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優れた顧客体験で文化をアップデートし続ける京都の銭湯「鴨川湯」

こんにちは。mctの梅田です。
いよいよ梅雨に入り、猫っ毛で低気圧に弱い私はそこそこに絶望していますが、お風呂にゆっくり浸かるとすごくリラックスできるのでおすすめです。
今回の【勝手に分析!Good CX】は、京都の銭湯「鴨川湯」の素敵な体験についてご紹介します。


京都の近頃の銭湯文化

ここ数年で、京都の銭湯文化が再注目されていることはご存知ですか?銭湯はおじいちゃんおばあちゃんが使う伝統的なもののイメージの人が多いのではないでしょうか。実際のところ、利用者の数も年々減り、さらに若い人が利用しないために廃業に追い込まれる銭湯が増えています。そんな中、京都では現代のライフスタイルに合わせて進化した銭湯がアツくなっています。

私はそのうちの一つである「鴨川湯」に今年の1月ごろに初めて行きました。それまでは、興味はあってもなかなか行くことができずにいました。
(ずいぶん昔に、家のお風呂が使えなくて仕方なく銭湯に行くと、常連のおばあちゃんたちばかりで、すごく見られて何をするにも「見えない決まり」があるような感じがしたことをすごく覚えています笑)

鴨川湯の利用者目線の細かな体験設計

そんな鴨川湯にはじめて行ったときにいいなと思ったところをご紹介します。

ポイント1:手ぶらでも行けるためにアメニティが用意されている、SNSで事前に知らされている
いつも鴨川湯には行きたいけどどんな時に行けばいいのかわからずにいました。ある日すごく寒い日だったので温まって帰りたいと思っていたら、「近くに鴨川湯があるやん!」と思い出し、行くことを考えはじめました。しかしその日は銭湯に行くための準備を何もしていないことに気づき、不安になり調べてみると、鴨川湯のSNSに「アメニティを用意しているので手ぶらでも大丈夫」との情報が。これだけで安心し第一段階を乗り越えられた気持ちになりました。ちなみによく忘れるであろう湯船に髪の毛がつかないための髪ゴムも用意されていました、助かる...。

鴨川湯のSNS投稿(URL

ポイント2:番台さんが入ってすぐにいるのでなんでも聞ける
いざ着くと、想像していた通りの雰囲気が広がっていて楽しみになると同時に、入ってからどうしたらいいか分からないことへの不安を感じつつ入店しました。
入ってすぐ横に番台さんがいたので、すぐに利用方法を聞くことができました。手ぶらであることを伝えると、無料のアメニティもありつつもタオルは買ったほうがいいということを丁寧に教えてもらえました。ちなみに鴨川湯は改装前は脱衣所に番台さんがいたところを、もっとお客さんとコミュニケーションをとりやすくするために意図的に位置を入り口近くにしたそうです。素敵。

ロビー(引用

ポイント3:その場所での振る舞い方、場所や道具の使い方の説明が分かりやすく随所にある
必要なものも手にいれ、いざ脱衣所に行きます。しかし、ここが私にとって一番の試練どころでした。それなりに広い脱衣所という空間で、正解はないにしろ、どんな振る舞いが間違いになるのか分からない…。でも脱衣所なので人のことをジロジロみることもできず30秒ほど漠然としてしまいました。特に脱衣籠がどう使っていいか分かりません。すると、籠が並んでいる棚に「棚の前で着替えてしまうと混雑するので一旦籠を持って好きな場所で着替えてね」という旨の説明が書かれていました。ただそれだけのことですが、それによって服を脱ぎ着するだけではあるものの、その空間でみんなが不快にならないための振る舞いを知ることができて、安心しました。

注意書きの一部(引用

ポイント4:メディアを通して入浴中にお客さんとコミュニケーションを図る
やっと念願のお風呂に入れます。心地よい温度のお湯に浸かっていると、壁にはお風呂の注意書きやマナー、それだけではなく鴨川湯の手書きの新聞(浴室新聞)が掲示されていて、入浴しながら楽しく読むことができました。銭湯は入浴する時間が一番長いと思うのでその間に鴨川湯のことが知ることができ、一気に鴨川湯のキャラクターが伝わってきました。

同系列の銭湯「梅湯」の浴室新聞(URL

ポイント5:ビジョンを伝えるツールとしてのグッズ展開
お風呂から上がった後は、着替えて帰る準備を。入る時とは違い、堂々と篭を使って着替えました。帰ろうと思ってロビーに戻ると鴨川湯の銭湯グッズがたくさんあることに驚き。どれもとにかくかわいくて、でもかわいいだけではなく銭湯をなくさないという意思が伝わるグッズもありました。私も銭湯が続いて欲しいと思いタオルとステッカーとクッキーを購入しました。

鴨川湯のクッキー

そんなこんなで、ホクホクとした心地よさを感じながら、家に帰ることができました。イベントもしているので、今でもちょくちょく通っています。


利用者のための補助線がいい体験を生み、文化をアップデートする

鴨川湯は、利用者目線の不安をきちんとおさえる対応もしつつ、その上で利用者と関係性を築くようなアプローチまでしています。ここまでCXが非常にうまく設計できるその根底には、ビジョンである「銭湯を残す(ために、利用者を増やす)」が従業員全員に浸透しているからではないでしょうか。

また、鴨川湯の場合は、お客さんに一方的なサービスを提供しているのではなく、お客さんと双方向的に関わることができる仕組みをとっています。鴨川湯の従業員さんと、そこに集うお客さん、通りかかる人が常に双方向的に交わり合って場所をつくりあげているような雰囲気を感じました。

銭湯というものは昔からあるものだからこそ、どこか伝統的で文化的で何か暗黙の振る舞いがある気がします。悪いことではないのですが、新しい人がそこに参入していくためには、その文化に馴染むための補助線を引いてあげなければいけません。そうすることによって元々使っていた人も排除せず共存できるのだと感じました。だからこそ、鴨川湯のような場所は、多様な年齢層やライフスタイルを持つ人々が集う場所となり、銭湯は単なる日常の洗濯場所から、リラクゼーション、コミュニケーション、さらにはアートや文化の発信地へと進化しているように思います。ぜひ京都に来た際には銭湯に行ってみてくださいね。


※鴨川湯含むいろんな銭湯を運営されているゆとなみ社・代表の湊三次郎さんインタビュー記事

※鴨川湯のnote

(執筆者:デザインリサーチャー 梅田 郁美)


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