミングおよびハッキング

Flex Force社の「Dronebuster Block 3」

①ジャミングおよびハッキングはドローン無効化の基礎的対処手段となります。ですが、悪意を持った不正ドローンが律儀に無線リンクやGPSなどのGNSSを使用しているとは考え難いので、不正ドローンにはまず通用しません。

あくまでVLOS(目視見通し内)における初手といった対処手段であって、式典など街中でのイベント警備等でドローン無効化による被害を最小限に抑えたい場合に採用するソフトな方法(ソフトキル)です。全ての法執行機関が十分に配備すべきものではありますが、悪意を持った不正ドローンに対する無効化能力はあまり期待できないのが現実です。

②物理的捕獲

物理的捕獲はインターセプタードローン(interceptor drone)や訓練された鷲などによって物理的にドローンを捕獲して、排除するソフトな手段です。不正ドローンをインターセプトするために訓練されたオランダGuard From Above社のカウンタードローン鷲(C-UAS Bird of Prey solution)は「日本ファクトチェックセンター」(JFC)のドローンに関するファクトチェックに協力した際に触れたのでお馴染みかと思います(【ファクトチェック】日本ファクトチェックセンターによる『「(動画)ドローン配送の普及が進まないのは鳥に襲われるから」は誤り』判定を検証)。

イスラエルでも配備されているRobotican社のインターセプタードローン「Goshawk」

可能な限り悪意を持った不正ドローンは捕獲してドローンフォレンジック(drone forensics)を行うことが求められるので、この能力も全ての法執行機関が必ず保有すべきドローン対処手段です。

③物理攻撃

Kongsberg Defence & Aerospace社の「Protector RS4」

①と②が非破壊によるソフトキルだったのに対し、物理攻撃は対空砲や迎撃ドローンで悪意を持った不正ドローンを破壊し、撃墜する対処手段です。一般的には最もイメージし易いハードキル方法だと思いますが、取り立てて効率(ドローン1機撃墜するのに必要な弾数効率)に優れる訳ではなく、市街地で使用したらほぼ確実に二次被害が出る手段なので注意が必要なのは言うまでもありません。

防衛省はレールガンの研究開発にこだわっているようですが、レーザー指向性エネルギー兵器(LDEW)の1発(10秒間照射)当たりのコストが10ポンド未満にまで低下し、米陸軍が実際に海外配備して運用を開始したこともあり、後述する④指向性エネルギー攻撃の優先順位を上にすべき国際情勢です。

④指向性エネルギー攻撃

英国防省国防科学技術研究所が開発するレーザー指向性エネルギー兵器「DragonFire」

指向性エネルギー攻撃は物体発射の代わりにレーザーやマイクロ波などの電磁波、粒子ビームなどの粒子線、音波等のエネルギーを対象に照射して破壊するハードキル手段です。

レーザーやマイクロ波など電磁波の場合、その速度は光速(約マッハ88万)ですから、たかだかマッハ7から8程度の極超音速弾丸しか発射できないレールガンとは比べ物にならない速さで不正ドローンに照射できます。その上、上述した通り1発(10秒間の照射を1発と換算)当たりのコスト(電気代)もリーズナブルでエコノミーとなり、極論すると電源さえ確保できていれば弾が尽きる心配もありません。

取り分け懸案となっているsUAS(小型ドローン)クラスのUAV迎撃には有効であり、複数標的への対応も容易となるため「群ドローン攻撃」(drone swarm attack)に対する防空に道が開けます。

指向性エネルギー兵器は研究開発段階から実際に配備されつつある段階に移行したので、軍事・国防レベルでは必要不可欠なドローン対処手段となりました。もちろん、自衛隊への配備も待った無しで必要だと思われます。

これらの対処手段とドローン検出・識別・追跡機能が統合されてはじめてカウンタードローンシステム(C-UAS)の能力が発揮されます。

カウンタードローンシステムの課題

カウンタードローンシステム(C-UAS)における今後の課題は大きく2つとなります。その壱、迎撃コスト曲線を防御側に有利にすること。その弍、大量の同一機種あるいは多種多様な異なる機種のドローンが同時に群飛してくる「群ドローン」(drone swarm)による攻撃「群ドローン攻撃」(drone swarm attack)を確実に無効化できるよう成功率を最大化させることです。

防衛省・自衛隊への処方箋

NCI Agency exercised C-UAS in TIE21

カウンタードローンシステム(C-UAS)の課題はドローン対策の課題そのものと言えます。とは言うものの、そのために日本、取り分け防衛省・自衛隊はまずドローン対策ドクトリンの策定から開始しなければなりません。ドローンとC-UASとの関係は常に鼬ごっこのアップデート合戦ですが、着手しなければ何も始まらないのです。

C-UASドクトリン

2019年からNATOはC-UASのガバナンスフレームワークを持っており、C-UAS作業部会は民生ドローンを含むクラスI(前出の「NATOのドローン分類表」を参照ください)のドローンに焦点を当て従来型と非従来型の両方の脅威の検討を開始しています。

アメリカは2020年に「Joint Counter-small Unmanned Aircraft Systems Office」(JCO)を設置しました。イギリス、イタリア、オランダもこのガバナンスアプローチに触発され、国家レベルのC-UASセンターを設置。ベルギー、デンマーク、ノルウェー、ルーマニアはC-UAS能力の獲得に乗り出しています。しかし、ドローン後進国の日本は出遅れました。

そこで、前出のCEPAに倣って防衛省・自衛隊に必要なドローン対策の処方箋を挙げるなら以下のようになります。

■防衛省・自衛隊への処方箋
1)最近の戦争・紛争から学んだ教訓、現在進行中の技術開発、予想される将来の脅威と課題に基付いてドローンとカウンタードローンシステム(C-UAS)能力要件を明確に評価する必要があります。

2)ドローンとC-UASの能力・機能開発とポリシー策定は規模と相互運用の必要性およびマルチドメイン展開のニーズによって推進しなければなりません。

3)AIツール、データアーキテクチャ、通信ネットワーク、サイバーおよび宇宙における能力および展開などの実現能力強化が必要です。

4)運用実験と調達プロセスを改善しながら現在進行中の重要なイノベーションの取り組みを活用することが重要となります。

5)ドローンの新たな役割と拡大、そしてC-UASの重要性の高まりに対応するため、ドクトリン、作戦コンセプト、戦術、技術、手順(TTP)を改良または確立すべきです。

6)防衛省・自衛隊のドローンとC-UASとの能力統合には人材育成に特別な重点を置く必要があります。

ウクライナの教訓

最近の戦争・紛争から学ぶべき教訓、特にウクライナから学ぶべきドローンとC-UASの教訓は顕著です。

■ウクライナの教訓
1. 民間セクターは防衛と国家安全保障において不可欠な存在であり、重要な利害関係者となっています。民間の技術とイノベーションが軍事分野にますます波及しています。イノベーションを活用し、新しい技術を迅速に取得・統合し、効率的に採用して使用する能力が現代戦における成功する鍵となっています。上述したようにウクライナで「AeroScope」を無効化したのは民間の在野有志です。民間セクターとの連携が重要となりますが、日本の場合はドローンに関する協会や業界団体が早くも利権団体化しているので見極めに注意が必要となります。

2. 陸・空・海の物理的領域における軍事作戦へのドローンの急速な統合にはサイバー領域(ドメイン)と宇宙領域(ドメイン)から​​のサポートが必要です。ドローンは衛星ナビゲーション、無線通信の使用、搭載センシング技術、リモートコントロールに依存しているため、セキュリティの観点からもサイバーと宇宙に依存しています。非GPS環境(非GNSS環境)対応や無線通信を使用しない自律航法による飛行といった電子戦(EW)耐性が構築されてきましたがテクノロジーは鼬ごっこであり、依然としてサイバードメインと宇宙ドメインの両面からの支援が重要となります。

3. C-UASはあらゆるドメインと全ての階層で不可欠です。ドローン(徘徊型弾薬を含む)が安価な消耗品となり、より高性能になって戦場での数が増えるにつれて、ドローンに対抗するために従来の防空手段を使用することは技術的に実行困難となり、費用対効果もますます悪化します。そのためドローンや他のスマート兵器に対してはパッシブ(受動的)対策(隠蔽、電磁統制、分散、ネット)とアクティブ(能動的)対抗手段の組み合わせが不可欠になります。アクティブ対抗手段には、対空砲を含む従来の物理作動体や迎撃ドローンと電子戦(EW)や指向性エネルギー兵器などの非キネティック手段を重層的に組み合わせることが理想的です。

4. ドローンの役割とミッションは拡大しています。戦闘ドローン(UCAV)は従来のISR、標的捕捉、攻撃機能に加え、SEAD/DEADミッション、近接航空支援、空対空交戦とオプションを広げている状況です。長距離空対空・空対地弾を装備したステルス化した次世代ドローンは敵空域に侵入し、単独あるいは有人航空機と緊密に協力して対空ミッション、電子戦(EW)支援、護衛、阻止を行うことができるようになります。さらに、ドローンは補給や空中給油ミッションを実行し、高度な戦術データリンクリレーを提供、対潜水艦戦の効率を向上させ、他のドローンや徘徊型弾薬を発射できます。最後に、センシング、コンピューティング(オンボードおよびクラウド)、AI、レーザー、次世代ネットワークなどの他の技術の向上により、C4ISR、防空(ミサイル防衛を含む)および標的捕捉全般におけるドローンの役割がさらに増大する傾向にあります。

自律型ドローンによるAI自動警備システム

とは言え、実際に使ってみないとドローンとC-UASへの理解は深まらないでしょう。まずは民間でも使用されている自律型ドローンによるAI自動警備・監視システムをテストサイトに導入し、警備する防衛側とサイバー攻撃・突破する攻撃側で攻守に渡る演習と研究から始めてみるのもひとつの手かもしれません。

1人のオペレーターで最大30機の自律型ドローンを同時BVLOS(目視見通し外)遠隔操作・フリート運用させる認可をアメリカ連邦航空局(FAA)から受けているPercepto社の自律型ドローンによるAI自動警備・モニタリング・点検システム「AIM」やフランスの核燃料施設警備などに試験導入されたAzur Drones社の「SKEYETECH」など海外では民間でも使用されているシステムです。法執行機関、特に自衛隊が敷地内において自由に使用・研究できるよう規制緩和が求められます。

24時間以内ドローン設計・製作訓練

また、米軍に倣ってミッションに合わせた自律型ドローンを3Dプリンターなどを使って24時間以内に設計・製造・飛行させる訓練は必要不可欠なものだと思われます。

さらに、その訓練で製作した自律型ドローンを飛ばす側とC-UASなどを駆使して無効化する側との対戦演習が繰り返し実施されるのが理想的です。

C-UAS評価ツール

C-UAS自体に関してもC-UAS評価ツール等を活用し、絶え間ないシステム拡張・統合・アップデートで能力の底上げが必要となります。PDCAサイクルでは生き残れないので、OODAループとTCPEDサイクルが重要です。それにより、C-UASと各種システム統合の煩雑性も把握できるので、C-UAS開発への有意義なフィードバックも得られます。

マルチドメイン作戦

もちろん、ドローンはドローンでも、「空飛ぶIoTデバイス」としてのRPA(RPAS)やUAV(UAS)だけでなく、AUVやROVなどの水中ドローン(UUV)、ASVなどの水上ドローン(USV)などへの対策も必要となります。まさにドローンに対する対策は全てのドメインとあらゆる階層で不可欠なのです。

コンクルージョン

護衛艦「いずも」騒動に覚える違和感。

緊急通報(日本での119番通報)するとスウェーデン、デンマークの一部においては、「救急ドローン」(AED搬送ドローン)が社会実装されているので「救急ドローン」が飛んで来ます。ですが、日本において私たちが現在取り組んでいる「救急医療ドローンプラットフォーム」には規制の壁が立ちはだかっています。

同様に、あるいはそれ以上に、自衛隊は日本の法規制によって手足を縛られています。従って、たとい十分なC-UAS配備とドローン対策訓練を行ったとしてもできることは限られます。今回、騒動にしたなりの結果を求めるのであれば、最低限の法改正が必要不可欠となります。

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