飯田正生(MCデータプラス代表取締役社長)―すべては「社会貢献」への想いから―
飯田正生(いいだ・まさお):株式会社MCデータプラス 取締役会長。一橋大学商学部卒業後、1996年三菱商事入社。経理、営業経験を積んだ後、三菱商事の子会社2社でそれぞれ執行役員、取締役を務め、経営企画、新規事業開発まで幅広く携わる。2018年9月よりMCデータプラス代表取締役社長に就任、2022年7月より同取締役会長。
仕事で「社会貢献」がしたい
――三菱商事に入社を決めた理由はなんですか?
広告代理店や金融系などいくつか内定をもらいましたが、タイミングやご縁があって、三菱商事に就職しました。
当時からぼんやりとですが、仕事をするなら「社会貢献」がしたい、と思っていて、その想いに一番合致したのが三菱商事だったように思います。
三菱商事には、「三綱領」という社訓があります。
「所期奉公」「処事光明」「立業貿易」の3つの訓諭から成るものですが、なかでも「所期奉公」は自分が考えていることに近いと思いますね。
所期奉公:事業を通じ、物心共に豊かな社会の実現に努力すると同時に、かけがえのない地球環境の維持にも貢献する。
バックオフィスを経験して学んだ、組織がもつ数字の意味
――1996年に三菱商事に入社。当初はどのような仕事をどんな気持ちでしていたのですか?
はじめは情報産業管理部に配属になりました。情報産業グループという通信・放送・コンピュータ等を取り扱う営業グループ内の管理部門です。入社後2年間は、ここでみっちり経理の修行を積みました。
当時は正直、会社はもちろん、事業も大きすぎて、「自分は何の役に立てるんだろう?」「少なくとも歯車の一つにはなりたいな」と思っていましたね。
後の仕事人生を考えると、この時の管理部門(バックオフィス)の仕事が非常にいい経験になっています。
会計や財務の知見を持てるようになったことはもちろんですが、組織がもつ数字の意味を理解できるようになりました。
例えば財務諸表です。この数字は、組織の活動の結果なんですね。何かをやった結果、積み上げの結果が数字で見えているわけです。
数字の成り立ちと言いますか、数字から見える組織活動を捉えることができるようになりました。
社会が変わると、必要なものが変わる
――1998年に情報産業グループ内の事業部に異動。ここではどのような仕事をしたのですか?
三菱商事の事業部は、社内では営業と呼ばれますが、商社ですから何を取り扱ってもいいんです。お金を貸してもいいし、投資をしてもいいし、他社の商品を見つけてきて売ってもいい。そんななか、私は、交通系料金徴収システムの海外向け営業開発を担当しました。
そのなかで思い出深いのは、スマートカードの海外向けの売り込みです。
スマートカードとは、一般的に「ICカード」と呼ばれるものです。今だとクレジットカードやカード型の電子マネーなど、ICチップが埋め込まれたカードのことです。
日本では2001年から、交通機関の乗車券ICカード「Suica」の使用をはじめました。
私の仕事はそれよりも前に、この交通系ICカードを海外の交通機関に普及させることでした。
当時インドで地下鉄のプロジェクトがあり、インドにもよく出張しました。とても懐かしい思い出です。
――スマートカードを取り扱うなかで、強く感じたことはなんですか?
当時のスマートカードの技術は、日本、アメリカ、ヨーロッパの戦いで、国際標準規格化を争っていました。
日本の技術はすごいけれど、それだけではビジネスにならないこともあります。
スマートカードでいうと、スマートカード技術の前に、磁気を活用した「磁気ストライプカード」というものがありました。
例えば切符です。黒くて厚みがありますよね。これが導入されていると、償却期間を迎えるまで次の新しい技術を導入できない、ということが起こります。
ところがIT後進国が、ある時からITを取り入れようとすると、最新技術を取り込むわけです。すると後進国が先に進んでしまう、なんてことが起きる。
日本が、ガラケーを目いっぱい開発してからスマホに移行する間に、海外ではガラケーをすっ飛ばしてスマホが普及したのと同じです。
日本の技術は細やかで丁寧です。
でもいいものを作ったからと言って、海外でも同じように売れるわけではない。
「社会が変わると、必要とされるものが変わる」ということを学びましたね。
バックオフィスがわかると会社全体が見渡せた
――その後、事業投資担当に。この後、2001年にはじめてグループ会社に出向されました。まずはどんなことをしたのですか?
担当している事業投資先のなかで苦しんでいた会社があり、立て直し策を練っていました。そこまで検討したなら自分で実行してこい、と出向になったのが、ビーウィズです。
ビーウィズはコンタクトセンターの設立・運営を行う会社です。
ビーウィズは苦しんでいましたが、顧客接点機能でもあり、顧客のニーズを分析して、商品開発やビジネス開発を行うマーケットは確実にある。そう確信していたので、増資の承認を取り付けて、私も出向することになったのです。
ところが増資の資金が入金するまでに2カ月の期間がある。この間、とにかくお金がなくて(笑)。
2カ月後に資金は入る、でもそれまでやっていくお金がない……色々な手を使って、とにかく必死で乗り切りました。
こんな工夫とやりくりを常に考え、日々実行していると思うと、中小企業の経営者や、個人事業主も一人親方も尊敬します。
ビーウィズにはトータル9年間出向しましたが、初期のお金のない期間も含めて、最初の管理部門の経験が大いに生きたと思います。
バックオフィスから会社全体がよく見えましたし、その後、フロントオフィスの営業や中二階の経営企画も経験して、成長する会社全体をいろいろな角度から見ることができたことは、自分の財産になっています。
伸びる時こそ脱皮する
――最終的に、出向する前から売り上げは50倍に伸ばしていますね。どんなことを考えて取り組まれたのですか?
社内の人材育成やOJTに、特に力を入れて取り組みました。
伸ばしたい時、伸びている時こそ脱皮しないといけません。生き物と同じく、脱皮する瞬間はリスクが伴うけれど、大事なものを捨ててでも変わらないと成長は見込めません。
この時強く意識してやっていたことです。
成長している時こそ苦しいのです。
ずっと成長痛を感じながら、大変つらく厳しい時期もありましたが、社員のおかげで自ら成長していくことができたのだと感謝しています。
事件は会議室で起きる
――社長はよく「事件は会議室で起きる」と仰ってますね。某映画に登場する名セリフ「事件は会議室で起きてるんじゃない。現場で起きてるんだ」と真逆ですが、どういった意味なのでしょうか?
会社の意思決定の場は、会議室です。
目の前の人にはもちろん誠実に対応するけれど、その後に、提案を会議室までどう持っていってもらうか、そして会議室ではどんなふうに捉えられたのか。
提案して満足するのではなく、案件を意思決定の場までコントロールして、会議室で何が起こっているのか把握する。
そう考えると、やるべきこと、必要な対応が見えてくると思うのです。
だから私の場合は、「事件は会議室で起きる」です(笑)。
現場が遠い。自分にはハンズオンが向いている
――2013年にアイ・ティ・フロンティアに出向、一度本社に戻り、2016年に再び、日本タタ・コンサルタンシー・サービシズ(日本TCS)となった同社に出向。この間はどんなことを考えていましたか?
アイ・ティ・フロンティアは、1,600人程の従業員に売上高も600億円近くあり、既に出来上がっていた会社でしたから、現場が遠く感じたことが印象に残っています。
経営企画ですので、事業計画を組織目標に落とし込んでそれをモニターする役目でしたが、この時改めて自分は、「ハンズオン」が好きなのだなと感じました。
経営計画に必要な数字も、先ほどお話ししたように“組織活動の結果”ですから。どんな活動でこの数字が出たのか、現場を自分の目で見て、経営するのが向いているなと思いました。
2014年に、インドITサービス大手のタタコンサルタンシーサービシズ(TCS)ほかとアイ・ティ・フロンティアが合併して日本TCSになり、再出向しましたが、この時も経営企画を任されました。
「またインド!」と思うかもしれませんが、たまたまですよ(笑)。インドにご縁があるんでしょうかね。
「社会貢献」への想いとこれまでの経験、すべてが繋がった
――2018年にMCデータプラスに出向、経営企画から社長に。社長ははじめての経験だと思いますが、就任時はどう感じましたか?
三菱商事内で行っていた事業を独立させたのがMCデータプラスです。
事業を立ち上げた一人が初代社長。私は二代目です。社長に指名されたときはうれしかったですね。
建設業は、住宅はもちろん、街づくりや橋や道路などのインフラ、災害の復興作業など、人々の暮らしを支える社会貢献度の高い仕事です。
海外出張によく行っていた時期に、日本はなんて安全な国なのだろうと実感したものです。海外ではたびたび起こる、建物の倒壊やトンネルの崩落は基本起こらない。
地震大国なのに、です。地震大国だから、研鑽を積んできたと言えるかもしれない。
日本の建設業は、世界に誇れる高い技術を持ち、人々の安心・安全を守る仕事なんですね。
入社当初からぼんやりと思っていた「社会貢献がしたい」という想いがここではっきりと繋がったなと思いました。
また、当社は現在、建設テックのクラウドソリューションで業界シェアNo.1です。将来性、ポテンシャルは大きい。このままやっていってもそれなりの結果は出るかもしれません。
しかし今が成長の時。脱皮の時だと確信しています。
そして、会社全体を見渡し、ハンズオンで経営することができます。
まさに私の今までの経験や、それに基づく考え、それらすべてが活かせる場だと思っています。
常に「社会」を凝視する
――MCデータプラスはまさに集大成の場なのですね。社長としてこれからどんなことを目指していきますか?
私は、お客様は神様ではないと思っています。崇める存在ではなく、横にいるパートナーであり、サポートさせていただく存在だと思う。
だから常にお客様に寄り添って、お客様に本当に必要なものを作り続けたいと思います。
社会や目線が変われば求められるものが変わる。
高い技術を誇っても、独りよがりでは意味がないんです。出来上がったものでも、変化させていかなくてはいけない。
また、社会を凝視していれば、人それぞれに課題が見えてくるはずです。
社員一人一人が見つけた、あらゆる角度から見た課題も共有してほしい。私だけの視点では限界がありますから。
そうやってMCデータプラス全員で見つけた一つ一つの社会課題を解決していきたいと考えています。
もちろん会社ですから利益を出さなくてはいけませんが、私は、社会に貢献すればその分の売り上げは立つと思っています。社会に価値を与えた分、適正な利益は得られると。
そのためにもお客様の声を聞き、社会をじっくり観察して、真の課題を解決していきたいですね。
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聞き手・文責:fukaya
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