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【570/1096】白か黒ではなくてグレー

ここのところ、事件のドキュメント的な本を続けざまに読んでいたのだが、昨日の夜から今日にかけて一気に読んだ「母という呪縛 娘という牢獄」は衝撃だった。

2018年に実際に起きた事件を取材して書いたもの。
教育虐待を受けていた娘が、追い詰められて母を殺害し、バラバラにして捨てた事件。
何が衝撃だったって、読みながら、「この娘は、私だ。」という想いがとまらなかったところ。
私は親に実際に手を出したことはないが、この娘の思考経路がとても似通っていて、この娘の言動が手に取るようにわかる。一方で母親の言動は不可思議で、理由がわからない。
逮捕され、裁判の中で差し伸べられた助けが、もっと早くにこの人(と母)に届いていたら、と思わずにはいられなかった。助けを求める、というのは能力なのだ、やはり。なにもなしにできるようにならない。

私にとって、この娘に共感するのはたやすいが、この母親に共感するには相当の胆力がいる。
が、事件が起こった当時は、この母親に共感する気は1ミリも起きなかった。好きになることは永遠にないだろうが、この人の背景を考えることはできるというところまではきたのだなと、思う。

その前に読んだのが、「仮面の家」

これは自分の高校の時の先生が起こした事件のルポタージュで、その当時にも読んだけど、今読んだら違うのではないか?と思って読んだ。
たしかに違った。

母という呪縛~も、仮面の家も、白でなければ黒、黒でなければ白でなければいけない。そのどちらか。グレーなどあり得ないという世界の中で起きた事件だと思った。

「あなたは常に二択なんですね」と言われるほどものごとにはっきり白黒をつけないと気が済まない性格だが、ときにはグレーなことをグレーのままで受け入れなければならない場合もある。白黒はっきりつかないこともある。

「母という呪縛 娘という牢獄」より

とあったが、これを読んだ時、「性格」ではないだろう、と思った。そうしなければならない、それしかない環境だったからそういう思考しかないだけだ。

そして、もう一冊。
吉本ばななさんが読んだと書いていて、気になって手に取った、こちらは事件をベースにした小説。

本人が書いた手記もあるらしいが、そちらを読むとこの小説が「牧歌的に感じる」とばななさんは書いていた。
小説を読んで、これが牧歌的に感じるという手記は読まないほうがいいだろう・・・と思ってやめた。
私的には、この事件当事者に共感するのが、もっとも難しいかもしれない、と思った。共感したくないという拒否感のほうが強くなるという感じ。正直、読み進めるのもつらかった。つらいというのは気持ちがつらくなるというよりも、もう読まなくていいのではないかという重さがでて。
読み終わった時は靄がかかっているようなグレーさがあるような気がしたが、これも白か黒かの世界で起きた事件だろう。

白か黒ではないグレーを許容するというのは、性格ではなく能力である。能力だから、あとから身につけることができる。技術として身につけることは不可能ではない。
白か黒で生きるのは苦しく、窮屈で、息がつまる。

では、また。


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