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ビジネス書しか読まない人が、アナロジーが苦手な理由

■アナロジーとは、類推すること


タイトルのアナロジーとは、類推することです。wikipediaによると、下記のように解説されています。


類推(るいすい)または類比(るいひ)、アナロジー(analogy)とは、特定の事物に基づく情報を、他の特定の事物へ、それらの間の何らかの類似に基づいて適用する認知過程である。

wikipedia

難しく感じますが、要するに観たり聞いたりしたことからヒントを得て、別の物事にその情報を適用するということです。

アナロジーは推理小説や漫画においてよく登場します。
例えば、ぬかるんだ公園の中央で死体がある。死体の周りには、死体に向かう足跡がついているが、死体から遠ざかる足跡がない、いったい犯人はどうやって足跡を残さずにその場から去ったのか。探偵が、空を飛ぶ鳥を見てヒントを得て、パラグライダーで周りのビルから死体を背負って飛び、靴を履いて現場から後ろ向きに遠ざかったというトリックを明らかにする、などです。
この場合は、空を飛ぶ鳥から、パラグライダーで死体を運ぶというトリックを類推しています。

■アイデアの発想やビジネスに役立つ

アナロジーは、アイデアの発想など、ビジネスに役立ちます。
例えば低価格を売りにしていたサウスウエスト航空は、着陸から次の出発までを10分で行う10分ターンというフローを生み出します。この10分ターンのヒントになったのが、カーレースにおいて、素早く給油やタイヤ交換などのピット作業を行うピットクルーの動きだったと言います。
このように、アナロジーは、異業種や対象物とは異なるカテゴリからヒントを得ることが多いのです。

■アナロジーを用いてアイデアを発想するステップ

アナロジーを用いてアイデアを生み出すプロセスを具体的なステップにすると、

1. 対象物を観察する(フォーカス)

2. 対象物の状態・行動を抽象化する(フェードアウト)

3. 抽象化した事象を転用する(フォーカス)

という3ステップになります。

また、アナロジーにはこのような文脈的なアナロジーとともに、視覚的なアナロジーもあります。
マッキントッシュのディスプレイを開発する際に、スティーブ・ジョブズ氏の家に植えられていたひまわりがモチーフになったというエピソードがあります。ひまわりの確度や傾きなどを抽象化し、それをディスプレイのデザインに転用しているのです。

また、アナロジーは自社の事業領域の拡大にも役立ちます。富士フイルムは化粧品アスタリフトで化粧品市場を開拓しましたが、これは写真現像に用いられる技術を抽象化して転用すると、下記のように化粧品にも適用出来るからです。

1.対象物を観察する(フォーカス)
→約20マイクロメートルという薄さ&コラーゲンが主成分の写真フイルムへの現像技術

2.対象物の状態・行動を抽象化する(フェードアウト・抽象化)
→ものすごく薄いコラーゲンが主成分の層に、有効成分を届け劣化を防ぐ

3.抽象化した事象を転用する(フォーカス)
→肌の角層に有効成分を届けて、肌の酸化を防ぐ

https://www.cosme.net/beautist/article/2443124

■アナロジーが分かると、世界が広がる


また、アナロジーが分かると、物の見方に広がりが出てくるようになります。漫画「美味しんぼ」は、食べ物からヒントを得て、現実のトラブルという解決するという、食べ物を通したアナロジーが満載です。

東西新聞社に入社した社員が、どんな食材や料理を見ても、感動しないという無気力な状態に陥っていました。クレープが好きだというその社員に、山岡さんは上海風クレープだといって料理をふるまいます。正確にはそれはクレープではないけれども、初めてその料理を食べたときに、これは上海風のクレープなんだと解釈した。そのように世界の見方を変えれば、世界は面白くなるというのです。

このように、アナロジーは世界の見方を変えて、広がりを与えてくれるのです。

■ビジネス書しか読まない人には、アナロジーが通じない?

そして、ややタイトルが釣りっぽいのですが、本題のビジネス書しか読まない人には、アナロジーが通じづらいような気がする、という話題です。

自身は、比較的アナロジーが得意な方だという自覚があります。文脈的、視覚的な相似形が探すのが割合容易です。
しかし、他者にそれを伝えようとすると、体感で3割くらいの人にしか伝わらない、という肌感覚があります。Aに対してBの相似形を転用するとA’になるという結論のみを伝えて理解してくれるのは1~2割、その思考の過程や相似形のポイントを詳細に話して理解してくれるのは3割前後という肌感覚です。

そして、多数のビジネス書を読み込んでいて、知識や情報を備えている人に対して、アナロジーが通じづらいと感じる局面がけっこうあります。
なぜビジネス書を多数読み込んでいて知識レベルは高いのにも関わらず、アナロジーが通じづらいのか。完全に仮設になりますが、ビジネス書や教科書の類は、思考の進みが一方通行だからではないかと思っています。

ビジネス書は、概ね次のような構成になっています。前段の説明から、主文の説明、主文を裏付けする事実、主文を達成するためのハウツーという構成です。説明の進みは一方通行で常に著者や本の主張を追う形になっています。教科書や参考書も同じくでしょう。

一方、先ほどの説明の通り、アナロジーは思考の流れが一方通行ではありません。まずは対象物にフォーカスし、そこから抽象度を上げて一度フェードアウトし、別の事象にフォーカスして転用するというアクロバティックな思考の流れをたどります。フォーカスしたポイントをずらして、抽象化させるという作業が必要になってくるのです。
一方通行の情報のみを取り入れていると、このアナロジーの思考の流れを追う訓練が積みづらいような気がしています。

■アナロジーを養うには、物語を読む

そして、これも持論になりますが、アナロジーを養うにはビジネス書ではなくて物語を読むのが良いのではないかと思います。

物語には多数の登場人物が登場して、その人物にフォーカスしてフェードアウトして別の人物にフォーカスするという、フォーカスとフェードアウトを繰り返すことになります。作家の村上春樹さんが「物語を体験するというのは、他人の靴に足を入れること」であると言っていましたが、物語を読むのは色々な視座を持ったキャラクターにフォーカスする練習になります。

また、同じ物語を繰り返し何度も読むというのが、有効なのではないでしょうか。フォーカスとフェードアウトのパターンを繰り返すことで、そのサイクルのスピードが上がってくるからです。

個人的には、日本の小説は主観で筋を追うタイプのものが多い気がしているので、登場人物の多い海外の現代小説か古典を読むのが良いと思います。

特にドフトエフスキーやトルストイなどのロシア文学においては、登場人物の量自体が異常に多くなっています。そして、ドフトエフスキーの代表作である「カラマーゾフの兄弟」は、登場人物の多さもさることながら、殺人ミステリーであり、家族の物語であり、宗教小説であり、物語それ自体が多面的に描かれているため、物語のどの側面にフォーカスするかというのも、読むたびに異なってくるでしょう。
つまり、人物へのフォーカスとフェードアウトを繰り返すとともに、物語のどの側面に注力するかというフォーカスとフェードアウトの練習にもなります。

このように、物語を通じたフォーカスとフェードアウトの体験を積むことで、よりアナロジーを習得しやすくなるのではないでしょうか。


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