夢がないヤツがダメ人間なんて、そんなのだれが決めたんだ~「銀の匙」を読んで

なにか有意義なことがしたいし学びたい。そんな思いが空回りして、結局何もできていない気がして、気疲れして……自己肯定感だけが下がりまくる中、「達成した!!」経験が欲しくて漫画を読破することにした

行動量が足りないとか、コミットしていないと言われればそれまでだが、いかんせん目に見える達成感が欲しかった。

「銀の匙(さじ)」を手に取ったのは、まぁ、偶然だ。現在手元にある5巻までを一気に読み、ボロボロ泣いた

銀の匙とは、北海道は「大蝦夷農業高校」通称「エゾノー」を舞台にした、畜産をテーマにした漫画だ。主人公は、「八軒勇吾」。表紙の彼である。



実家が農家で、家を継ぐとか、それぞれに自分の将来の目標を持った同級生が多い中、家族とうまくいっていない八軒は「家を出たい」という理由で寮があるこの高校を選んだ。中学が進学校で、勉強に対する猛烈なプレッシャーで生きてきた八軒は、「ここなら1位でいられる」と思っていた。

が、実習はあるわ、朝は早いわ、体力勝負だわ、鶏は肛門(総排泄肛)から卵を産むと分かって「ウ〇コじゃん!!」と卵が食べたくなくなるわ…未知との遭遇のラッシュに、これまでの価値観はぐわんぐわんと揺さぶられる


「なんだ、この、『夢持ってなきゃダメ人間』みたいな空気は…」

だが、エゾノーの生活で、畜産動物が常に「生と死」となり合わせで生きるシビアな世界を知る。そして、これまで「勉強一筋」で生きてきた人生観も、どんどん広がっていく。

5巻まででも様々なグっとくる展開はたくさんあるのだが、あえて挙げるなら

〇八軒、ピザを作る

〇八軒と豚丼

この2つはやっぱりその後にも大きく展開してくるので、外すことはできない。ちなみに、上記は勝手に私が命名したエピソードタイトルだが、ちょっと語らせてほしい。

①八軒、ピザを作る

元々八軒、非常にまじめな性格だ。斜に構えているところはあるし、昔の「劣等生」トラウマのためにずぶずぶと沼にはまり込んでしまうところはあるのだが、困っている人を放っておけない。頼まれると断れない。

ゴミ拾いの最中に見つけた「石窯」。エゾノー生はデリバリー格差でピザはレア食。「食べたい!!」「でもお前(八軒)しかマトモに食べたことがない!!」「八軒、よろしく!!!」そんなこんなで背負い込んだピザ係。

小麦粉、野菜、肉、チーズ……材料費どうなる?え?石窯整備もいる…と悩む八軒に、同室・西川(農業科)から、エゾノーの農場で規格外野菜などを調達すればいい、という助言をもらったことから、「八軒ピザプロジェクト」は様々な人を巻き込んで進み始める…!!


「お人よし過ぎて損するタイプ」と言われながら、食品加工科の先輩にはお肉を調達してもらい、チーズに興味があるクラスメイト吉野はチーズのことをしてくれて、土木課の先輩は石窯直してくれて、薪は森林科学科が用立ててくれて……「ピザ、食わしてくれよな!!」といろんな人を結果として巻き込んでいく八軒の姿に、素直に泣ける。


「この前、お前助けてくれたから」って協力してくれる人がすごく多くて、「いい人のところに人は集まるし、いろんなことは繋がっていくんだ」と思えるし、初めての挑戦に対して、様々な人が自分にできることで力を貸してくれるのが本当に温かい

中学の頃の八軒は、「何かにならなきゃいけない」という呪文にガチガチに縛られて、「どんな人間になりたいか」がすっぽり抜けていたように思います。

このセリフが、実は自分の中で今すごく大きくて。ただじたばたして、自分に縛りをかけて「こんな過ごし方じゃダメ」「こんなんじゃダメ」としんどくなった自分に、言われている気がした。

だから、勉強一筋の八軒が、その勉強力で一生懸命ピザを達成しようとがんばった集大成の最後のピザパーティーは、もう笑いながら涙が出たよね…!!

八軒としても大きな出来事だったと思うし、このピザ問題、エゾノー的にもすごく大きくて、5巻の最後でネタのように出てくるから、八軒偉大(笑)


②八軒と豚丼

この「豚丼」エピソードは、1巻から4巻まで、随所随所で出てきて続いていく、「縦軸」なエピソードだ。いわゆる「食育」。

1匹の子ブタに感情移入した八軒が、その子ブタに名前をつけるところから始まる。いずれ肉になる子ブタに名前をつけると、情が移ってしまう。そんなところから、「せめて食べ物の名前にしたら…」とついた名前、「豚丼」。


思い入れのある「豚丼」。お前は、食べられるのか?


八軒がずーっと考えて、モヤモヤして、周りに意見をぶつけて、周りもそれにまじめに返して。農家育ちからすると、当たり前だったことが、サラリーマン家庭の八軒のフィルターで、改めて考え直すきっかけになったりして、相乗効果が生まれていて。それでも、そんな風に周りが返すのは、それまで何事にもまっすぐ向き合ってきた八軒を知っているからで。


いろんな経験をして、4巻で八軒が出す答えと行動が、本当に予想外だったし、「そこが繋がるんだ!?」と意表をつかれながらも、本当にいいシーンだった。

その選択の結果が、その後にもやっぱり繋がっているのもよかった。3年生の先輩方が来るのも、なんか微笑ましかったし。

このエピソードは、「食育」のみならず、これまで自分が当たり前だった価値観を「本当にそうなのか?」って、みんなが悩んで共有して、それを誰1人ばかにしないで向き合っている。

間違ってるかもしれない。それでもとにかく答えを出そうともがくことを、みんなが手を貸して、そして少しずつ、変わっていく。「1つじゃない答え」を出そうともがき続ける。

今、モヤモヤしているから。

「何になりたいんだ」「何がしたいんだ」ってわけわかんないままずーーーっととにかく「何かしなきゃ」で、中途半端なことしてるって、思ってるから、すごく八軒が響くんだろうな、と個人的には思っている。だからこそ、八軒のように、悩む時にはとことん悩んで向き合って、とにかく、目の前のことに一生懸命になろう。先入観を持たず、縛りをかけず、興味を持ったことには挑戦していこう。そう思った。


基本八軒、ボケだしツッコミだし、ゆるいノリの漫画でもあるから、本当に、いいなぁ。


最後に、響いた言葉を、引用しておく。


1回失敗したくらいで、「俺なんか」なんて言っちゃダメよ。


もやもやウロウロしてるってことは、出口を探し続けてるってことだ。思考停止じゃない。
そうやって、身をもって体験して自分で出口をみつけないと本当の血肉にならないだろ。
なんとなくはじめたことでも、続けていると欲が出る。
勝ちたいとか、かっこよく乗りたいとか、そんなことを考えてしまう。

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