UIUXを追求しすぎると危険な理由
2010年代後半以降、UIUXが大事だという共通理解が形成された結果、UIUXに特化した企業も生まれ、UIデザイナーの需要も高まっています。
UIUXのコンサルや設計について、数百万以上の予算を投下することも珍しくありません。
前提として、UIUXの完成度を挙げることは重要ですが、場合によっては追い求めすぎない方が良いケースもあります。そのケースについて、解説していきたいと思います。
ちなみに「マーケティング」という単語と同じく、「UIUX」の定義も広く、人によって解釈が異なるので、ここにおけるUIUXは、プロダクトのユーザー体験を向上させるためのサイトやアプリでのUI最適化と定義します。
■ケース1:商品の提供価値と、UIUXの重なりが少ない場合
戦略とは、資源の最適化であると言われていますが、カネ・ヒト・モノのリソースは限られています。どこにどのリソースを当てて、成長スピードを上げるかというのが、戦略になってくるわけです。
プロダクト立ち上げ初期においては、特にリソースが限られるので、このトリガーをひけば確実にプロダクトが成長するというKFSを見つけて、そこに資源を集中投資する必要があります。
このとき、プロダクトのKFSがUIUXの最適化ではないことがあるのです。
例えば、日本の酒蔵から、本来地域限定でしか買えない秘蔵の日本酒を購入出来るECサイトを作るとします。このときのKFSは、プレミアがついた秘蔵の日本酒を確保することになります。
ECサイトのKFSは、購買者に需要にある商品を潤沢に揃えることだからです。ですから、UIUXがプロダクトを成功させるためのKFSにはなっていないわけです。
極端な例を出すと、プレミアがついた日本酒が購入出来る、ものすごい使いにくいサイトと、特に商品に特色のない日本酒が購入出来る、ものすごい使いやすいサイトがあったら、日本酒好きは前者のサイトを使うでしょう。
もちろん、プレミアがついた日本酒が購入出来て、ものすごい使いやすいサイト、というのが最適解ではありますが、リソースが限られているのであれば、KFSに直結する方に資源を集中するべきです。
予算が限られているのであれば、UIUXのコンサルに資源を投下するよりは、商品の確保に予算を投下した方がグロースの効率が良いことになります。
ECの他には、ストリーミングサービスもそうで、観たい作品が見られる使いにくいストリーミングサービスの方が、観たい作品は見られないが使いやすいストリーミングサービスよりもグロースが早いでしょう。
UIUXがKFSとイコールになっていないというのは、すなわち商品の提供価値とUIUXの重なりが少ないということです。
このように、商品の提供価値とUIUXの重なりが少なく、かつ資源が限られる場合は、KFSに直結した商品やコンテンツの仕入れなりの方にリソースをふるべきです。
■ケース2:初期のMVPで完成されたUIUXを提供するリスク
2点目のケースが、初期のMVP(Minimum Viable Product)でUIUXを追及しすぎるケースです。MVPをリリースしてから、最適なUXは変化する可能性が高いので、ここで100点の完成度を目指したとしてもゼロベースに帰る可能性があります。
先ほどの希少な日本酒を販売するサイトをリリースしたとします。その後、実際にユーザーが購入をしだしたら、定期宅配してくれるサブスク型の需要が高かったことが分かったとします。そうなると、サイト全体をサブスクモデルに作り替えることになります。もし、初期に標準的なECとしての導線を作りこんでいた場合は、その期間が無駄になってしまうのです。
MVPは、ユーザーのニーズを確認するための最小限のプロダクトですから、KFSに直結した必要最低限の要素を備えたプロダクトをスピード感を持って提供することが重要になってきます。ここで時間をかけてUIUXを突き詰めたとしても、リリース直後の反応次第でゼロ地点に戻ったり、ピボットすることがよくあるのです。
MVPなのにUIUXを追及しがちになるケースとして、対象の顧客セグメントを想定し切れていない場合があります。その場合、万人に使いやすいインターフェースを目指そうとして、要素を盛り込みすぎてしまうのです。
MVPはそもそも需要仮説を確かめるためのテストの意味合いが大きいので、顧客セグメントにおける仮説を持った上で、その対象セグメントの需要を確かめる最小限のUXを構築出来ていれば良いのだと思います。
初期のFacebookにおいても、対象顧客はほぼ大学生に絞られており、プロフィールを登録するだけの簡易なものでした。MVPで需要を確かめてから顧客セグメントについての解像度を上げて、そのセグメントに即したUXを追及した方が、成長スピードは早くなるでしょう。
■UIUXを突き詰める必要があるケース1:UIUXと商品の提供価値が重なっている
このように、ECやコンテンツ提供モデルなどUIUXがKFSにならない場合や、需要を確かめるためのMVPにおいては、UIUXにリソースをかけすぎることがマイナスになるケースがあります。
一方で、UIUXを突き詰める必要がある場合があります。それは、KFSとUIUXがイコールになっている=商品の提供価値とUIUXが重なっている場合です。
例えば、Twitterやインスタグラムなどの各種SNSは、ユーザーが投稿し、そこに反応がありインタラクションが生まれるという、プロダクト上で提供価値が完結したサービスになっています。SNSというプロダクトにおいては、UIUXを追及することで、ユーザーの投稿数を増やす、ユーザー間のエンゲージメントを高める、というKFSを底上げすることに直結します。商品の提供価値とUIUXが完全に重なっているのです。
同じく、ゲームコンテンツも、ゲーム内でのユーザー体験がすなわち提供価値ですし、業務系のSaaSサービスもいかに社内申請フローをシンプルに簡略化したものを提供するかという提供価値なので、UIUXが重要です。
これらのサービスは、商品の提供価値とUIUXが完全に重なっているのです。
■UIUXを突き詰める必要があるケース2:成熟期にあるマス向けプロダクト
また、成熟して安定的に収益を上げているマス向けのプロダクトについても、UIUXを追及するべきです。
安定的に収益を上げているので、すでに資源が潤沢にある状態であるという点と、マス向けであれば、UIUXのこだわりが数値になって跳ね返ってくるからです。例えば、トップページに月間1000万UUの訪問者があるとしたら、リンクボタンの色を変えることで、クリック率が1%から1.1%と微増したとしても実数としては1万増えるので、インパクトが大きいのです。
■なぜUIUXが持ち上げられるのか
結論としては、プロダクトのステージと状態ごとにKFSを見極めて、KFSを底上げすることに資源をふるべきだと思います。また、需要を確かめるためのMVPをリリースするのであれば、UXの最大化は検証に必要な顧客層に絞ったUXを提供し、スピードを優先した方が良いでしょう。
一方、提供価値とUIUXが重なる場合は、UIUXの向上がすなわちKFSに直結するのでそこにリソースを投入すべきです。
ちなみに、UIUXの需要が高いのは「コレをやれば伸びるのではないか」という分かりやすいアイコンになっている側面があるような気がします。
過去にもクラウドなりWeb2.0なり、一定のバズワードが生まれるたびに、コレをやると伸びると需要が高まるタームがありました。
プロダクトにおいて、UIUXが良いに越したことはないのですが、リソースが限られている場合は、個別プロダクトごとにKFSに直結しているかを見直すのが良いように思います。