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映画「ロブスター」の指輪 〈映画の指輪のつくり方〉第4回

私は猛禽類が良いな
2015年公開映画「ロブスター」(The Lobster)の指輪
文・みねこ美根(2018年4月15日連載公開)

 年度初め、新しい季節、春。ワクワクする分、心労も重なり、落ち着かない時分でもある。そんな時は、狂った映画を見るのが良い。あなたが思い浮かべる狂った映画は何だろうか。
 私はこの春大学4年生になる。この時期は時間割を組んだり、新しく教科書を買ったりしなくてはいけない。年度初め、教科書売り場が大学敷地内に設置され、そこへ購入しに行く。レジ前の行列に並ぶと、あぁ新学期なのね、と思う。行列には入学したての1年生たちも並んでいるわけだが、新入生同士の会話がなかなか興味深く、一人耳を澄ます。よそよそしくぎこちない会話や、まるで幼馴染のようにきつい冗談を言い合っているのに会話の内容が「初めまして」感丸出しでお互いに傷をえぐり合うだけのやりとり、趣味や出身高校について話していたのにマウンティングが始まってしまい収拾がつかない会話…。なんて難しいのだろうか、会話。私も、入学当初の悩みは、会話が続かないことだった。今もしばしば悩まされる。どうやって話したら良いんだっけ? どうやって友達って作るんだっけ? そんな疑問が大学生にもなって湧いてくる切なさといったらない。

 新1年生の会話を聞きながら、老婆心ながら無理はするなよと、曲を作るそんな春。つらいときは、クレイジーな映画を見るのが一番だ。今回、指輪のモチーフにしたのはヨルゴス・ランディモス監督作品2015年「ロブスター」だ。好きな俳優が出ていたので、公開時、劇場に赴いたことを覚えている。

独身者はパートナーを見つけなければ、動物に変身させられてしまう…という世界。コリン・ファレル演じる独り身の主人公は、独身者が集められる施設に送られてしまう。追い詰められた人々は、なんとかパートナーを見つけようと必死に共通点を見出し、嘘をつき、試行錯誤する。狂った世界のルールに従順に生きる人々の滑稽さが可笑しくて、切ない。極端な設定ではあるが、それゆえに切実さや醜さが際立つ。観客である私たちが生きる世界の、何かのつまみをMAXまで振り切ったのが本作であり、我々の世界の延長線上に存在する世界だから、無責任にわはは!とは笑えない。

 ベン・ウィショー演じる「足の悪い男」が「鼻血を出す女」に近づくため、鼻を力任せにぶつけてわざと鼻血を出すシーンがある。他にも「共通点がなければ親しくなれない」と妄信する登場人物の姿がよく見られる。人間関係において「共通点」はどれほど重要なのだろう。「共通点」を見出すことに躍起になって、その人の素敵なところを見落としてしまわないようにしたいなア…。会話が苦手、友達作りが苦手なあなた、ここにもひとり、そのような人間おります。そして安心したついでに、私の曲を聞いてくれたら嬉しい。聞いてもらえるその日のため、お客様を増やすのだ。さあ、頑張ろう。(2018年4月15日連載更新)

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指輪:モチーフ…薄情な女の足、施設のワンピース、右足と裾につく○○の血
音楽…Sophia Loren & Tony Maroudas Sagapo(Ti einai afto pou to lene agapi)(オルゴールVer. cover)

オルタナティブ・シンガーソングライターの〝美根〟です。
作詞作曲をして、ギターとピアノの二刀流で唄い、自分の世界を届けています。
「みねこ美根」名義で活動していた2018年から、OKMusicさんにてweb連載を続けてきた「映画の指輪のつくり方」。
たくさんお世話になったOKMusicさんのサイト運営終了に伴い、noteに移行して連載を続けています。
毎月、大好きな映画から一つ選んで、それをテーマに指輪を制作。
勝手に皆様へお薦めするレビュー文章、制作作業動画を公開中。動画では劇中歌のカバーも。ぜひ、楽しんでいってください。
私の本業である音楽活動など、さまざまな情報は下記リンクからがとても良きです。

私を知るためのキーワードは・・・
オルタナティブ、ライブ活動、ランプ、弾き語りスタイル、バンドスタイル、耳と脳にこびりつく作品たち、心火、焔心の砦、美術館でも展示された指輪たち、自作ストップモーションアニメ、MV、毎週水曜生配信番組、2024年5月24日と6月9日のワンマンライブ、人生初の弾き語りツアー・・・
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