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UXを設計する前に、まず最初にやるべきこと

■人によって異なる“UX”の意味


UXを設計する前に、大前提としてまず最初にやるべきことがあります。それは、UXの粒度を定義することです。

前に書いた記事でも少し触れたのですが、UIUXという言葉の定義が広すぎて、人によって想定しているUXの定義がブレており、揃っていないことがよくあります。

UXを設計するにあたっては、どのステージにおけるUXを設計するのかという粒度を揃えて、共通認識をまず最初に揃えることが大切です。

■UXのステージは大きく分けて3つ

UXのステージは、大きく分けて以下の3つになります。

UXは3つの入れ子構造になっている

■一番上位のUX(=包括的UX)

まず、一番上位のUX(=仮に包括的UXと呼称します)は「想定顧客の需要発生期からアクション完了までのUX」です。これは、想定顧客の需要がいつのタイミングで発生し、その需要を満たすための選択肢をどのように検討・比較し、そしてアクションを完了したか、という一連のUXを指します。

例えば、住宅購入者を想定顧客とした何らかの事業を検討しているとします。この想定顧客における包括的UXは、下記を時系列で整理したものになります。

▼時系列でアクションを整理
・住宅購入の需要発生時期とそのトリガー
・需要発生から購入までにいたるアクション
・住宅の比較検討や重視したポイント
・住宅の購入の決め手になった要素と経緯
・住宅購入の購入方法

かつ、上記の各アクションステップにおいて、情報収集に用いたツール等のタッチポイントや、購入チャネルを合わせて整理していきます。

このUXの設計に用いられるのは、カスタマージャーニーマップです。実際に戸建て住宅を購入したことのある想定顧客に該当するユーザーインタビューを行い、上記のアクション、タッチポイント、チャネルをカスタマージャーニーマップに整理していきます。
複数人の想定顧客にインタビューをしていると、顧客の属性に合わせて、アクション、タッチポイント、チャネルの類型化を行うことが出来ます。

インタビューを経てジャーニーマップが完成し、顧客を類型化すると、現在の想定顧客への解像度が高まり、アクションパターンが把握出来ます。
この類型化されたカスタマージャーニーマップが、顧客が現在体験しているUXになります。このジャーニーマップを元に、現状のUXで改善・刷新出来る点がないかの検討に用います。これが、一番上位のUX=包括的UXです。

例えば、住宅購入者が本当は建築物件が欲しかったが、大半が予算の関係で戸建て購入に流れている事実が分かったとします。であれば、建築物件を安く提供する何らかのサービスを検討する、などです。

カスタマージャーニーマップの例

引用:https://gmotech.jp/semlabo/webmarketing/blog/customer-journey-map/

■中位のUX(=プロダクトのUX)

一番上位のUX(=包括的UX)の中に内包されるのが、中位のUX(=プロダクトのUX)です。中位のUX(=プロダクトのUX)は「自社プロダクトへのチャネル設計及び、着地後のユーザー体験」を整理します。

上位のUX(=包括的UX)において、住宅購入者についてのカスタマージャーニーマップが出来ました。
検討の結果、戸建ての住宅購入者とデベロッパーを繋ぐマッチングサイトを運営することにしたとします。

戸建ての住宅購入者の中でも、子どもの小学校入学までにファミリータイプの住宅を検討する世帯がマジョリティであることが分かりました。
中位のUX(=プロダクトのUX)では、この対象顧客に対するタッチポイントの設計と、自社プロダクト内でのサービス設計を行います。

例えば、タッチポイントにおいて、想定顧客は住宅購入のゴール地点を子どもの小学校入学前に定めていることが分かったとします。その2、3年前から徐々に情報収集を初めており、情報収集から購入までの期間が長いことが分かりました。
となると、自社と顧客のタッチポイントは、その時点で持っておくことが望ましくなります。ファミリー世帯に向けた住宅情報のオウンドメディアを立ち上げ、購入タイミングになるまで、メルマガなどのタッチポイントを持ち続けることなどが想定されます。

また、カスタマージャーニーマップにおいて、想定顧客は初めから建築物件か建売りかを決めているわけではなく、費用や性能面で両者を比較をしていることが分かったとします。
そうなると、自社プロダクトでは建売住宅と建築住宅の比較が行え、建築物件を選んだ際の建築業者とのマッチングの機能を入れるか、あるいは提携するか等の検討を行うことが出来ます。

中位のUX(=プロダクトのUX)の設計は、タッチポイント、チャネルの設計とともにプロダクト内でどういう体験をさせるかという設計=必要な機能要件の列挙に繋がります。

この中位のUX(=プロダクトのUX)で用いるツールも、ユーザーインタビューを通して作成したカスタマージャーニーマップです。
しかし、このタームにおいては、プロダクト内におけるアクションにフォーカスしたUXの設計を行います。
一番上位のUX(=包括的UX)では解像度が薄い可能性があるため、再度プロダクト内でのアクションにフォーカスして解像度の高いカスタマージャーニーマップを作成する必要があるかを検討します。

ユーザーインタビューよりもさらに解像度を上げるのであれば、対象のデモグラフィックにマッチする顧客に対して「好みの住宅を見つける」というテーマを与えて、ユーザーの行動を観察する調査も合わせて行います。

■下位のUX(=プロダクトのUI)


一番下位に属するのが、下位のUX(=プロダクトのUI)になります。プロダクト内に着地した顧客に対して「ユーザー体験を実現するためのUIを提供」します。

例えば、顧客は最終的に平均3~4つの最終候補を残して検討を行う、という行動導線が可視化されている場合は、お気に入りに入れた候補を比較検討するためのUIを実現する、などです。

このステップでは、どこにどのようなボタンや情報を配置するか、モーダルか画面遷移か、絞り込みかand検索かなど、細かいUIの話になっていきます。

ここで使うツールは、前のステップと同じく顧客に対して課題を与えてユーザーの行動観察をする調査が有効になります。

また、既に自社のプロダクトが存在する場合は、会員登録、物件の検索、最終候補絞り込みからの申し込み、などの細かいゴールを設定した上で、ユーザービリティテストを行います。与えられたゴールに対して、ユーザーがどこでつまづくか等を観察します。

■UXの粒度を定義しないと、何が起こるか

このように、UXは次の3つの入れ子構造となっています。

一番上位のUX(=包括的UX)「想定顧客の需要発生期からアクション完了までのUX」
中位のUX(=プロダクトのUX)「自社のプロダクトに着地させるためのチャネル設計及び、着地させた後のユーザーアクション」
下位のUX(=プロダクトのUI)「UXを実現するためのUIを提供」

このUXの粒度を定義して、上位から話を詰めないと、たいてい想定顧客の導線を無視した状態で下位のUX(=プロダクトのUI)の話から入ってしまい、顧客の実態としてのアクションとサービスが提供するUXがかみ合わない状態が起こります。

例えば、よくあるのが「住宅購入者のためにアプリを作りたい」など、下位のUX(=プロダクトのUI)において、どういうツールを提供するかという手段から入ってしまうパターンです。
一番上位のUX(=包括的UX)から設計した場合、タッチポイントとなっているのは検索=Webであることが分かるので、まず最初に取り組むべきはWebの導線とプロダクトであることが分かります。

しかし、上位からきちんとUXを詰めていかないと、とりあえずアプリを作ろう、ウェブサイトを作ろう、と顧客の行動導線を無視してツールやUIの話に入りがちなのです。

■下位のUX(=プロダクトのUI)の話になりがちな理由


ちなみに、だいたいUIUXの話をするとき、だいたいの人の頭に浮かぶのが下位のUX(=プロダクトのUI)です。
過去にいた職場において、UIUXのコンサル企業さんに依頼をしたことがありましたが、やはりこの下位のUX(=プロダクトのUI)についてのコンサルだった記憶があります。

UXの話をするときに、ここに帰結してしまうのは、一番分かりやすくて簡単だからです。ボタンの位置を修正する、トグルスイッチを絞り込みに変えるなどUIの改修は、提案内容が分かりやすいし、実施も容易だからです。

ですので、やりやすい、話しやすい方向に流れてしまい、どうしても下位のUX(=プロダクトのUI)の話に終始しがちになります。

しかし、工程でいうと下位のUX(=プロダクトのUI)の話は下流なので、もちろんこの部分の完成度を高めることも重要ですが、前提として上位のUX(=包括的UX)と中位のUX(=プロダクトのUX)がきちんと設計できていることが必要になります。

また、上位のUX(=包括的UX)や中位のUX(=プロダクトのUX)はユーザーインタビューやカスタマージャーニーマップの作成、それを抽象化して顧客を類型化して行動パターンを抽出するなど、設計の難易度が上がるため、どうしてもそちらに話題が向かいづらくなります。

UXの取り組む際は、まずどのステップから設計をする必要があるのか、その定義を合わせることが重要です。


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