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『イニシェリン島の精霊』を観て

片一方が絶交宣言し、おじさん2人が仲違い。昨日まで親友だったのに。なぜ? その意図は? 修復を望むパードリック(コリン・ファレル)と、頑なにNOの姿勢を貫くコルム(ブレンダン・グリーソン)。彼らの諍いが行き着く先とは——。


簡単に言ってしまえば、おじさん2人の喧嘩の話。とても喧嘩という言葉ではおさまらない行き過ぎたものではあるのだが……。

そんなおじさん2人の喧嘩話が、退屈ではなく、むしろ作品として楽しむことができたのは、フッと笑える台詞の応酬や、見応えのある演技、何かありそうと思わせる音楽や演出の賜物だろう。

2人の諍いはやがて周りを巻き込み、次第にエスカレートしていく。彼らの争いのように、イニシェリン島の対岸では内戦が起きている。やがて観るものは、それぞれの争いは、写し鏡のようでもあると気がつくはずだ。

物語が進むにつれ、「どう終わるんだろう?」という謎が深まっていく。実際に迎えた結末は予定調和ではないもので、かといって突拍子のないものでもない。「そう終わるのかぁ」と心の中で呟くと同時に、「でも、そうだよね」とも思うのだった。

人と人との関係は難しい。きっといつの時代も容易ではない。長年親友のように付き合っていても、もしかしたら思い込みかもしれない。どちらか一方が溝を感じていることって本当によくあることだ。

一方的に絶交宣言され、戸惑い、やがて変わっていくコリン・ファレルの演技と、ブレンダン・グリーソンの一体なにを考えているのかわからない狂気じみた人物描写は素晴らしい。話題作への出演が続くバリー・コーガンも、なんだか目が離せない役どころであった。

邦題でいう"精霊"、原題だと"Banshees"という部分は、映画だけではなかなか解釈しにくい。パンフレットやインタビューを読むとちょっと分かるので、気になる方はぜひ目を通してみてほしい。


個人的に数ヶ月前に観た『LAMB/ラム』の影響か、動物たちをドキドキしながら見つめてしまった。だが、それは杞憂に終わった。今作の動物たちは愛らしい。私はこの映画のおかげでロバの可愛さを知ることができた。可愛い可愛いロバ、ジェニーちゃんの名演技にも注目である。

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