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【口が裂けても言いたい話】「顔のない悪魔」

ネットフリックスオリジナルドキュメンタリー「キラー・ナース」を鑑賞。アメリカで実際に発生した看護師による患者の連続殺人事件の顛末を当時の映像や証言、ドラマ部分をまじえつつ、リアルに追いかけていく。

アメリカの民間病院で入院患者の点滴に毒物を混入し次々と殺害した悪魔……その名は、チャールズ・カレン。彼は15年余りのキャリアの中で400名以上の患者を死に至らせ、いくつもの医療機関を転々としてきた。その間も淡々と犯行は繰り返されてきたが、15年以上の時間が行き過ぎるまで、その凶行が多くの人の目に触れることはなかった。

本作はカレンという人物をよく知る証言者、エイミーの視点を中心として語りが進められていく。彼女はカレンが最後に勤務した病院でペアを組んでいた救急科のナースであり、本作に先がけて配信された映画「グッド・ナース」でも主要人物として登場する。


ドキュメンタリー作品となった本作では映画では描かれなかったカレン自身の犯行の動機が丁寧に掘り下げられる。


トータルで400名以上の命を淡々と奪った彼の犯行動機は、至って利己的だ。

「苦しむ患者を救いたかった」

一見もっともらしく思える動機は単なる仮面にすぎず、その奥からは無意味な殺人をただただ楽しむ、冷酷な悪魔の顔がのぞく。回復傾向にある患者からことごとく狙っていたことを考えても、彼の穏やかさがいかに偽善的で、表面的なものであったかがわかる。

関係者による数々の証言は一方で、アメリカの医療業界が抱える慢性的な病理を暴き出す。その闇を誰よりも鋭利に突き付けたのは皮肉にも、カレン本人だ。

彼の挙動に強い疑いを持っていたにもかかわらず、勤務先の病院はその凶行を追及しようとはせず、悲劇をただただ黙認し、最後には消極的な厄介払いをすることしかできなかった。もしも、最初の勤務先のスタッフが誰かひとりでも医療従事者としての良心に忠実であったなら、400名の命を奪う殺人鬼は生まれなかっただろう。

カレンの罪は重い。しかしそれ以上に、チャールズ・カレンという稀代の殺人鬼を生み出し、野放しにしてしまった医療業界の罪もまた、とてつもなく重いのである。

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