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映画「キッチン・ストーリー」の指輪 〈映画の指輪のつくり方〉第32回

心を通わせたい
2003年「キッチン・ストーリー(SALMER FRA KJOKKENET)」
文・みねこ美根(2019年12月16日連載公開)

12月。すべてが早く過ぎていく。ここ数日は大掃除をしている。本棚をひっくり返し、高校のときの教科書や、成績表(後世に残したいほど良い成績)、文化祭の演劇の台本や、中学生の時の修学旅行のノート、卒業アルバムを見返し、模様替えにも手を出し、そんな中曲をつくりたくなって魔窟と化した部屋で譜面を書き、一日が終わる…というのを何度も繰り返している。過去、5年分ほどのスケジュール帳を保存しており、ちょうど何年前の今、何をしていたかを見ていると日が暮れる。そして、横向きにしている棚を縦に立てたいのだが、そうすると絶対に床が抜けるので、どう重さを分散させるか考え中。助けてくれ~。そういえば去年も助けを求めていたな(卒論がぎりぎりだった)。頭の中で絡まった糸がなかなかほぐれないときは、人に会いたくなる。

ということで今回は「キッチン・ストーリー」という北欧映画。滑稽で奥ゆかしい出会いと友情を描いている。クリスマス前、1950年代のノルウェーが舞台。スウェーデンのある研究所が、独身男性の台所での行動パターンの調査のためノルウェーの独身男性宅に一人ずつ調査員を送る、というところから話が始まる。調査協力する被験者と調査員は決して会話をしてはならず、調査員は台所にのみ入って良し、2か月ほど続く調査の間、生活はトレーラー、調査の際はキッチンを見下ろす足の長い椅子に座る、というのがルール。調査員フォルケは、老イザックの担当となる。

調査協力に応募したことを後悔しフォルケをあからさまに疎ましく思うイザックと、そんなイザックの調査に躍起になるフォルケの静かな攻防戦、なんとなく影響し合う二人が可笑しい。チョコレートを食べるイザックを見てこっそりチョコレートをまとめ買いしトレーラーで食べまくるフォルケ、観察するフォルケを上階の床にあけた穴から観察し返しキッチンで料理をしないイザック。だが探し物のありかを教えたり、お礼を言ったり…と日々を過ごすうちにコミュニケーションをとるようになり芽生えていく友情。とにかく静かな映画なのだが、おじさんとおじいさんのやりとりとテンポがよくて可愛くて、今も書きながら思い出し笑いをする。そして家具やキッチン用品がとにかく可愛い!トキメキ!

ちなみにこの“台所行動パターン調査”は実際にあったらしい。ベント・ハーメル監督が偶然見つけた資料がその調査結果だったとのこと、それをもとに書いた作品らしい。また、監督のインタビューによると、ノルウェー人とスウェーデン人が本作を見ると、ご当地ネタというかそれぞれの国民性がキャラクターによく出ているらしく、ウケるとのこと。それを聞いて「翔んで埼玉」を思い出した。あれ面白かったな。この作品とは全然違うんだけど、くだらない小競り合いみたいなこういう映画がカンヌとかに行けばいいのに、って本気で思ったりした。どこも似てるのかね。

さて、本作の物語は、友情が芽生えつつも、調査的にはルールを破ってしまったフォルケ、さてどうなってしまうのか…といった方向に進んでいく。最後はぐっとこみ上げる涙。
ただ、注意して欲しいのはDVDパッケージ。真ん中で写っている男性二人。関係ない人です。めっちゃ脇役。…びっくりするわ!どういうこと?デザインした人に聞きたい。

今回このキッチンを指輪に乗せたくてモチーフがはちゃめちゃに小さくなってしまってます。手元ばっかり見て、よーし!やっとやっとできた!と顔を見上げると、そこは魔窟。私の部屋。アアア!
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モチーフ:イザックのキッチン(フォルケの椅子、棚、コンロ、やかん、食器たち、etc…)、誕生日ケーキ、コーヒーカップ、チョコレート、パイプ、チーズ付ネズミ捕り、ダーラナホース
音楽:- Delta Rhythm Boys「Flickorna i småland」 オルゴールver. Cover

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