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【ファクトチェック】日本ファクトチェックセンターによる『「(動画)ドローン配送の普及が進まないのは鳥に襲われるから」は誤り』判定を検証

日本では新聞やテレビはもちろんドローン専門メディアにさえドローンに関する不正確あるいは不適切なミスリード記事(報道)が氾濫しています。その中の一部には風評被害に繋がるものも存在します。

ドローン専門メディアの編集長から記事に間違いがあったら教えてくださいと社交辞令の挨拶は受けていますが、現状あまりにも誤りが散見されるため極力見ないようにしているのがドローン後進国であり衰退途上国でもある日本の現状です。

もちろん、たまたま目に入ってしまった不正確あるいは不適切なドローン関連報道はミスリード記事としてTwitterで風評被害などへの注意喚起tweetを行っていますが、それはほんのささやかなものでしかありません。

そんな中、日本ファクトチェックセンター(Japan Fact-check Center)がドローン関連事案を取り上げてくれたことは有難いことではあります。しかしながら、今回の検証結果として「誤り」判定はいささか早計な結論だったのではないかというのが正直なところです。

ドローン配送の普及が進まないのは鳥に襲われるから言説

今回の日本ファクトチェックセンター(JFC)による記事で「ドローン配送の普及が進まないのは鳥に襲われるから」とする言説が拡散されていることをはじめて知りました。当該記事によると発端はTwitterで主に面白動画を紹介しているヒロクライム(@tannokasa4)というアカウントの2023年5月20日付tweetのようです。

このtweetで「ドローン配送がなかなか普及しない理由がこちら🤣🤣🤣」というテキストと共に、ドローン(クワッドコプター)を捕まえる鷲の動画がポストされています。(「quad」のカタカナ表記は「クアッド」が一般的ですが、航空業界では「クワッド」と表記される傾向にあるのでここでは「クワッド」表記を用います。)

当該tweetにおいて違法または悪意のあるドローンをインターセプトするために訓練されたオランダGuard From Above社のカウンタードローン鷲(C-UAS Bird of Prey solution)の動画を使用した点は確かにミスチョイスであり、少々ミスリードを誘ってしまった印象は否めません。(オランダ警察に協力してカウンタードローン鷲を提供していたのがGuard From Above社です。)

しかしまた、ドローン、取り分けこのクラス(sUAV)のマルチローター(マルチコプター)ドローンが鳥の襲撃に脆弱なのもひとつの事実です。

「空の宅配便」に暗雲報道

日本ファクトチェックセンター(JFC)による今回の検証で気になるのは、問題のtweetが読売新聞2022年9月15日付記事『鳥が襲撃 ドローン被害…墜落事故も 「空の宅配便」に暗雲』をソースとして投稿された可能性が検証されていないことです。

この読売新聞記事の内容がミスリードであることはtweetで指摘しましたが、一般の方が私のtweetなど見るはずもなく、普通の人が日本の五大紙にも数えられる読売新聞の当該記事を鵜呑みにしてしまっていても一概には責められないと思われます。

それに、デリバリードローン(配送用ドローン)は実際に鳥に襲われます。私が読売新聞の当該記事をミスリードと言ったのは既にドローンメーカーもドローンデリバリーサービス事業者もドローンに対する鳥の脅威を予め想定しているからです。

鳥による影響を想定していない!?

ところが、今回の日本ファクトチェックセンター(JFC)による検証記事では日本郵便が計画や実験の過程で鳥による影響を検討したことがあるのかについては「検討していません」と回答したとあります。

鳥がドローンを襲うことを想定したり、対策を講じたりしたことがあるかについて、日本郵便は「実証を行ってきた物流用途の機体は鳥類よりも大きく、飛行音もあるため動物の方が避けていきます」と回答した。また、計画や実験の過程で鳥による影響を検討したことがあるのかについては「検討していません」とのことだった。

『日本ファクトチェックセンター』「(動画)ドローン配送の普及が進まないのは鳥に襲われるから」は誤り。動画は警察による犯罪対策の訓練【ファクトチェック】

ドローン事業者として「鳥による影響を想定していない」のは有り得ないことでなので信じ難く、何かの手違いか、協力会社が担っている部分で知らないだけなのか定かではありませんが、今回の日本ファクトチェックセンター(JFC)による検証記事の特筆すべき違和感となっています。

また、「実証を行ってきた物流用途の機体は鳥類よりも大きく、飛行音もあるため動物の方が避けていきます」とのことですが、それで鳥の影響を回避できるならそもそも旅客機のバードストライク対策は必要ないということになります。鳥よりはるかに大きく、騒音も大きい旅客機でさえ鳥の影響を受けているのです。さらに、日本郵便が使用するACSL社製のマルチローター(マルチコプター)ドローン「PF2-CAT3」は外形寸法1174×1068×601mmなので、鷲の翼開張よりドローン機体の方が小さいのが事実です。

カラスに襲撃される配送用ドローン

この動画はオーストラリアのキャンベラでデリバリードローン(配送用ドローン)がカラスに襲撃されている模様が撮影されたものです。再三ですが、デリバリードローンは実際に鳥に襲われます。この動画はドローン業界関係者の間では誰知らぬ者とてない有名なものです。

デリバリーの途中でカラスに襲われているこのデリバリードローンはオンデマンド商用ドローンデリバリーサービスにおいて世界をリードするAlphabet(Google)傘下Wing Aviation社(以下、Wing社と表記)のもので、襲撃された後も墜落せずコーヒーの配達を完了させています。(Wing社によるオーストラリアでのドローンデリバリーサービス開始は2019年です。日本の大好きな実証実験ではありません。実際にサービスインしている中での出来事です。)

Wing社のデリバリードローンは同社独自開発のVTOL固定翼ドローンなので墜落しませんでしたが(ホバープロペラだけでも12基搭載)、これがもし日本のドローンデリバリー実証実験などで主に使用されているマルチローター(マルチコプター)ドローンだったら機体制御不能で墜落(パラシュート落下)していたかもしれないインシデントです。

因みに、『GetNavi web』の記事「グーグル親会社、ダラスにて商用ドローン配達をスタートへ」に《アルファベットによるドローン配達では、4つのローターを本体に備えたドローンの一種の「クアッドコプター」を利用》とありますが、実際はホバープロペラだけでも12基搭載したVTOL固定翼ドローンなので間違っています。『GetNavi web』に問い合わせても運営会社に問い合わせてもライターにメンションしてもノーレスポンスでしたので(日本のメディアあるある)、この場を借りて改めて指摘しておきたいと思います。

鳥の影響でサービス中断

上述のカラスによるデリバリードローンの襲撃を受けて、墜落などの事故にはなっていないもののWing社は大事を取ってネスティングシーズンにおけるキャンベラ郊外ハリソン約30ヘクタールでのドローンデリバリーサービスを中断させました。

このことから明白なようにドローンデリバリー(ドローン配送)にとって「ドローンが鳥に襲われる」こと、つまり鳥の影響がないとは言えません。

動物保護団体などの反対

また、ドローンと鳥類の軋轢から先にあげた『ABC News』2021年9月22日付記事「'Territorial' ravens disrupt surge in Wing drone deliveries under Canberra's lockdown」にもあるように、鳥類学者や野生動物保護団体などはドローンが鳥類の生態系を脅かしているとして、生態系保全を理由にドローンデリバリーに反対しています。このことが「ドローン配送の普及」に多少なりとも影響を与えているのも事実です。

従って、「ドローン配送の普及が進まないのは鳥に襲われるから」は主たる要因ではないけれども、全くの見当違いという訳でもないのです。

主要因は規制

もちろん、ドローンデリバリーの普及が思ったように進んでいないとしたら、Wing社のCEOが米下院運輸インフラ整備委員会の航空小委員会で述べているように、その主要因は規制です。

ただ、Amazon社「Prime Air」のように問題の多いドローンデリバリーシステムも存在するため、安全のために規制が重要なことも事実です。故に、柔軟な適応型規制が求められています。

日本ではプライバシーや騒音、配送コストがドローンデリバリーのネックになっているという言説も見受けられます。しかし、バージニア工科大学とVirginia Tech Mid-Atlantic Aviation Partnership(MAAP)が共同で実施した実際にドローンデリバリーサービスが開始されている地域住民への調査では、騒音が気になると回答した人の割合は17%であり、プライバシーに関してはそれ以下とさほど問題となっていません。

また、Wing社に代表されるようにドローンデリバリープラットフォームの自動化・省人化が進んでおり、配送コストは一般的な陸上輸送手段に比べて低コストかつ温室効果ガス排出量も少なくなっています。(ただ、日本のドローンデリバリーサービス事業者のプラットフォームは自動化・省人化が進んでいないように見受けられます)。

日本特有の要因をあげるとしたら、「ドローンにはパイロット(操縦者)が必要」という誤った思い込みの存在です。これもWing社のドローンデリバリープラットフォームを見れば一目瞭然ですが、パイロットとは名ばかりでオペレーターが行っていることはモニタリングであり、ドローンを操作するとしてもキーボードとマウスで指示を出すだけです。もちろん、規制との兼ね合いになりますが、当時のシステム上は1人のオペレーターで最大15機のデリバリードローンを同時に運航管理できます。

ドローンと鳥の共存共栄は課題

以上のように、「ドローン配送の普及が進まないのは鳥に襲われるから」は主要因ではありませんが、ドローンデリバリー事業に多少なりとも影響を及ぼしており、全くの「誤り」という訳でもないのが実際のところだと考えられます。

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