見出し画像

結局私たちは「愛を貫く」ために生きているのかもしれない~「こんなにも優しい、世界の終わりかた」読了~

世界が終わるとしたら、どうする?まるでありがちな質問。

世界終末を描いた映画は結構全米が泣きがちで、出てくる人々は泣き叫びがち。ビルから何から倒壊しがち。映画館でその音声技術がいかんなく発揮され、最近では4DXとかでも楽しめるような。何かが襲来したり、落下物を爆破したりゾンビが増殖したり。そしてそれを防ぐために、世界を救う尊い犠牲とその家族の物語。…最後若干ふざけたけど、それが私たちのイメージする、世界の終わりの物語。

だけど、この物語は爆発も起きないし尊く世界の犠牲になる家族もいない。そこにいるのは、ただ愛する人に会いに行く、そんな約束を果たしたい1人の虚弱児界の不器用なスーパーマンだ。

この物語のテーマは「愛」

この世界では、突然降り注ぐ青い光や青い霧に当たったら、凍り付いてしまって2度と目覚めない。
そんななか、24歳の彼は、14歳のころに出会った彼女に、その身一つ、自分の足で会いに行く。「会いに行くから」と交わした約束を守るため、500キロにも及ぶその距離を、いつ来るともしれぬ青い光と青い霧を避けながら、長い長い旅をする。

旅の途中で、彼は様々な人と出会う。幼いころから知る妻と世界の最後を待つ老人や、昔傷付けた愛する女性に今度こそ謝って一緒に時間を過ごしたい元「ちんぴら」、過去の自分を許してほしい一心で妻を背負って旅をする男性--彼らには後悔と、「今度こそ自分の愛情に素直になりたい」という思いがあふれ、愛を全うしようと行動している。

愛に生きる彼らは優しい。見栄とか虚栄心とか、そんなものに振り回されて大切なものを失って後悔した彼らは、それがもう意味をなさないことを知っている。互いに「心に決めた愛を貫く」という同じ目標を持つ同志として、彼らは束の間の寄り添いであっても、互いに友愛を紡いでいく。

時間は有限。無駄なことにかまけず、シンプルに自分の愛情を貫け。

愛は人にスーパーマンの如き力をくれる。

それがこの物語の強いメッセージだ。まるで非日常で、徹頭徹尾「愛」と「優しさ」、世界の片隅の、取るに足らないアウトサイダーたちのできごと、浮世離れのようにふわふわとしたこの物語の解説にて、作家の彩瀬まるさんはこう締めくくっている。

(略)ぼくが際立って不器用だったわけではなく、誰しも初めての愛に出会った時は、世界の一つや二つ砕けないと踏み切れないほどの尊さと犯しがたさを感じたのではないだろうか。こんなに甘酸っぱく豊かな感覚は、滅多に想起されるものではない。本作が近年稀に見る、極めて純度の高い恋愛小説であることの証明だろう。
 本を閉じた後、私たちはこの物語がけっして現実からかけ離れた夢物語ではないことを思い知る。明日、私やあなたが生きている保証なんてどこにもないのだ。今この瞬間にすべてが停止したってかまわない、そう言い切れる境地に辿り着くまで、勇気をもって走らなければならない。交わした約束を果たさなければならない。
 いつか必ず誰の頭上にも、青い光は降り注ぐ。

ご時世的な話をすれば、今まで当たり前だったものが、いつぷつん、と世の中と隔絶されてもおかしくない。それでなくとも、死はいつでも私たちと隣り合わせだ。志賀直哉は「城崎にて」で、生きているのも死んでいるのも「偶然」「運が良かっただけ」みたいなことを言っている。

今この瞬間、どれだけまっすぐ人を愛せているだろうか。見栄やプライド、コンプレックス、人様の事情や体面、それらにふりまわされることなく、どれだけ愛せているだろうか。


きれいごとの話かもしれない。優しくない世界で、優しいってバカをみるのかもしれない。実際、この話のもう1つのテーマは「優しさ」だと思うけど、この「優しさ」は彼と彼女を苦しめる1つの要因でもある。

恋愛、友愛、家族愛、親愛…いろんな愛情がある。
生きていればいろいろあるけど、それでも、世界の終わりに焦って命がけで会いに行かなくてもいいように、日ごろから自分の持つ愛に正直でいたいと思った。


おしまい。


文庫もあるよ。


余談①500キロは東京ー大阪間くらいらしい。

余談②noteのキャッチアップの写真は、この話のキーになる「星空」「夕焼け」がいい感じに融合していて見つけた瞬間ひとめぼれ。

余談③彼女は白河さんというのだけど、彼女の母親(以下白河ママ)、実は私は途中でとても腹が立った。「お前が変な意地張るから娘がこんなことになってるんだろー!!」「古き良き意地張る系か!!」と。最後にはそこもちゃんと解消されるのだけど、このママのモテっぷりに、「きっとママはただの美人ではない。雰囲気ある美人に違いない。きっと。」と思った。ただの古き良き意地張る系女子はモテない。(偏見)守りたい欲も掻き立てるこの美人ママ、「斉藤由貴か木村多江か」みたいな、ここだけものすごく雰囲気に合わない俗なことを考えてしまったことを、ここに告白する

ほんとのおしまい。


この記事が参加している募集

#読書感想文

191,569件

よろしければサポートお願いします!いただいたサポートは、誰かに「らびゅ~♡」で還元します。人間的におもしろくなりたい。Twitterもやってます。