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『ルイス・ウェイン 生涯愛した妻とネコ』を観て

(昨年末に観たのですが、あまりにも良かったので……今更だけど書きました。)

特殊メイクで年老いた姿になっているベネディクト・カンバーバッチ。冒頭、セリフもないこのシーンで、私はあっという間に映画の中に引き込まれた。そう、ベネディクト・カンバーバッチにはセリフがなくとも佇まいや視線だけで、観客を物語の中に連れて行ってしまう力があるのだ。

『ルイス・ウェイン 生涯愛した妻とネコ』は、猫の魅力を初めて発見し、初めて猫をペットとして飼ったと言われるルイス・ウェインの生涯を描き、ベネディクト・カンバーバッチが実在する猫画家ルイス・ウェインを演じた。⁡

妻を愛し、猫を愛したルイス・ウェイン。科学に興味があり、好奇心旺盛で変わり者。もともと猫画家ではなかったルイスは、なぜ猫画家になったのか? 妻エミリーとの出会いと、彼女と過ごした尊い時間。長男として一家を養わなければならなかったルイスと家族問題。次々に起こる不幸。メンタルヘルスとの闘い。そして晩年。大きく描かれるのは、愛、悲しみ、メンタルヘルス問題。

悲しみや苦悩を多く描いている一方で、この映画は差し込む光があまりにも穏やかで輝かしい。それは、まるでおとぎ話の世界のようでもあり、絵本や絵画のようでもある。息をのむほど神秘的で美しい一瞬が何度も訪れ、その度、シーンとの親和性で涙が出そうになる。

反対に、不幸にのみ込まれ悲しみに暮れるルイスの姿は、ベネディクト・カンバーバッチの繊細な演技によって心がぎゅうっと締め付けられる。

メンタルヘルス問題の描き方は難しい。それが実在する人物であれば尚のことであろう。本人にしかわからない苦しみと、本人しか見えないものがあるからだ。しかし今作は、メンタルヘルス問題をじつにユニークに描いているように思える。不思議で狂気を感じるのに、なぜかユーモアにも見える演出に目を奪われる。やがて観る者は、なんだかルイス・ウェインを表しているようだとも思えてくる。

この映画は、ルイス・ウェインという人物に思いを馳せつつも、生きづらさを感じている人や、メンタルヘルス問題を抱える人のことも考えたくなる映画だった。

ベネディクト・カンバーバッチは、劇中で実際に絵を描いている。両手を使い、2本のペンを持ってものすごいスピードで描くという、その難しい筆の運びまで役作りでこなしてしまうのだから凄い。

長男としてのルイス、妻との時間を過ごす穏やかな表情、画家としての姿、精神の不調に苦しむ様子、老いてから。ベネディクト・カンバーバッチはそれぞれの異なる一面を、細やかな演技で魅せてくれた。その天才的な演技にもぜひ注目してほしい。

⁡原題は『The Electrical Life of Louis Wain』。観る前はなぜ「Electrical」という単語がタイトルに含まれているのか不思議だったが、その謎は観れば分かる。

最後にパンフレット好きとして言及させてください。あまりにも素敵で、買うとき胸が躍ったパンフレット。一冊の本のようなデザイン。粋だなぁ。言わずもがな中身も素敵でした。

大島依提亜さんデザイン


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