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カート・ヴォネガット・ジュニア「タイタンの妖女」

特にSFが好きなわけではないが気になっていたカート・ヴォネガットの「タイタンの妖女」を読んだ。

ヴォネガット氏のユニークな文体に、「読者がついてこようがこなかろうが関係ない」といった明るい馬力みたいなものを感じて好感を持った。読み終わる頃にはスケールの大きさと、気持ちのいいばかばかしさが混ざった不思議な余韻が残った。

SFと風刺のブレンド、くだらないユーモアと皮肉。舞台は地球から火星やら水星やらに移ってとかなりSFなんだけど、戦争体験者のヴォネガットならではの「戦争とはこういうことだ」と感じさせる場面も出てくる。

重たいことも淡々と飄々とユーモアで語られていて、壮大なテーマでも子供に読み聞かせる紙芝居のような優しさがある。それをまるでポテチの袋に手を突っ込んで口にボリボリほうばりながら聴いているような、そんな楽しさがあった。

読んでいて、自由意志ってなんだろうと考えさせられた。なんなら日々はコントロールのきかない偶然や災難によって次へ次へと運ばれていくことが殆どなのかもしれない。そんでもって偶然は偶然ではなく必然なのかもしれないし、一見自分で物事を決めているようでも、実は何か大きなものによってそう決めるように持ってかれているだけなのかもしれない。たとえもしそうであっても、小さな意思決定が相互作用してお互いを巻き込んだり巻き込まれたり、必要としあったりする通い合いの中に、地上の幸せってあるのかもしれない。

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